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2021年3月5日(金)第4,780回 例会

「朝ドラ」と大阪

角  英 夫 君(放送)

会 員 角  英 夫  (放送)

1983年東京外語大卒業,NHK入局。北見局,社会教養部,BS開始PTを経てスペシャル番組部で国際政治,日本経済など10以上のNスペ大型シリーズ制作。内外コンクール受賞多数。「クローズアップ現代」編集長,「NHKスペシャル」事務局長を経て2014年大型企画開発センター長,’16年大阪放送局長,’19年広報局長,’20年理事(広報・コンプライアンス担当),同年10月理事(大阪統括,西日本BCP担当,兼大阪拠点放送局長)。2021年1月当クラブ再入会。

 「朝ドラ」は通称,愛称でして,「連続テレビ小説」が正式な名前です。現在は103作目の「おちょやん」を放送しています。年度の前半が東京制作,後半が大阪制作。「おしん」等1年間放送の時以外は,ここ何十年もずっとこのスタイルです。大阪の朝ドラがデビューという女優さんも数多くいらっしゃいます。

なぜ大阪で朝ドラの半分制作?

 NHKの看板コンテンツである朝ドラの半分をなぜ大阪局が作っているか。職員数は東京の8分の1くらいですし,予算など規模も比べ物になりません。それでも朝ドラをやり続けるのはわけがあります。
 キーワードは2つ,「VS.東京」と「バックアップ」です。
 1920年代,主要国に続々とラジオ局ができました。日本でも必要性が叫ばれているところに’23年に関東大震災が起き,翌年には普通選挙法が成立,早くラジオ普及が必要だとなりました。東京は’25年3月22日にスタートし,大阪はコールサイン「JOBK」をもらって6月1日に始まりました。コールサインはAKが東京,CK名古屋,という順番です。
 会社としてはその翌年に東京に統一されて社団法人日本放送協会となりますが,BK大阪は放送内容で東京とは一線を画していきます。当時は大大阪の時代,得意なのは,相場情報と上方芸能。「セリフ劇」は,生放送で,マイクを立てて皆でセリフを順番に言っていくラジオドラマの原型です。
 BKは上方文化をベースにした芸能ものに加えて,甲子園の野球中継や天神祭りの中継などコンテンツを増やしていきました。大阪で企画が成功すると東京でもやるということも続きまして,東京に対する強烈な対抗意識がBKに芽生えることになります。
 ドラマはその後も人気コンテンツとなります。戦後の1952年にブームになったラジオドラマ「君の名は」(AK制作)は,放送が始まると女湯が空になると言われました。その後テレビが登場し,ドラマも発展していきます。
 BKもテレビが始まると同時にドラマに着手し,地元タレントを活かしたものをつくります。手本なし,先輩なし,すべて手づくり。試行錯誤の連続で,とにかく東京に負けるなの熱意で創意工夫に明け暮れたといいます。
 朝ドラは’61年に東京で始まりました。第1作は獅子文六作「娘と私」。月曜~金曜で,1年間続きました。1回は20分。ちなみに大河ドラマ「花の生涯」は’63年スタートです。

バックアップと強烈な対抗心

 BKの朝ドラはいつ始まったのか。’64年の第4回目,林芙美子の半生を描いた「うず潮」が最初の大阪局制作ですが,その後また東京制作に戻ります。ポイントは’64年という年です。東京はほとんどの人員を東京オリンピックに割かれまして,大阪に任せようかとなったと社史に書かれています。バックアップでBKにチャンスが回ってきたのです。
 ’75年からは1年を前と後に分けて半年間の放送になりました。ここで舞台を大阪にして,秋野暢子さんの「おはようさん」が登場します。最高視聴率44%の大成功をおさめました。これ以来,東京,大阪の半年制作が定着します。
 なぜこの年からだったのかを調べると,前年の’74年に大河ドラマ「勝海舟」でご病気のため主役が交代するということが起きるなど,1年連続して朝ドラと大河を続けるのはリスクがあるとなりました。朝ドラを2本に分けることになり,3本とも東京だとスタジオや人員の関係も大変だということで,1本は大阪へとなったようです。
 大阪制作スタートから間もなく50周年を迎えますが,映像関連や美術セットなどの会社とか,関西の俳優さんたちなど,BK朝ドラを支えて下さるグループが形成されています。今回もそうした方々の力を結集しています。出演者は8割以上が関西ベースの俳優さんです。大阪RC会員でもいらっしゃる4代目中村鴈治郎さんや,3代目渋谷天外さん,星田英利さん,板尾創路さん,宮田圭子さん等にご出演いただいています。明日海りおさんは宝塚のトップスターでしたし,茂山宗彦さんは能楽師です。

おちょやんの完璧な大阪ことば

 また,大阪の朝ドラの特徴は大阪ことば,関西弁ですが,これを守るスタッフの努力は並々ならぬものがあります。今回も河内と道頓堀のことばの違いにまでこだわっています。指導員がいまして,東京から来た杉咲花さん,成田凌さんなどに教えています。アクセントが現代と違うので,意外にも関西出身者にも難しいそうです。
 杉咲さんは完璧な大阪ことばを話しているそうです。当初は先生に吹き込んでもらったテープを繰り返し聴き,台本には独自の記号を書いて確認したとのこと。ものすごい努力家なんですが,天性の能力があるんだろうとスタッフは言っています。
 振り返ってみますと,BK朝ドラの歴史はバックアップの機会をチャンスに変えて,東京へのライバル心から創意工夫を凝らして発展してきたとも言えます。現在も首都直下地震が起きた際のバックアップ放送を充実させることがNHKの最重要テーマで,地域からの発信強化の意味もあわせてBKからの放送を増やしていく予定です。
 中村鴈治郎さんに今回の卓話のことを申しまして,メッセージをいただきました。
 「番組を見た道頓堀の人たちから,元気をもらったという声をたくさんいただいています。これを機会に,全国の皆様に改めて道頓堀のまち,大阪のまちの素晴らしさを見直していただけるとうれしいです」
(スライドとともに)