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2020年2月14日(金)第4,749回 例会

活気ある都市センターを創る ~決め手は公共領域の質~

佐々木   誠 氏

三井不動産(株)
S&E 総合研究所 主任研究員
佐々木   誠 

1963年生まれ。’85年大阪大学経済学部卒業。同年三井不動産(株)入社。商業施設開発に従事後,S&E総合研究所には16年間在籍。

 2006年に三井不動産が出した「活気ある都市センターを創る」(シィ・ポーミア著)という本があります。米国のULI(アーバンランド研究所)という世界最大の都市計画コンサルタントチームから日本語版の版権を手に入れて作りました。不動産業界はビルを建設するだけでなく,公共領域をきちんとしないと街の魅力が出ない。その本からいろいろなキーワードを引用してプレゼンします。

ミクストユース

 著者のシィ・ポーミア氏は「偉大な都市のイメージは,公共領域の質に由来する」としています。建物と建物の間にある道路や歩道,公園や広場をひっくるめて利用者は街を見ます。公共領域がちゃんとしていると,いろんな人が投資をしたくなるのです。
 15年ほど前,梅田北ヤード(大阪駅北地区)の開発について大阪市から,三井不動産S&E研究所としてプレゼンを求められました。北ヤードを全部公園にして,ついでに御堂筋も公園にするという提案をしました。
 今回の話の内容は,①歩行空間の重要性②都市再生の原則は「ミクストユース(Mixed use)」③公共領域視点からの都市デザインです。ミクストユースはオフィスビルだけ,マンションだけ建てるのでなく,さまざまな用途の複合ビルの方がいろんな人が集まる,という考え方です。東京ミッドタウン六本木は代表的な三井不動産の物件で,北ヤード第1期もそのカテゴリーです。
 まず「歩行空間の重要性」です。ポートランドは,米国で住みたい街ナンバーワンになりました。歩く人の目線で街をつくることを真剣にやっています。80ヘクタールの貨物ヤードをそっくり造り替えようというのが「パールディストリクト」の計画です。そこでは歩道が優先され,車道が歩道の上を横切るというように,逆になっています。

若者呼んだ公園

 公園広場がすてきだと投資が集中します。ニューヨークのハイラインでは,使われなくなった高架鉄道の跡地を撤去せず,木を植えて広場にしようと2.3キロの空中庭園を造りました。アーティストや若い金持ちが飛び付いて,ニューヨークで3本の指に入る超高級住宅地になっています。いま,ニューヨークの若い人たちが,働くのならハドソンヤードがいいと,フェイスブック,アマゾンなどが移転してきている状況です。この公園が引き金になったと思います。
 次に,屋内広場の造り方です。東京ミッドタウンを造るときに,七つの条件を守ることで,非常にいい屋内広場ができました。それは①道路から広場が見えるようにする②十分な座席を用意する③植栽を行う④自然の光を活用する⑤横の広さより2層,3層ぶち抜きの高さの広がりを強調する⑥飲食物を販売する⑦屋外広場との歩行者システム上のつながりをつくるです。
 屋外広場にも造り方があります。まずお店を空間に張り付けるというのが条件です。特に飲食店にすること。レストランなどの利用者の目があるため悪いことをできなくなるのです。さらに,広場に面する建物の高さは,広場の横幅の3倍までにするよう,本に書いてあります。3倍を超えると,ここで憩う人々の気持ちが阻害されるためです。イタリアのナボーナ広場を,縦横の比率がいい事例として取り上げています。
 巨大な開発をするときには道路を地下に通したり,1階部分に道路を入れて人は2階部分を歩かせたり(北ヤードの2期はこういう形になると思います)というふうに,歩車分離で上を自転車と歩道にしてしまうのがいい。1980年代にできたロンドンのバービカンセンターは芸術の街にしようと,複数の音楽ホールや美術館を持ってきて,住宅2,000戸を上に載せて造っています。
 街区の管理運営を自分たちで行う「BID」という仕組みも米国にあります。日本でも,ということで北ヤードの第1期が取り入れ,1階のレストランは外向きに席を据え,歩道上で営業している。代わりに清掃や警備は自分たちでやります,とバーターで認定された日本初のBIDです。
 都市再生の原則はミクストユースで,オフィスも商業も住宅もエンターテインメントも同じ場所にあった方が便利。東京ミッドタウンを造る際に参考にしたのはコンサート会場でした。敷地内に造った公園を,上から見下ろせる阪神電鉄のライブハウス「ビルボードライブ東京」のことです。

街のアイデンティティ

 最後に「公共領域視点からの都市デザイン」です。
 外観の造り方の鉄則として,その都市固有のアイデンティティーを活用する。日本橋で三井不動産が「コレド」という建物を造るときに,上はアルミとガラスで造るけれど,元々あった三井本館の高さに合わせて31mまでは石で造ろうと考えました。日本橋らしさという点では建物の裏に路地を造り,ちょうちんをぶら下げて,京都の祇園みたいな雰囲気を醸しています。
 巨大開発の都市デザインの例として,冬季五輪が開催された米国のソルトレークシティーの真ん中に,9ヘクタールの再開発が実施されました。威圧感を与えず既存の街に溶け込むため,今までと同じような外観を並べました。建物は全部くっついているのですが,外観は分かれているかのように建てました。これによって何も変わってないような雰囲気で再開発ができました。
 とにかく歩行者目線で歩きたくなる街というのをつくるべきだろうと思います。われわれが今造っているのが,渋谷の空中庭園です。渋谷の宮下公園の再開発で,東京五輪までに400mの空中庭園を渋谷のど真ん中に造るということをやっています。話題になればいいと思っております。
(スライドとともに)