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2008年8月8日(金)第4,219回 例会

池坊華道はなぜ600年続いているのか?
なぜ世界に広がっているのか?

池 坊  雅 史 氏

(財)池坊華道会 事務総長
(学)恵真学院日本医療秘書専門学校長
池 坊  雅 史 

1961年埼玉県生まれ。’85年東京大学法学部卒業,大蔵省入省。広島国税局三原税務署長,シンガポール日本国大使館一等書記官などを歴任。’99年学校法人恵真学院日本医療秘書専門学校校長。

 今日,私が用意したお話は3つあります。1つは京都に生まれた池坊の華道の歴史と世界での展開。2つ目が池坊の哲学。3つ目が昨年末,UAE(アラブ首長国連邦)でノーベル賞受賞者20数名を招いた会議のお話です。

お寺の歴史は1400年

 まず,池坊の歴史をお話しします。池坊の本質は,まず宗教法人であるということです。聖徳太子が四天王寺の用材を探すため京都に来られたとき,ある場所でお告げを受け,そこにお寺を建立されました。それが池坊のお寺,紫雲山頂法寺(六角堂)。遣隋使として有名な小野妹子が引退し,聖徳太子の命令で初代の住職になりました。

 お寺としては約1400年の歴史がありますが,華道としては1462年に,池坊専慶が「立花」

という形の原型をつくったのが最初と言われています。それから安土桃山時代,豊臣秀吉公の時代を生き,元禄時代には経済力を持った町人の間に広がり,明治には女学校で華道・茶道が必修となりました。戦後は花嫁修業という言葉と相まって,ブームを迎えました。

 現在は全国に約400支部,海外では米国やカナダ,南米,欧州,中国,東南アジアなど,世界で何十万人という方々が,池坊を愛好しているというのが,全体の流れです。

歴史の根底に3つの哲学

 600年の歴史を継承するのは,並大抵のことではない。その根底に何があるのか。ヒントは「池坊の哲学」だと私は考えています。その哲学は大きく言って3点。①聖徳太子以来の「和と美」の精神にのっとり②池坊華道の普

及振興を通じて③人々の心を幸せにし,人間社会を豊かにする――これに尽きます。

 和と美の哲学とは「和の追求の中に美がある,美の追求の中に和がある」ということです。池坊で言う「和」には3つあります。1つ目は一人ひとりの心の中の和。茶道や禅に「和敬静寂」という言葉があります。「寂」は寂しいという字を書きますが,寂しい心ではありません。動じない心です。池坊華道でも,最初の「和」は自分一人ひとりの心の和。何事においても,どんな環境下でも動じない心ということです。

 2つ目の「和」は,人と人との和です。子弟関係という和があります。学校ですばらしい先生に10代,20代で出会えるか,感化を受ける先生と出会えるかが人生において決定的に重要です。華道でも,最初につく先生が人格的にどのようにすばらしいかということで,決まってくる部分があります。

 友と友の和もあります。2001年9月11日,ニューヨーク市でテロがあったとき,同市は当初,金銭の寄付は断っていました。しかし,池坊のニューヨーク支部の有志がグラウンド・ゼロの前で「立花」を活けたいと申し入れたら,受け入れてもらえました。人と人との和が通じて平和につながると考えています。

 3つ目の「和」。それは,異なる世界の調和です。1つだけ挙げれば「現代と伝統との調和」です。池坊にはその歴史の中で,変えていない部分と,時代に応じて変えている部分があります。変えない部分と変える部分を常に的確に見極め,変える部分は自由自在に変えるという柔軟性があります。

 大名が愛していた時代,商人が愛していた時代,男性だけが愛していた時代,今のように女性が中心になっている時代と,時代に応じて,立花があり,盛り花があり,自由花があり,現代花がありと,変遷してきたのです。

少なきはより意味深し

 最後にUAEの話です。同国は人口400万人ですが,政府系ファンドの力で言えば,世界を凌駕しつつある国です。昨年末,池坊はそのUAEから招待を受けました。その会議はノーベル平和賞のケニア女性,マータイさんら20数名のノーベル賞受賞者などを招き,中近東の大学生約150名が参加。大学生の間にノーベル賞受賞者が入って,グループで色々なテーマを議論しようというのです。

 会議の中にジャパンセッションがありました。今,元気のない日本ですが,アラブの人たちは60年前の廃墟から立ち上がった日本から,まだ学ぶことがあると考えています。

 会議で話したテーマは,まさに今日と同じ。われわれが泊まったホテルの正面玄関でノーベル賞受賞者を迎えた花は,度肝を抜くフラワーアレンジメント。満開のランを中心に花々が何メートルも続きました。われわれはそんな予算はありません。そこでアブダビにある葉もので一種活けを用意し,私は英語で話をしました。一種活けの哲学は「少なきはより意味深し」。英語では「Less is more.」――少なければ少ないほどより価値がある――と表現しました。

 池坊の世界では,100輪の満開の花より1輪のつぼみに美を見出し得る。したがって,必ずしも満開の花を多く活ければいいというものではない。削ぎ落として,削ぎ落とした上で自分の心を表現するという哲学です。

 その一点においてホテルの玄関にある花と根本的に異なると言い「そういう哲学を持っているからこそ,池坊は600年続いてきた」と締めくくりました。

 今年の4月,国立アブダビ女子大学から池坊支部を同大学につくりたいがどうすればいいかという連絡があり「あなた方が考えているようにハコモノを作っても仕方がない。人材ができてから」と,答えました。うちの先生を2週間派遣して,講習会を開きました。世界で10人のうち10人が共感されるとは思っていませんが,10人のうち1人でも2人でも共感を得られればと考え,活動を進めています。伝統と歴史を大切にし,変えるべきものは時代に応じて変えていくということです。

 十分伝わったかどうかわかりませんが,ほんの少しでも池坊のおもしろさというものが伝わればありがたいと思います。