大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2003年5月16日(金)第3,976回 例会

『壁画』の魅力―その感じ方-

田村 能里子 氏

田村 能里子

1944年愛知県生まれ。武蔵野美術大学油絵実技専修科卒業。1969~73年度インドに滞在。1986年文化庁芸術家在外研修員として中国に滞在。1988年に完成した西安のホテルをはじめ、中山競馬場、客船『飛鳥』など多くの壁画を製作し、数々の賞を受賞。現在無所属。

 二足のわらじを履いております。一足は油絵の仕事,もう一足は壁画の仕事です。壁画というと敦煌,ミケランジェロの天井画,古い時代の洞窟画などを想像されるでしょうね。

大阪天満橋の壁面にも作品

 私の壁画につきましては、大阪市営地下鉄の天満橋駅を降りてOMMビルに入る通路の壁面にひとつありますから、それを見ていただければある程度イメージを持っていただけると思います。

 さて、壁画はどうやってつくられるでしょうか。「ミケランジェロはどのように足場を組んだのだろうか。大勢の人と一緒に作業したのか。弟子は何人いたのか。」たくさん疑問がありますが、わからないままに何百年もたちました。今はビデオや本に作業の経過を残すことができるので、私は積極的に映像に残しております。きょうはその映像をバックに映しながらお話します。

 壁画が入るほど大規模なアトリエは世の中にはそうそうありませんから、壁画の製作は現場でやります。その現場には建物が建設中に入りますので、ほこり、騒音などがすごかったりします。窓は開いていますから、寒いときはマイナス10度だったり、暑いときは 40度だったり。現に中国西安市の唐華賓館で壁画を製作したときそうでした。

 壁画は建物とともに、私の寿命よりも長く50年、100年あるいはもっともっと先まで残ります。お寺などで描かせていただいた壁画は1000年単位で残るでしょう。だから、長く残るという視点からも、周囲の環境にぴったり合うものをつくらねばなりません。どう描いても壁画の絵自体はできますが、やはり環境にぴったりしたものをつくりたい。そのためには、現地でホテル住まいして、毎日毎日朝から晩まで自分の労力を投入しないといけません。

 「大勢の人でつくろう」と企図して人々に指示し、「あっちは赤色を塗って、こっちは下塗りをして」と指示してもできないことはない。しかし私に限っては、どうしても自分一人の手で描きたい。自分というものをかいくぐった絵を描きたい。自分の感じたままで描き責任をとりたい。そう考えています。体力勝負ですが、今のところ、年の割にはけっこう元気にがんばっています。

持ち主が最初から見える壁画

 壁画は油絵や日本画とどこがどう違うか。壁画の場合は製作依頼主がおられるわけですから、計画の最初の段階から絵の持ち主の顔が見えます。最大の特徴です。これと比べ、油絵や日本画の場合は、ほとんどが画商を経て持ち主が決まります。どなたがお持ちになるのかわからないまま、製作者がマイペースで描いた作品が流れていくわけです。自分の絵が一人歩きしてどこかへ行っちゃったという感じがあります。

 壁画の場合は「私のところは老人病院です」「私のところは名古屋の学校です」「私のところはホテル内のこんな壁です」などと、空間の性格も目的も一つ一つ違います。場所も東京の都心なのか、大阪のどこかなのか、バンコクの空港なのかなどとこれまたいろいろです。しかしともかく、依頼主の顔が見え、目的がわかります。だから、描き手の気持ちは、「ここに置かれるのだな。ではその環境に入り溶け込んで描いてみよう」ということになります。

 自分だけの手で描くと、天井だとか壁だとかの色合わせを自分で確かめながら作業を進めることができます。同じ赤でもいろいろな選び方があります。「田村さんの絵は赤が多いね」とよく言われるのですが、実は赤だって何十色もあります。現場で確かなものをつかみながら描きます。その中に体ごと自分の命を投じるような気持ちで描くのです。それで、さきほどの西安の唐華賓館では1年半もかかってしまいました。たよりなさそうな足場に上がって描きました。

 私が製作した多くの壁画の変わり種は日本郵船の豪華客船「飛鳥」のロビーのものです。これはつるされたゴンドラに乗って描きました。火災を想定してお役人さんは、そのとき使った「アクリル絵の具」の燃え方・煙の出具合を研究しましたし、塗るときには同じ面に2.5回以上タッチしてはいけないといわれ、びっくりしました。飛鳥の3カ月世界一周はいつも満席になるそうです。飛鳥に乗られたときはぜひ見てください。

親しんでいただけるようケア

 壁画は、完成後のケアがとても大事です。ほこりをかぶったらきれいに掃除しなければなりません。描いた壁画に親しんでいただくのも大事なケアだと思います。それで、JTBさんと協力して「壁画ツアー」をやっています。時間のたっぷりある奥様がたやリタイアしたおじ様たちと一緒にバスを何台も連ねて、たとえば、名古屋なら4つの壁画を回ります。ツインタワー、古川美術館の天井画、ゴルフ場、名城大学の図書室の各壁画です。どれも10メートル以上の大きなものです。壁画を前にして私が、製作のときに出会った人々、ハプニング、エピソードなどを話します。

 最近、東京の銀座に10階建てのファンケルビルがオープンし、1―2階の吹き抜けに壁画が出来上がりました。ちょっとおしゃれな、ちょっとゆっくりできる、さわやかな風が吹いているような空間を銀座につくろうと思いました。描き始めの日に方針を変え、普段使わないブルーを使いました。

 これからも、人の心に深く染みて「いいもんだ」と思っていただける美空間をつくりたいなと思っています。大阪にもアトリエを持ちましたので、 これからますますいろいろな方とお会いすると思います。どうぞよろしくお願いします。