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2020年6月19日(金)第4,753回 例会

障がい者雇用によるダイバーシティ経営戦略
~インクルージョンによる化学反応とイノベーション~

熊 内  弘 次 氏

(株)C to B 代表取締役 熊 内  弘 次 

1958年生まれ。’82年香川大学経済学部経営学科卒業。同年(株)新阪急ホテル(現(株)阪急阪神ホテルズ)入社,経営企画室長,経理部長,経営統括本部経営企画部長,近畿圏事業本部フード事業部長を経て,2012年4月執行役員広域事業本部HB商品事業部長。’15年4月(株)CtoB設立,代表取締役就任。(株)ホテル阪神監査役,(株)阪急阪神レストランズ取締役等,歴任。

 私は阪急阪神ホテルズの経営企画部門で長年,事業再編,M&A,不採算部門の処理などの経営課題に取り組んできました。重度知的障がい者である娘を通してさまざまな障がいのある方と接し,特に発達障がいの人は潜在能力が高いと感じていました。

労働人口の減少

 2009年,不採算のセントラルキッチンを担当しました。生産性の分析や業務の見直しをする中で,障がいのある方のほうが向いているという仕事が多々ありました。こだわりが強い,集中力がすごい自閉症の人に検品をやってもらった結果,精度が上がりました。周りのスタッフの,彼らを支えようという気持ちが高まったほか,こつこつ仕事する彼らの姿に刺激を受け,生産性も上がったのです。
 最終的に50人規模の部門で5人を採用。特性に応じた仕事をしてもらうことで会社にとってもメリットがあると痛感し,もっと広めたいと,この会社を立ち上げました。
 C to BのCはカスタマーやコンシューマーでなく,「チャレンジド」です。障がいがあることにチャレンジする宿命を持った人という意味で広がっています。
 障がい者雇用の現状と背景には,少子高齢化による労働人口の減少があります。15~64歳の生産人口は,1995年をピークに減少し,右肩下がりです。出生人数では,’49年に269万人が生まれましたが,2016年に97万人になり,昨年86万人まで減りました。
 一方,障がい者数は約787万人で,323万人が就労可能と推定されています。昨年の雇用総数は53万人です。障がい者雇用の推移を見ると,’08年からの10年間に,特に精神障がい者,発達障がい者が増えています。でも’18年6月1日現在の民間企業の平均雇用率は2.05%,法定雇用率2%を達成した会社は45.9%で,半分に満たないのが現状です。
 改正された障害者雇用促進法では,障がい者採用の際に差別をしてはならず,採用したら障がい特性に合った合理的配慮をしなければならないと義務化されました。法定雇用率は,原則5年ごとに改定します。’18年から2.2%に上がり,来年2.3%になります。’23年に再び上がる可能性が高い。

目標は量より質

 私はコンサルタントとして,中期の障がい者雇用の経営戦略化をお願いしています。法定雇用率は量的な目標ですが,質を求めようと取り組んでいます。障がいのある方にできる仕事を任せ,健常者はもっとマルチタスクな仕事に従事してもらう。会社としてメリットがあり,成長戦略になると思います。
 その手法としてプロジェクトチームを結成します。いきなり採用するのでなく就労前実習という形で1~2週間,現場で仕事をしてもらいます。本人のスキルや,配属先のスタッフの受け入れ態勢をチェックします。月に1度,面談をしてチェック,アクションを繰り返します。みんなで障がい者1人を支えるという環境が生まれると,共通課題ができてコミュニケーションが増え,職場環境が改善します。まじめにこつこつ働くのを見て,働くことの意義を考え直すということが化学反応として起こってきます。
 障がい者雇用をすると,従来の業務の廃止,見直し,縮小で効率化といったイノベーションも図れます。ある仕事を障がい者がやるなら,もっとレベルの高い仕事をしようと生産性が上がり,コストでなくてプロフィットになっていくということが起こりました。
 ちなみにロイヤルホテルでは,’16年7月に,精神障がい者の雇用を検討して新たな職域開発,労働人口の減少に対応していこうと,プロジェクトをスタート。現在,障がい者雇用44名,うちプロジェクトの採用は17名で,法定雇用率2.97%を達成しています。
 ある男性は管理部でメール便をやっています。配達,郵便の受け取り,社内の書類の受け渡しも一手に引き受け,社員のタイムロスがなくなりました。別の女性は,調理部で出来上がったケーキに,イチゴを一つ一つ丁寧に載せ,フィルムを巻いています。非常に手先が器用で集中力が落ちない。’18年1月10日の毎日新聞夕刊に「特性見極め『重要な戦力』」と掲載されました。

健常者以上の戦力

 京阪ホテルズ&リゾーツは,経済産業省’20年「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞しました。プロジェクトは’18年9月に社長のトップダウンで開始しました。12名採用し雇用率は現在3.2%です。
 ある女性には,宴会などで顧客の前に置くナフキンを折る仕事を,毎日やってもらっています。他のスタッフの残業が減り,時間を接客に費やせるようになりました。インスペクションという客室清掃後にチェックする作業には,こだわりの強い人を入れました。バスルームに髪の毛が1本落ちていたとか,細かなところまでチェックします。顧客の満足度アップにつながっています。
 営業企画にパソコンの操作がすごく得意な女性がいますが,聴覚障害で聞こえません。周りから手話教室を開いてほしいという提案があって,全社が活性化しました。こちらも’19年8月30日の毎日新聞夕刊の1面トップ記事で取り上げられました。
 このように障がいのある人に,合う仕事をマッチすることで,健常者以上の戦力になるし,化学反応が起こって周りのモチベーションも上がる。イノベーションでいろんなことが変わってくる。障がい者を単なる雇用率やCSR(企業の社会的責任)のためではなく,戦力として雇用し,経営戦略として効率化を図って,プラスになるよう目指しています。
(スライドとともに)