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2019年8月23日(金)第4,727回 例会

SDGsで自分を変える 未来が変わる

川 廷  昌 弘 氏

(株)博報堂DYホールディングスグループ
広報・IR室 CSRグループ推進担当部長
川 廷  昌 弘 

1963年兵庫県生まれ。報徳学園高等学校,京都産業大学卒業後,’86年(株)博報堂入社。’91年~’96年同社関西支社テレビ局テレビ部などを経,’14年より現職。’17年外務省「国連SDGsハイレベル政治フォーラム」&「国内普及事業」プロデュース等を務めSDGsに深く関わる。 神奈川県顧問(SDGs推進担当)。

 国連が持続可能な開発に関する議論を始めたのは,1972年にさかのぼります。ローマクラブが出版した「成長の限界」で,地球の資源は有限でいかに未来世代に残し,どう上手に社会を構築していくのかが問われました。国連のステージで,自然を守りながら持続可能な未来を語ろう,社会を開発しながら未来を語ろうということになりました。
 ただし世界に大きな影響を与えるのは,国や国連機関だけでなく企業もです。’99年1月のダボス会議で,当時のアナン国連事務総長が「企業に対して人間の顔をしたグローバリゼーションを展開してほしい」と話しました。人間一人一人の集積団体である企業が,まさか途上国で幼児に労働させながら靴を作ったりせず,人間の顔をした経済発展をすると約束してほしいとのことです。2000年から国連でグローバルコンパクト(世界に約束・署名する)という枠組みを始め,世界で1万を超える企業・団体,日本でも300を超える企業・団体が署名しています。

相反する二つのテーマ

 環境条約は1992年のリオデジャネイロのサミットで誕生しました。「気候変動枠組み条約」と「生物多様性条約」の2条約です。一方で社会開発に対し,国連は開発目標を採択しています。2000年から15年間行ってきたミレニアム開発目標,MDGsで,SDGsの前身と言われています。ただし自然を守ろう,社会を開発しようという相反する二つのテーマをわれわれ世代では解決できないので,教育の世界で次世代の人材を育てなければいけない。これも日本政府が国連に提案し,ユネスコの枠組みでESD(Education for sustainable development)に取り組んでいます。
 先進国でも途上国でも同じように社会課題を抱えるような世界になった中,MDGsが’15年に終わるため,3年間議論して生まれたのがSDGsです。大きく一つのゴールとして設定し直したことがSDGsの新しい点で,中身はこれまでの議論の集積です。

17ゴール,169ターゲット

 国連で採択されたSDGsは法律でも何でもなく,17ゴールは紙切れ1枚です。タイトルは「Transforming our world(私たちの世界を変革する)」です。Transforming という単語を国連が使うのは,世界恐慌など人間社会が危機に瀕したときだけとされています。国連の絶対的なメッセージで「変革しなければ未来世代に約束はできない」という意味です。
 前文の1行目に「このアジェンダは行動計画である」と書かれています。人間と地球の繁栄のための行動計画で,真ん中辺りに「誰一人置き去りにしない」とあり,最後の方には「環境・社会・経済は不可分なものであって,同時に考え,取り組んでいくべきものである」ということが書かれています。
 17ゴールの次に169のターゲットが設定されています。総務省のホームページでこのPDFをダウンロードできます。国連統計局の数字を使った232の指標も設定されています。これもSDGsの新しいことです。
 SDGsは’15年9月,国連本部で採択し,建物にはプロジェクションマッピングをしました。お金や時間がかかりますが,ユニリーバが協賛しています。企業もこのような形で採択に関わることができました。博報堂はボランティアで,SDGsの日本語版を作りました。コンセプトは「社会課題の自分事化」。私たちの生活は何らかの関係があることを理解し,SDGsを浸透させるため作りました。

自身の物語に置き換え

 SDGsは何かと言うと,国連の未来への約束に関する決議の総括ではないでしょうか。もう一つは,国連で初めてコミュニケーションツールを開発したことでもあります。さらに,環境保全や社会包摂,経済発展を一緒に考えようと提案したことだと思います。
 環境・社会・経済を一つに考えるとは,企業にとってどういうことなのか。国連採択時の安倍総理のスピーチで,日本の年金機関のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が,国連の責任投資原則(PRI)に署名したと言っています。四半期決算などの財務指標だけで一喜一憂するのではなく,中長期の経営ビジョンをしっかり立てて,社会や環境へのインパクトを考えた経営をする企業を応援する投資に切り替えることです。
 大企業のCSRセクションのSDGsの認知は8割から9割あります。一方,中小企業のトップはまだ15.8%しかSDGsを認知していないという結果が出ています。全国の企業の99.7%が中小企業と言われています。日本や地域の経済を動かす動力は,大企業と中小企業のパートナーシップではないでしょうか。
 SDGsがいよいよ義務教育に入ります。来年4月から小学校,再来年以降に中学校や高校です。「次世代との対話」が重要になります。子どもたちに,われわれ大人社会は責任あるバトンタッチができるかということです。
 最後にSDGsを目的化しようと言っているわけではありません。自分が向き合う課題の解決に17ゴールを紐付けていきましょう。しかしいつまでもゴールを紐付けていては,SDGsをやっている振りをしていると揶揄されてしまいます。’30年に皆さんはどんな社会にしたいか,どんな自分でありたいか。どんな経営者でありたい,次の経営者に誰を選びたいとの話をすることが一番重要です。
 どこの誰とでも共有できるSDGsはコミュニケーションツールです。世界の投資家,世界の企業パートナーと共に,SDGsで未来を語れるということを国連が用意してくれました。169ターゲットを読んでみると,17ゴールを目指すためのヒントになることがたくさん書いてあります。これを読み砕き,自分自身の物語に置き換えて,自身が小さな変革者に,できれば大きな変革者になっていくということを期待するのがSDGsだと思います。
(スライドとともに)