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2017年4月21日(金)第4,623回 例会

テレビ最前線 可能性を求めて

角  英 夫 君(放送)

会 員 角  英 夫  (放送)

1960年生まれ。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。’83年日本放送協会入局。北見放送局放送部を経て,’87年番制局社会教養部衛星放送開始プロデューサー,2005年「クローズアップ現代」編集長や「NHKスペシャル」事務局長などを務め,’14年放送総局大型企画開発センター長。’16年大阪放送局局長。
当クラブ入会’16年8月。

 東日本大震災が起きた2011年から昨年4月まで,NHKスペシャル(Nスペ)事務局長,センター長を務めました。Nスペ開始以降そこをベースにした局歴で,衛星放送の立ち上げや,8Kスーパーハイビジョンのソフト開発,地デジ開局プロなど,技術変革の時のコンテンツをどうするかにも携わってきました。Nスペは勿論のこと,テレビは常に技術革新とともにあります。これからの時代の,国際競争力のあるコンテンツについてお話しします。

フロンティアを追い求めて

 テレビは「遠くを見る装置」です。Nスペは「見ることができないものを見てもらう」がコンセプト,まだ見ぬフロンティアを追い求めることを主要テーマの一つにしています。

 例えば,何度か取り上げてきたエベレストに関しては,数年前に山登りの強者4人でチームを編成し,業務用ハイビジョンを持って登頂に成功し,高精細撮影をしました。

 「人体・ミクロの大冒険」は最先端の研究を加味し,受精する瞬間イメージを4KCG化するなど,人体の中を映像化していく試みでした。国際見本市でも話題になりました。

 21世紀に入り,技術研究所が暗い宇宙でも撮影できる超高感度カメラを開発しました。宇宙飛行士の古川さんが宇宙ステーションに持ち込んでくれ,宇宙から撮ってくれました。光で輝き続けるオーロラなど本当に美しい映像を4Kで撮影できました。

 続いて,有名になったダイオウイカですが,トワイライトゾーンという,深さ数百mの光が全く入らない深海での挑戦でした。深海用の超高感度カメラを技術研究所が開発し,取材班はアメリカから潜水艇を借り,ダイオウイカが泳いでいる姿の撮影に成功しました。500回以上の失敗の末,奇跡の23分の映像で,アメリカやヨーロッパ諸国でも放送されました。

 超ハイスピードカメラ,高解像度カメラ,といった技術の最先端を駆使し,有名な運動選手を解析する「ミラクルボディー」シリーズも好評でした。ロンドン五輪では,ボルトに完全密着しました。彼の体は左右非対称で,それを補うように速くなっていった。サッカーでは,バルセロナのシャビとイニエスタが,どんな風に脳が反応してパスが出るかということに協力してくれました。ネイマールにも独占密着でき,番組を国際市場に出すことができました。

 いずれも技術革新を取り入れて常にフロンティアを追い求め続けることで成立した企画です。

番組が社会を動かす

 こうした数々の企画はどの部門からも提案可能です。実際に制作する際には,1人がNスペを担当すれば他の班員が仕事をカバーしたり,長期の企画の場合はプロジェクトに異動したりして,可変的なアメーバー型の組織運用で工夫をしながらやっております。

 また,視聴率についてもそれだけを目標とはしませんが,できるだけ多くの人に見てもらいたいと思って作っております。一例をあげます。認知症になって徘徊後,行方不明になった人をテーマにしたNスペでの出来事です。群馬県館林市の介護施設に入っている認知症の女性の方を紹介したところ,番組の途中で電話がかかってきて,「あの人を知ってる」という情報が寄せられました。翌日,長年探していた夫と再会することになりました。警察のシステムに違う名前で登録され,捜索願の名前と合致せず,行方不明のままになっていたようです。行方不明者の登録システムも整備されることになり,これもやはり,1,000万人規模の人が見ているからこそ起きることだと思います。

 ドローンやビッグデータ,AIという昨今の重要分野でもその最先端の動きを番組化しています。アンコールワットや熊本城などをドローン撮影し,構造の探求を試みました。誰も近付けない西之島新島では,4Kカメラを無人リモコンヘリに積み,火口の噴火や溶岩流など,島がどんなふうに成長しているのか撮影を続けています。

 ビッグデータ利用の面では,震災復興に役立てようと,携帯電話や位置情報から,避難状況やどんな風に東北から人が離れているかを検証したり,東北の企業取引を数値化し震災前後でどう違うかを緻密に分析しボトルネックの所在を突き止めようとしたこともあります。

 このように技術革新を取り入れて,1人1人の個性的なアイディアで企画化し,国際市場を見据えたコンテンツ力の向上がこれからの時代ますます重要であると思っています。

大阪のバックアップ強化

 大阪放送局もこうしたテレビ発展の重要な担い手です。東京の放送センターが首都直下地震などで機能停止に陥った場合,大阪局から放送を出します。国際放送やインターネットも含めて,ハードソフト両面で“バックアップ機能”強化が行われています。その一環として14時の全国ニュースは大阪局発です。

 また昨日,10月からの朝のテレビ小説「わろてんか」のキャストを発表しましたが,ドラマを制作することも,文化のバックアップと言いますか,東京一極集中が進む中で,様々な関連職種が大阪・関西の産業として維持されるわけです。大阪局でもスーパーハイビジョンやインターネット技術などを集積させており,報道体制,技術革新,番組制作能力,いろいろな意味でメディアの最先端の一翼を担うべく努力を続けています。在阪民放さんと一緒に頑張っていきたいと思っています。

(スライドとともに)