大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2020年10月9日(金)第4,767回 例会

Maas(Mobility as a Service)の取り組み

神 田   隆 氏

西日本旅客鉄道(株)
総合企画本部MaaS 推進部
MaaS 企画室長
神 田   隆 

1971年大阪市生まれ。’94年東京大学法学部卒業,同年西日本旅客鉄道(株)(JR西日本)入社。営業本部,総合企画本部を経て,2015年広島支社営業課長,’19年新設のMaaS企画室長となり,現在に至る。

 皆様,「MaaS(マース)」という言葉を耳になさったことはありますか。「Mobility as a Service」の頭文字をとった言葉です。直訳すると「移動を一つのサービスとしてとらえる」という意味合いですが,よく分からないなという方も多いのではないかと思います。本日はMaaSがどのようなものかということと,当社がMaaSを重要と考えている理由についてお話しします。

移動の予約や支払いがスマホ1つで

 まず,「MaaSとは何か」です。例えば東京に皆様が出張される場合,新幹線や飛行機を使うことが多いと思います。ご自宅や職場から駅や空港に行かれる際には何らかの交通手段を使う必要がありますし,東京の駅や空港に着いてからも同じです。観光旅行の場合でも,目的地の最寄り駅から観光施設までは何らかの交通手段を使って行かれると思います。
 このように出発地から目的地までの複数の移動のサービスを一つにまとめて考えようというのがMaaSです。JR西日本は鉄道という移動サービスを提供していますが,MaaSの想定はそれより広い範囲のものです。
 では,一体何が「一つのサービス」と位置づけられるのでしょうか。今度は出張の手配をされる場面をご想像ください。ご自宅から例えば新大阪駅までタクシーに乗られる際,配車のための電話がまず必要です。駅に着いたらタクシー代を支払う。さらに,新幹線の切符を買うためにまた支払いが発生します。東京駅に着き,目的地までタクシーで向かうと,ここでもタクシー代を支払います。
 こういったタクシーの予約や代金の支払い,新幹線や飛行機などのチケットの購入が全てスマートフォンアプリ1つでできる状態を「一つのサービス」と考えています。
 こういう仕組みがあれば移動の手配が便利になることはご理解いただけると思いますが,MaaSにはそれ以外にも効果があります。

JR西日本は2つのサービス開始

 例えば旅行や出張の最中に急に予定が変更になったり,タクシーで交通渋滞にはまったり,新幹線が遅れたりと,移動中には様々なトラブルが想定されます。MaaSでは列車の遅れなどの情報が自動的に流れてきて,予約を一括で変更できる。渋滞なら代わりのルートを案内してくれる。食事やテーマパークの予約もできる。スマホアプリ1つで生活全てを完結するような可能性もあります。
 まだまだそういった段階には遠いんですけれども,JR西日本はこのたび,2つのMaaSのサービスを始めました。1つは観光客向けの「setowa(セトワ)」。もう一つは,通勤・通学や買い物といった日常利用のお客様向けの「WESTER(ウエスター)」です。
 WESTERは9月からアプリをリリースしています。自宅や会社の最寄り駅を「マイ駅」として自由に設定でき,電車の時刻表や遅れ,駅の混雑状況を表示したり,当社グループの駅ナカの店舗中心にクーポンを提供したりというような機能があります。
 観光型のsetowaは,広島県を中心とした瀬戸内エリアで10月からJRグループが主催する「せとうち広島デスティネーションキャンペーン」に合わせてサービスを開始しました。行きたい観光地までの経路検索結果がそのまま,予約の画面に連携するので予約がしやすい。周辺エリアも幅広く周遊していただける「setowa周遊パス」,観光施設やグルメなどのチケットを予約・決済できる「setowaチケット」も多数発売しています。
 MaaSは観光に携わる行政の方々にとってもメリットがあります。例えば原爆ドームや宮島といった定番の観光地だけでなく周辺の良い観光地をおすすめすれば,地元にとってもお客様に来ていただくチャンスが増え,地域の活性化につながると思います。
 また,デジタルで予約・購入がなされることで,性別や年代といったお客様の属性がよりスムーズに把握できます。よりターゲットを絞ったサービスにつながるのではないかと考えております。われわれ交通事業者にとっても,ご利用いただいている何十万人,何百万人の人がどういうニーズをお持ちかということを把握する,いわゆるOne to Oneマーケティングが現実的になってくるのではないかと思っています。われわれの業界以外でも,自動車メーカー,航空会社,バス会社など様々な事業者が取り組んでいます。

「新たな移動様式」をサポート

 当社の事業エリアは北陸から九州まで2府16県にわたり,その中には大都市から過疎地まで様々なエリアがあります。都市部では交通渋滞,過疎地では公共交通の利用減など,それぞれ特有の課題があります。こうした課題をMaaSを通じたデータの活用によって解決するだけではなく,観光など移動の目的と組み合わせることでお客様の増加を図る手段として当社もMaaSを重要と考えています。
 昨今の新型コロナウイルスに伴い,われわれ交通業界全体にとって先が見えない状態が続いています。そのような中ではありますが,MaaSを通じてスマートフォン1つで旅行や出張を手配でき,チケットレス,キャッシュレスで移動できることは,人との接触を避けるという意味で「新たな移動様式」とも言えるのではないか。ある意味,一層必要性が高まっているのではないかと感じています。
 航空会社も含めた交通事業者が広く連携することはもちろん,地域の皆様とも連携を強め,移動の促進に取り組んでいきたいと思っています。
(スライド・映像とともに)