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2019年9月20日(金)第4,731回 例会

ハゲタカから国策へ~ファンドの歩み

勝 又  幹 英 氏

(株)INCJ
代表取締役社長/COO
勝 又  幹 英 

1960年生まれ。’83年3月東京大学教養学部卒業。同年4月(株)日本興業銀行入行。’99年メリルリンチ日本証券(株)ディレクター,その後,日本みらいキャピタル(株)取締役CFO,ニュー・フロンティア・キャピタル・マネジメント(株)代表取締役社長,モバイル・インターネットキャピタル(株)代表取締役社長,(株)産業革新機構社長を歴任,’18年より現職。

 私は日本興業銀行に1983年から’99年まで勤めた後,米国系インベストメントバンクのメリルリンチ日本証券に入り,外資の金で不良債権を買って再建の提案等をしていました。その後の経験は,日本のファンド業界の歩みと一致します。現在携わっている官民ファンド「INCJ」の紹介と,日本のファンド業界の発展を振り返ります。

投資の社会的意義

 2009年設立の「産業革新機構」,現在のINCJには官民ファンドとして明確なミッションがあります。儲ければよいのではなく,収益性,実現可能性を追求しながら投資の社会的意義を重視しています。中長期的な観点から成長支援をして投資元本回収倍率を最大化するよう目指しています。
 日本にも多くのバイアウトファンド,ベンチャーキャピタルがありますが,財務的なリターンの最大化を目指しがちです。官民ファンドは,投資のニーズがあるものの民間では採算が取れない,でも投資意義はあるところに投資をしていく。私どもの投資で,民間も,と呼び水になればいいと心掛けています。
 INCJは’25年3月に清算終了することが決まっています。日本のベンチャーキャピタル業界の現状,産業再編の可能性を考えるとまだ課題山積みという中で,経済産業省,財務省が新たに投資をしていこうと,INCJを子会社として「産業革新投資機構」(JIC)ができました。ただ,ファンドを立ち上げる矢先,昨年12月に経営陣と経産省とのコミュニケーションの問題があって民間出身の経営陣が全員退任することになり,新体制の発足を待っているところです。
 私どもの’09年からの投資を振り返ると,今年3月現在で138件の投資をしています。スタートアップ会社への投資,いわゆるベンチャーキャピタルとしての機能が138件のうち110件で,8割ぐらい。産業再編とか海外での共同買収の件数は2割ほどです。計約1.1兆円の投資をしていますが,ベンチャーは投資額が小さいため金額的には2割程度。産業再編や海外投資が8割を占めます。
 138件の投資のうち,投資した株式を売却して資金回収したイグジットが約40件。元本相当額で4,000億円弱,1兆円ぐらい回収していますので,投資元本回収倍率で2.8倍。残りの約100件,元本相当額で6,000億円ぐらいを,残された5年半でどれほど回収できるか,試されています。

日本人による不良債権解決

 私自身は16年ほど日本興業銀行に勤め,6年はニューヨーク支店で投資のファンドや買収ファイナンスを担当しました。1999年に,これから日本にもファンド業界が本格的にできるだろうと移ったのがメリルリンチ。当時はまさに不良債権の嵐で,社会問題化していました。負債をちゃんとすれば再生できる会社があると,いろいろ提案をしたのに「ハゲタカは結構です」と聞いてもらえない。
 2002年に,不良債権問題を解決するために日本人が日本人のための不良債権ファンドをつくって,日本の投資家から投資をしていこうと,興銀の先輩後輩4人とつくったファンドが「日本みらいキャピタル」です。ハゲタカを脱却して,純粋民間で日本のために不良債権問題を解決しながら会社再生をしていこうという歩みを始めました。
 そのまさに1号案件が’02年に会社更生法を申請した大阪のある企業でした。10年間の会社更生計画でしたが,業務改善に大変努力して4年間で会社更生法を終了。私にとっては非常に思い出深く,大阪に対する思いが生まれた案件でした。
 ファンドはもういいかなと思っていたころ,「ニュー・フロンティア・キャピタル・マネジメント」という,みずほ銀行と第一生命が立ち上げた投資ファンドを専門に進める会社の社長をやってほしいという話があり,新しいファンドをつくったのが’07年です。その一つが,NTTドコモとみずほのベンチャーキャピタル「モバイル・インターネットキャピタル」で,5年ほど社長を務めました。
 ’15年に産業革新機構の初代社長,能見公一さんに「官民ファンドのようなものが必要ない市場をつくっていくのがわれわれの仕事なんだ」と説得され,役に立てるのなら,と産業革新機構に移りました。

学生の選択肢に

 私が始めた’00年前後はまだ数社しかなかったバイアウトファンドが,今日本に100社ぐらいあります。ファンド業界というのが世の中に認知されつつあり,ハゲタカと言う人は減りました。ハゲタカと呼ぶのは,買収される側の被害者意識があったのですが,ファンドを使って自分の事業計画や成長戦略に生かすという方向に意識が変わってきているようです。
 4月に「ハゲタカ」の著者真山仁さんが卓話をされたようですが,私はNHKのドラマ「ハゲタカ」の金融考証担当を’07年にやりました。リアリティーを求められ,脚本を1行1行チェックしてアドバイスをしていました。その後,映画「ハゲタカ」を東宝とNHKが作りました。東宝が,NHKのドラマをベースにしたいということで,俳優さんとわれわれスタッフ一同,一緒に作りました。もう1つ関わったのは,「チャンス」という藤原紀香さん主演のNHKドラマです。
 現在,東大に講座を持っており,学生には「自分で会社を起こすスタートアップや,ベンチャーキャピタルというスタートアップを支援する業務もある」と伝えています。今後のキャリア展開の選択肢を考える中で,できれば創業者,ベンチャーキャピタリストとして活躍してくれればいいと思っています。
(スライドとともに)