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2019年11月22日(金)第4,739回 例会

加賀屋のおもてなし ~サービス人財育成への取り組み~

小 田  與之彦(よしひこ) 氏

(株)加賀屋
代表取締役社長
小 田  與之彦(よしひこ) 氏

1968年生まれ。’91年慶應義塾大学商学部卒業。丸紅(株),シェラトン・ワイキキ・リゾートホテル勤務を経て,’99年5月コーネル大学大学院ホテル経営学部終了。2000年4月(株)加賀屋入社。専務取締役,取締役副社長を経て,’14年代表取締役社長就任,現在に至る。一般財団法人 まちづくり地球市民財団理事長,公益社団法人 セーブザチルドレン理事。

 私が小さい頃は,宿泊業はどちらかというと不要不急産業と言われて,父や祖父が新築,増築,改築をしようとしても銀行からなかなかお金を貸してもらえませんでした。しかし,ここ15年ぐらいで観光業,宿泊業は社会的な存在感,影響力が増してきていると思います。来年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には訪日外国人(インバウンド)の数が4,000万人になると言われます。ちょっと厳しいかなと思いますが,インバウンドのマーケットは成長しています。

インバウンドで成長

 昨年は私の母と,山形県の「日本の宿古窯」の女将さんの2人が,厚生労働省から卓越した技能者に認定されました。旅館業では初めてです。社会的な責任をしっかりと果たしていかなければいけないと自覚をしています。
 加賀屋は金沢市の隣で百姓をしていた曾祖父が113年前,和倉温泉に移り住んで旅館を始めたのがスタートです。「笑顔で気働き」という言葉を一番大切にしていて,今でも全社のモットーとして使っています。
 マニュアルはありますが,社員一人一人が,お客様の表情や一言を観察して,お客様が望んでいることを正確に察知し,臨機応変に判断して,最適,最善なおもてなしをする。そういう気持ちを大切にしましょう,というのが,一番大切にしている加賀屋の原点,精神です。
 あるとき,祖母が張り切り過ぎて準備をしていて,お客様のご到着の出迎えに遅れてしまいました。幹事さんから「一番ダメな旅館に声を掛けてやったのに,俺の顔に泥を塗って恥をかかせて」と言われて相当悔しかったそうです。そこで,「和倉温泉に行くんだったら加賀屋にまず行きなよ」と言っていただけるような旅館を目指そうと誓ったそうです。
 お陰様で,加賀屋は大きい旅館になりました。多くの社員も働いてくれるようになりましたが,今から3年前に食中毒を出してしまいました。この業界ではあってはならないことです。業界紙のランキングで36年1位という評価をいただいていましたが,その年は3位に落ちました。

改革

 そこで,いろいろなプロジェクト,改革に取り組みました。思っていることと違ったことがあったら日々変えていく「日次差異分析」を実施しました。ダメなことはすぐ「TO DOリスト」に入れて随時改善します。KPI(Key Performance Indicator)も採用しました。社員が勤務時間中に1日5回,自らお客様に接点を持って,お客様の宿泊体験を少しでもよくするよう積極的に取り組みます。例えば,バスの運転手だったら,毎朝最低でも3組のお客様に「お写真をお撮りしましょうか」と声を掛ける,といったことです。最初は社員から「何でそんなめんどうくさいことしなきゃいけないんだ」という反発がありました。しかしアンケートで「今回すべての社員の皆さんに,館内ですれ違うときに立ちどまって目を見て会釈をしていただき,大変完璧な滞在でした」とお客様から評価していただき,自分たちがやっていることはすぐに成果に出るのだ,と社員も理解をしてくれました。
 社員のサービスの成功事例を共有するという仕組みも始めました。若い社員が大変増えましたので,「May I Help Youレポート」でお客様に喜んでいただいたサービスを共有するようにしました。
 良い話ばかりしましたけど,実はお客様にしかられてばかりです。しかられる3大要因は「段取り優先」「一言多い,一言少ない」「感性と認識の違い」です。これは本当にあった事例ですが,お客様に「お水を一杯くれ」と言われて,係の者が「このビールを配り終えてから持っていきます」と言いました。これは「段取り優先」です。お水を持っていったら,お客様に「俺,薬を飲みたかったんだ」と言われ,「それだったらひと言,言ってくれればよかったのに」と言い返してしまった。「一言多い」です。「なんだ,それは」とお客様が言うと,「そういうふうに支配人から言われています」と人のせいにした,これは「感性と認識の違い」です。逆に喜んでいただけるのは「特別感」と「快適・安全」です。それとやはり「温かみ」。この3つを大切にしてやっています。
 働きやすい環境のために30年以上前から旅館内料理自動搬送システムを使用しています。4億7,000万円かかりましたが,人手不足の今は大変貴重な戦力になっています。客室係が安心して働けるよう母子寮の1階に保育園もつくりました。2階から9階が母子寮です。働き盛りの客室係は子育て世代でもありますので,安心して働けるようにやっています。社員に喜んでもらえるように社員表彰制度も実施しています。

活力を注入

 加賀屋ではサービスのコンセプトを全社員がしっかりと言えるようになっています。「サービスとはプロとして訓練した社員がお給料を頂いて,お客さまのために正確にお役に立って,お客さまから感激と満足感を引き出すこと」です。これを全社員が言えるようにすることで,ばらつきのあるサービスではなく,しっかりと統一された基準,同じ価値観を持ったサービスができるようになります。「プロとして」という部分を入れることによって,頑張ったけどお客さんは怒って帰りましたというのではなく,宿泊料金に見合ったご満足という結果にこだわってもらっています。プロというのは結果を出さなきゃいけないということです。サービスの本質というのは正確性とホスピタリティです。この2つがあって,お客様にご満足,ご納得いただけるサービスが提供できると考えています。
 最後になりますけれども,旅館というのはお泊りになられたお客様にお食事を提供して,お風呂に入っていただいて,それで帰っていただくのではなくて,それを通じて明日から頑張ろうという活力を注入して差し上げる。家族旅行だったら,家族の絆,社員旅行だったら社員同士の絆を強め,この社会をもっといい社会にしようという気持ちになってお帰りいただくお手伝いをするのがわれわれの仕事だと思っております。
(スライドとともに)