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2021年3月19日(金)第4,782回 例会

「私の履歴書」より

大 坪  清 君(紙工業)

会 員 大 坪  清  (紙工業)

1939年生まれ。’62年神戸大学経済学部卒業,同年住友商事(株)入社。常務取締役繊維本部長,常務取締役欧州総支配人,欧州住友商事株式会社社長,取締役副社長を経て,2000年6月レンゴー(株)代表取締役社長に就任。代表取締役会長兼社長を経て,’20年代表取締役会長兼CEOに就任,現在に至る。日本製紙連合会副会長,全国段ボール工業組合連合会理事長,関西生産性本部会長,関西経済連合会副会長等,業界,経済界の団体役員を務める。
2000年10月当クラブ入会。’06~’07年度理事・職業奉仕委員長,’11~’12プログラム委員長。

 2020年の3月,日本経済新聞で「私の履歴書」を1ヵ月間連載しました。反響が大きくて三百数十通のお手紙をいただき,「早く単行本にしなさい」ということで,いろいろ書き足して単行本「『情』の経営に『理(ことわり)』あり」を仕上げたのは昨年の11月でした。
 思ったよりも評判が良くて増刷すると聞いていますけれども,海外で英語版が出て,中国版もつくることになったようです。ただし,私の懐に印税は一銭も入らないシステムで,社会に寄付できる形にしております。

東日本大震災と「公益資本主義」

 この本の話の前に,ちょうど10年前の3月11日に東日本大震災が起こった時の話を申し上げます。仙台市宮城野区にあった私の会社の仙台工場が完全に流されました。私は1週間後にそこへ飛んで,ここではもう復活できない,すぐに土地を探せということで,宮城県大和町のトヨタの工場の隣にたまたま2万坪空いていたので直ちに買いました。
 今度は骨材がない,セメントがない。当時,鹿島の社長だった中村満義さんに私が電話して,「とにかく1年以内に工場を完成させたい」と。住友セメントにも私が連絡しました。翌年3月15日に工場のオープンニング披露をしました。この日は私の誕生日。散り散りになっていた従業員120人は全部呼び戻して,「一心の塔」というモニュメントを工場の前に建てました。
 この「一心の塔」とは何かというと,毛利元就が吉田郡山城をつくる時に,人柱の代わりに「百万一心」と刻んだ石碑を埋めた。それが今も残っていますが,年がたって「百」が「一日」,「万」が「一力」と読めて,「一日一力一心」となります。全員が心を一つにすると同時に,一人ひとりが日々自分の力を出していこうという気持ちを込めました。
 この新工場は東北地区では多分一番の利益が出る工場になっている。そういうふうに社会に貢献するというスタイルの経営をすれば,それなりのリターンは出てくる。
 江崎グリコさんの社外役員の原丈人氏,私は前からつき合いがあるんですが,彼は「公益資本主義」ということを言っている。社会に貢献する企業でなければならないということです。ステークホルダーとして株主だけを重視すると,いわゆるカジノキャピタリズムに走る可能性があるんです。公益を考える形の企業経営に切り替えていかなければならないと,ずっと私は言い続けているんです。
 そういう経営は短期間のトップではできない。私は2000年から’20年まで社長をやっていましたし,万国博覧会までは代表権のある会長兼CEOを続けていこうと思っています。江崎グリコが非常に調子のいいのも,江崎さんが長い間社長をやっているからです。

座右の銘は「有道得財」

 そういう会社のあり方についても,ボチボチ日本全体が考えなければならないと思っています。それがこの本の題の「『情』の経営に『理』あり」です。私の座右の銘は「有道得財和気生財」です。「財を得るには『道』がある」ということなんです。
 1980年代,私が広州交易会に行ったときに「有道得財」という掛け軸を見つけました。買って帰って当時の住友商事の経営陣に見せたら,「この掛け軸くれ」,「いや,ダメです」と。なぜ「くれ」と言われたかというと,住友の事業精神に「君子財を愛す,これを取るに道有り」というのがあるからです。
 「時勢の変遷,理財の得失を計り,弛張興廃することあるべしと雖も,苟(いやしく)も浮利に趨(はし)り,軽進すべからず」,これが住友の基本的な考え方です。私が持って帰ってきた「有道得財」とは非常に相通ずるものがある。今も私の会長室にこの掛軸があります。そういうことを念頭に置いて,私は会社を経営しているわけです。
 日経新聞の連載小説に,「ミチクサ先生」と題する夏目漱石の伝記が載っています。私は今回の本の書き出しで,私の経営スタイルについて「そのスタイルゆえ,例えば,知に働けば角が立ち,情に棹させば流されたり,また,意地を通して窮屈な思いをしたりすることもあった。しかし,実際,草を枕にしてみると必ずしも住みにくいものではなく,『森羅万象,万物の動きは因縁より生ず』という真理を発見したような思いが強くなり,因縁と因果による僥倖とも言えるものであった感がある」と書きました。漱石の「草枕」を参考にしたわけです。

8つの「苦」と経営

 私が今,非常に興味を持っているのは,人間の「苦」です。生老病死,生まれたときの苦,年取ることの苦,病気の苦,死に対する苦。この4つ以外にあと4つの苦がある。「愛別離苦」,愛した人と別れなければならない苦。「怨憎会苦(おんぞうえく)」,憎くて仕方ない者にもあえて会わなければならない苦。それから「求不得苦(ぐふとくく)」,自分の求めているものを得られない苦。最後は「五陰盛苦(ごおんじょうく)」,人間の肉体から自然に出る色・受・想・行・識という5つの欲望から生じる苦です。
 これらの苦を抑えることが「四苦八苦」なんですけれども,そういうものをわきまえながら会社経営をやっていかなければならない。そこで必要なのは「八正道(はっしょうどう)」です。八正道とは8つの正しい道ということで,正見・正思・正語・正業・正命・正精進・正念・正定という項目があります。これを本当にマスターして,これから世の中に尽くしていこうと思っております。
(スライドとともに)