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2003年3月28日(金)第3,970回 例会

最近の独禁法の動きについて

糸田 省吾 氏

元公正取引委員会委員 糸田 省吾

東京経済大学教授
1937年生まれ。'59年北海道大学法学部卒業。'61年公正取引委員会事務局入局。 '93年同事務局長。'96年同事務総長。'97年同委員。'02年同退任。現在東京経済大学教授。レンゴー(株)顧問。

 独占禁止法は言ってみれば企業を取り締まる法律です。食後の皆様方には消化の障害になるかもしれません(笑い)。ただ、これから申し上げることをよくご理解いただければ、この法律が決して取り締まる法律ではなく、自分たちの味方になることがわかっていただけると思います。

予算の2割が節約できる話

 今、独占禁止法で大きな話題になっていることが二つあります。一つは、入札談合を徹底的に取り締まるという話です。談合が起きると一体どれぐらい値段が高くなるかというと、統計的に大体2割ぐらいは高くなります。要するに談合さえなければ、例えば国の予算で公共事業に10兆円ついていると、極端に言えば本当は8兆円で済むかもしれないし、きちんと使えば、それまでの12兆円分に相当するような仕事ができるかもしれないのです。つまり皆さん方企業にとっても、大きなプラスの話ではないでしょうか。

 談合の一番の予防策は、注文を出す役所が毅然たる態度で入札をすることです。ところが、役所は自分の懐からお金を出すわけではないので、談合があっても予算内で収まれば痛くもかゆくもない。最近は「官製談合」という言葉さえあって、役所のほうが談合を唆すというような現象も見られるようになっております。国会もあまりのひどさ、悪辣さに気がついて、議員立法で官製談合防止法、正式の名前はちょっと違いますが、そういう法律を最近作りました。もう一つ重要なのは、これは皆様にお願いしたい話ですが、企業のほうも絶対談合はしないというコンプライアンスを、ぜひ確立していただきたいのです。

談合情報、申告すれば罰則軽減へ

 公正取引委員会が入札談合などを摘発する際、証拠が集まりにくいという事情があります。仲間うちのことですから、外からは簡単にはわからない。この点について海外では巧みな手法を使っております。例えば10人で談合をやった場合に、その中の一人が恐れながらと当局に申し出て、その実態を話しますと、その業者の罰金とか、日本でいえば課徴金が軽くなるという仕組みがあり、結構効果を発揮しております。こういう制度を日本にも導入しようという研究が始まったのですが、あまり理解が得られていません。仲間を裏切ったことに対してペナルティーを軽くする話なので、国が裏切りを推奨することになるのはいかがなものか、という意見が多いのです。

 しかし、これはおかしな話です。例えば5人で殺人を犯した後、その中の1人が警察に自首して白状し、残りの4人が捕まった時、世間から「あいつは仲間を裏切った」と言われるでしょうか。独禁法の場合はそんな話になるのです。つまり独占禁止法という法律は、違反した場合の罪の意識というものが日本ではまだまだ軽いのです。これは本当に由々しきことで、それだから税金を2割も無駄使いされる状態がずっと続いているのです。

 次に、本日のもう一つのテーマである合併、グループ化の話をいたします。今、産業再生ということで、過剰債務の処理や、過剰設備の処理ということが言われていますが、そういう動きはますます強まってくるだろうし、また大事なことだろうと思います。独禁法では、競争制限になる合併、株式所有というのは禁止している。ですから企業の人たちが公取に事前に相談に行くのですが、答えが出るまでにものすごく時間がかかっていた。場合によっては、半年も1年もかかっていた。これはひどいじゃないかということで、事前の相談があった場合は、難しい案件は別ですが、問題の少なさそうな案件については、15日以内に回答を出すという方針になりました。

 それは結構なことなのですが、「そもそも競争制限になるかどうか、もっとわかりやすい物差し、判断基準を示してくれ」ということも言われております。まだ公式的なことは何もないのですが、本日は私の個人的な見解で、あえて誤解を恐れずにストレートに申し上げます。合併とか株式所有が問題になるかならないかの目安は、まずマーケットシェアです。シェアが25%以内の時には、原則として独禁法では問題にならないだろうという感じがいたします。

シェア25%超の合併も可能に

 次に、25%から50%ぐらいの間の合併、株式所有ですが、競争制限にならないという事情をきちんと説明できれば、これは問題にならない。例えば、輸入がどんどん入ってくるとか、強力な競争相手がいてなかなか自分だけで市場を左右できないとか、そういう事情がそれなりに説明できれば、25から50ぐらいの間は問題ないという結論が出る可能性が多分にあると思います。

 問題は、50%を超えたらどうなるか。これは原則的に言ってだめだと思います。ただ、その場合でも、例外的に問題を解消する特別の措置、例えば、幾つかある生産設備を第三者に譲渡するとか、あるいは、とりあえず生産部門だけ一緒になって、販売は従来どおりそれぞれのブランドで売るとか、そういう特別の対応措置がとられるならば、これは例外的に50%を超えた場合でも認められる可能性があると思います。多分こういう方向で、いずれ公正取引委員会から判断基準が示されるのではないかと、私も期待しております。