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2019年4月5日(金)第4,710回 例会

『ハゲタカ』作家がみるカンサイ

真 山    仁 氏

小説家 真 山    仁 

1962年大阪府生まれ。同志社大学卒業。新聞記者,フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。07年に同作と『ハゲタカ2』を原作とするNHK土曜ドラマが放映され話題に。 TV朝日でも昨年再ドラマ化。同シリーズのほか東日本大震災被災地の小学校を舞台にした『そして,星の輝く夜がくる』『海は見えるか』,東京地検特捜部の冨永検事シリーズ『売国』『標的』,日本の財政破綻問題を描いた『オペレーションZ』など著書多数。「ルソンの壺」キャスターとしても活躍中。

 大阪RCでお話しできることを大変光栄に思います。私がずっと小説で大事にしているのは,常識を疑う,固定観念をぬぐって違う角度からものをみましょうということです。

「カンサイ」は1つじゃない

 私は大阪生まれですが,関西人のイメージをほとんど持たれていません。東京で働いていて,大阪や関西に対するイメージがすごくずれている,関西人自身セルフイメージが抱けてないと思うことがあります。東京の人の大阪イメージは「お笑いのまちで,お好み焼きとたこ焼き,阪神タイガース,太閤秀吉」。私,全部違うと思います。
 話にオチをつけるのは大阪ならではですが,お笑いはそもそもコミュニケーションの入り口として持っているだけ。テレビドラマ「ハゲタカ」では鷲津は元銀行マンの設定でしたが,原作では船場生まれです。ジャズピアノでニューヨーク修業をしたがダメだったので,祖父に手ほどきを受けた船場の商売を上手に使おうと,ユダヤ人が多い金融業界で頭角を現した。執筆の参考に「ユダヤの商法」なる本を買いましたが,「ユダヤのビジネスマンは最初に笑いをとって,相手の懐の中に入り,そこから仕事の話をする」と書いてあったので,読んだ瞬間に本を捨てました。それは船場のやり方と同じ。すでに身についている。
 家にたこ焼き器があると不思議がる東京の人たちは,自分たちができないことは全部奇妙だと思っている。子どもでも焼けるのに。「六甲おろし」は歌えますが,私は子どもの頃から巨人ファン。関西にもちゃんと巨人ファンがいる。一番嫌なのが太閤秀吉。あの人は名古屋の人やで。こう言うと大阪では嫌われますが,常識を疑おうということです。
 次に「カンサイ」という言葉です。「関西」の定義はどこ?JR「三都物語」を関西の象徴だと,非関西の人は思っていますが,この3都市ほど憎み合っているまちはない(笑)。うちの事務所に京都と神戸の出身者がいて,よくこんな話になります。「ずうずうしいから大阪は嫌い」「そんなんやから神戸はあかんのや」「京都ほんまケチ。腹立つわ」。いろいろ違うのに,関西は1つにならなあかんと思っている。でも現実問題,1つになるべきなのか。我々は自分たちからそれぞれの魅力を発信していかなきゃいけないんじゃないのか。

大阪の魅力は“損して得取る”技術

 では大阪の魅力とは何か。損してもええから,親近感とコミュニケーションを上手に使ってネットワークを広げること。恐らく大阪の一番強い技術だと思います。損して得取れは常識です。もう1つは,生きた金の使い方が本来すごく上手なまちだということ。すぐに経済的合理性で判断する東京の人にはできない。日本経済悪化の最大の理由は,3ヵ月に一度の決算です。長いスパンで経営をみて,その間に利益が上がれば1,2年損してもええわっていうのが,本来の日本の経営でした。それを,グローバルスタンダードでどんどん変えてきた。製造業が少ないアメリカでは簡単だが,製造業で四半期決算はしんどい。大阪には大阪の,日本には日本のやり方があると言えなかった。世界で最初の先物取引,米相場をやったのは大阪です。シカゴより早い。グローバルスタンダードを捨てて,もっとウェットで,もっと情のある投資やビジネスを大阪が率先してすべきだと思っています。
 さらに大阪は,文化・芸術に関しての造詣がやはり圧倒的です。道頓堀がなければ歌舞伎も文楽も生まれなかった。西鶴や近松がいなければ日本の小説は多分どこかで止まっていた。最近の出版社は二言目には「金がない」と言うが,そもそも出版も新聞も,金をもうけたオーナーが「ちょっと世の中のことを言わなあかん」「もっといい小説やノンフィクションを読みたい」と,損しても金を払う業界でした。「タニマチ」という言葉を作った大阪で,そろそろ出版やメディアの再編成があってもいいと思います。
 もう1つ。権力が非常に嫌い。もともと反権力志向だったはずが,権力志向になっている。残念なのが,本社を東京に移す企業が増えていること。理由を聞くと,距離だと言う。東京にいないと乗り遅れてしまうと思っている。私は逆に東京との距離こそが,本当は大阪の武器だと思います。

外からの目生かすプロデューサーが必要

 では大阪は,どうしたらいいのか。
 まず,東京と比べるのはやめましょう。政治や面倒なことは全部,東京でやってもらい,大阪はマイペースでやりたいようにやればいい。長い歴史をみて私は,東京はアメリカで,大阪をはじめとする京阪神はヨーロッパだと思っています。培ってきたDNAをもっと有効に使うことが,本来の大阪のあるべき姿。独自のよさ,強みを探すと,意外に足元にあると思います。グーグルやアマゾンは町工場の休眠特許を調べて軍事に使おうとしている。強みを違う角度からみると,どう使えるのか。身内ではなかなかみえません。外の人にみてもらえる環境を作り,交流していく。大阪で増やすべきは「プロデューサー」です。
 もう1つは,アジアとの関係性。今の日本はアメリカ偏重がひどいが,これから100年,世界を回すのは絶対にアジアです。最近の若い世代はSNSで外国人の友達をそれなりに持ち,圧倒的にアジア人が多い。我々40代後半以上はまだアジアは遅れていると思っているが,現実に若い人たちはどんどん手を結ぼうとしている。そのパイプをもっと太くしてあげることがとても大事になると思います。
 最後に,ぜひ関西がやるべきは,本物の文化人を育てることです。育てるには厳しい目が必要です。文句言いが人を育てます。じっくり鍛えて育てるのは,東京と速度が違う大阪のほうが絶対やれると思います。