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2021年10月1日(金)第4,805回 例会

骨粗鬆症の予防

方   軻 さん

2021学年度米山奨学生 方   軻 さん
(ホウ カ)

1987年中国浙江省紹興市生まれ。2010年浙江省杭州市・浙江中医薬大学鍼灸医学科卒業。江蘇省無錫市睡眠時無呼吸症候群治療センター,上海市日中医療市場調査部で働いた経験あり。’18年 関西医科大学大学院衛生・公衆衛生学講座入学(骨粗鬆症の予防及び治療の基礎研究の専攻)。2660地区米山記念奨学生として’21年4月~’22年3月末当クラブ受入れ。

 私は紹興酒で有名な中国浙江省紹興市の出身で,現在は関西医科大学大学院衛生・公衆衛生学講座の4年生です。紹興酒は調味料として使うときもあり,肉を調理するときに醤油と一緒に入れるととてもおいしいのでぜひ試してください。2005年に浙江中医薬大学に入学し,鍼灸医学を勉強しました。鍼灸医学は,東洋医学と西洋医学,両方を学ぶ必要があります。’10年に卒業し,上海などで業務にあたった後の’17年,家族と一緒に日本に来ました。日本語を勉強していますが,とても難しいですね。研究の内容は,骨粗鬆症の予防と治療の基礎研究です。

骨折の発生率が2倍に

 私の研究は,骨粗鬆症のマウスを使って,骨吸収の役割がある「破骨細胞」を調べることです。この細胞は,骨の破壊と吸収を行います。破骨細胞が分化する際に働く様々な遺伝子を調べ,漢方薬から抽出した成分がどの遺伝子を抑制する作用があるかを確かめる研究を進めています。今年9月,日本の漢方研究会に参加して,「漢方薬の破骨細胞に対する抑制作用の検討」を発表しました。12月には日本分子生物学会での発表も予定しています。
 骨粗鬆症について,簡単に説明します。骨折の発生率を推計した調査では,アジアの男性は’10年と比較して’40年には2倍に,女性は2倍以上に増加します。骨粗鬆症は大体55歳から発症しますが,最初は自覚症状がありません。徐々に骨密度が下がり,骨折のリスクが上がります。最も骨折しやすい箇所は大腿骨の股関節です。治療も難しく,回復までの時間もかかります。股関節の骨折は日本だけでなく世界的に増えています。

女性ホルモンの減少で症状進む

 骨の中には,骨芽細胞と破骨細胞の2つの細胞があり,骨芽細胞には骨形成の作用,破骨細胞には骨吸収の作用があります。この2つの細胞は通常,同時に働いてバランスが取れています。しかしバランスが崩れて破骨細胞の骨吸収が増えてくると,骨粗鬆症が進みます。
 更年期になると,特に女性は女性ホルモンのエストロゲンが急速に減少します。エストロゲンは骨芽細胞を増やすため,このホルモンが減少すると,バランスが崩れて骨芽細胞が働かなくなり,骨が壊れていきます。閉経して10年,20年が過ぎると,骨粗鬆症が発症しやすくなります。
 骨粗鬆症は何の症状もなく,長時間かけて進みます。ではどんな予防や治療があるでしょうか。一番有名な方法はホルモン補充療法ですが,薬の使用期間が長期にわたり,様々な副作用も出てきます。例えば乳がんや子宮内膜がんのリスクが高まります。循環器疾患の副作用のリスクが高い別の治療薬や,毎月の注射が必要な抗体薬もあります。毎月注射するのはしんどいですね。
 それではどんな薬が一番いいのでしょうか。例えば,長く使用できて副作用がほとんどないもの,注射などではなく便利に使えるもの,臭くなくて味がいいもの,そんな新しい薬がほしいと考えています。

漢方薬の抽出成分で目指す新たな治療

 そういった薬が自然から得られたらどうでしょう。例えば,食事で魚や豆腐などを毎日摂取する方法もありますが,年齢が上がると消化吸収能力が低くなります。体にいいハーブや漢方薬も,肝臓や腎臓の機能に影響を与える可能性があります。それでは,ハーブや漢方薬から成分を抽出したらどうだということで,様々な研究が盛んになっています。
 例えば,漢方薬に用いられる「冬虫夏草」にはいろいろな作用があります。免疫増強作用や抗腫瘍作用,抗菌作用のほか,中国では,気管治療の後にも使います。ところが,冬虫夏草の消化吸収率はとても低く,大体10%ぐらいでしょうか。
 一方,冬虫夏草から成分を抽出したものは,消化吸収率が上がります。これは基礎研究のデータですが,冬虫夏草の抽出成分を骨粗鬆症のラットに投与した実験結果をお示します。毎日アルコールを投与したラットの大腿骨は骨量の半分ぐらいが壊れましたが,アルコールと冬虫夏草の抽出成分を一緒に投与したラットの骨量や骨密度は,健康なラットとほとんど変わりませんでした。
 なぜ冬虫夏草の抽出成分が骨粗鬆症を予防できるのかと調べたところ,骨芽細胞を増やすことがわかりました。破骨細胞を調べたデータはまだありません。
 女性の閉経後の骨粗鬆症の予防には,多くの人がホルモン補充療法を選んでいますが,先ほど説明した通り,乳がんや子宮内膜がんなどの発生リスクが高くなります。その理由として,αとβという2タイプあるエストロゲンの受容体のうち,α受容体が活性化すると乳がんを誘導する一方,β受容体の活性は骨芽細胞の分化を促進することがわかってきました。
 私たちが’18年に出した論文のデータでは,漢方薬の抽出成分である「温経湯」や「加味逍遥散」は,エストロゲンのような作用をしますが,α受容体の活性が少なく,β受容体を強く活性化します。
 とはいえ,この抽出成分が本当に骨粗鬆症を予防できるかは,メカニズムを解明する研究を続ける必要があります。
 私の希望は骨粗鬆症の新しい薬を開発することです。長い治療期間でも副作用がほとんどなく,使いやすく,味がいいものです。いろいろな抽出成分が骨芽細胞,破骨細胞のどちらの細胞に働くのか,両方に働くのかなどの研究を進めていきます。いろいろな研究上の課題もあります。頑張ります。
(スライドとともに)