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2007年3月2日(金)第4,151回 例会

歌舞伎 よもやまばなし

中 村   翫 雀 君(文化)

会 員 中 村   翫 雀 (文化)

1959年京都府生まれ,慶應義塾大学法学部卒業。'67年中村智太郎を名乗り,歌舞伎座にて初舞台。'95年現五代目中村翫雀を襲名(屋号・成駒屋)。'00年大阪に居を構える。'88年カナダ・アメリカ・メキシコやロンドン・モスクワ・北京などでの公演に参加,インドや韓国などでのワークショップなど海外公演も多い。'04年舞台芸術奨励賞。'06年国立劇場賞優秀賞を受賞。本名:林智太郎。父は坂田藤十郎,母は扇千景。'06年7月当クラブ入会。PH,米山共に準フェロー。

 歌舞伎が,どのように今日に至ったかについてを,まずお話しさせていただきたいと思います。

成り立ちと特色

 歌舞伎は,400年ほど前に始まったと言われています。出雲のほうの巫女・お国が,女性ばかりの念仏踊りの集団として京の都へ上って四条の河原で踊り,大変評判になりまして,それが歌舞伎の起源だとされています。

 女性ばかりの集団では風俗的によからぬと,当時の幕府はすべて禁止してしまいます。すると,女性のかわりに元服前の前髪の残る美少年を集め,同じような踊る集団,若衆歌舞伎が始まりました。これも風俗上よろしからぬと,幕府は禁止します。

 女性はだめ,美少年もだめ。残るは,前髪を落とした頭を野郎頭といいますが,男ばかりの野郎歌舞伎になってくるわけです。

 女性や美少年の集団は,踊りだけでも,見た目の美しさや華やかさで勝負できましたが,男ばかりでは,そうもいきません。芝居や劇をしなければと,芝居の形式を持つようになります。

 一方で,やはり相手役に女性が出ないとだめで,どうしたらいいかと考え,当時の一番の女らしい女性,遊女を男が真似ることになりました。300年から350年ほど前,歌舞伎が芝居として成り立ったと言われます。歌舞伎の女形(おやま)は,今ではマニュアル化されていて,こうやれば女っぽくなるであろうということがわかっています。ですから,普段から女っぽくする必要はないのです。

 また,歌舞伎には演出家はいません。原作者は記しても,演出家を書いてある芝居は大変少ない。演出家を書いた芝居はたいてい新しい芝居です。どういうことかと言うと,主役の俳優が演出を兼ねるのです。役者あっての芝居,これが歌舞伎の特色の一つです。

 もう一つの特色は様式美。大道具,背景一つにしましても他の演劇に見ないような色使いをいたします。

原点への回帰

 歌舞伎は最初に大衆に受けたことから始まっていますので,能や狂言とは成り立ちが違います。能,狂言は,当時の武家,貴族,教養のある方々が,自分たちも出ることを前提とした仕舞いや謡も含めて発生いたしましたから,限られた人しか接することができませんでした。

 歌舞伎は大衆の支持で生まれましたから,その点は世俗的でした。しかし,江戸時代には大衆娯楽の一つだった歌舞伎も,明治になって,当時の名優の方々が文化的に高めようという運動をしました。そのころから歌舞伎が高尚なものになって,とっつきにくいものになったのかもしれません。

 ですが,勘三郎を襲名した勘九郎さん,染五郎さんにしましても,私たちは,娯楽の一環として,お客様と近い芝居を目指しており,それが歌舞伎の原点だと思っています。

 私の家は中村鴈治郎家で,父が坂田藤十郎という名前になりました。歌舞伎役者の家としては若い家柄でして,私で初代鴈治郎から四代目です。

 もともと家は大阪・新町で扇屋という店をやっていて,そこに三代目の中村翫雀という役者が婿養子に入りました。できた子どもが初代鴈治郎でございまして,そこから役者を始めたのです。

 一方の市川團十郎家は,江戸の荒事の家です。荒事というのは,武士を模して荒々しい見得を切るような型を重視します。脈々と続く江戸の芝居は,型の継承を大事にしています。

 これに対して上方は和事。300年から350年ほど前,江戸に市川團十郎が出たころ,上方には坂田藤十郎という名優が出ました。和事は,やわらかい丸みを帯びた芸という意味で,関西の芝居の原点になりました。

 この和事は,どうしても型ではできません。このあたりの継承は,なにわ商人の考え方に近いのではないでしょうか。息子に継がせるより,腕のいい弟子に継がせたほうがいいという考え方です。

 実際,坂田藤十郎は,息子に継がせませんで,途切れてしまいます。芸さえよければいい,役者があってこそ,ということでしょうか。

娯楽として

 この4月に「浪花花形歌舞伎」という公演があります。何とか上方の歌舞伎を定着させたいと始めまして,4回目を迎えます。「浪花花形歌舞伎」は3部構成。歌舞伎は,昼の部,夜の部という2部構成で,午前11時から芝居を見せるところは,世界にありません。

 働いている方にも見ていただきたいということで,3部構成を考えました。3部にすることで,1編約2時間半で終わり,その分,お値段も割安になるのです。

 料金の話をしましたが,歌舞伎というのはどうしても普通の芝居よりも料金が高くなります。これは1人で踊っていても,後ろで三味線,唄,鳴り物と,生演奏が付きます。役者が20人しかいないとしましても,裏方を加えれば,一座が100人超え,どうしても仕込みにお金がかかるということす。

 さまざま申しましたが,歌舞伎は,あくまでも娯楽の一環です。歌舞伎を見に来てくださいと申しますと,「いっぺん勉強してから行きます」。これが一番辛いんでございます。決して勉強ではなく,娯楽ですので,気楽に見ていただきたいと思います。