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2003年2月14日(金)第3,965回 例会

日本経済を救うキーテクノロジー

八田 邦夫 氏

日刊工業新聞 編集局長 八田 邦夫

1947年生まれ。同志社大学文学部新聞学科卒業。日刊工業新聞入社。記者時代に金融、行政、自動車(東京)、機械産業を担当。福井支局長、デスク、産業部長、経済部長を経て2002年10月から編集局長。 編・著書に「ナノテクの衝撃」他

 日本の社会を見ると、マクロ経済などが迷走している中でたった一つはっきりと力を示しているものは技術力です。OECDなどの発表によると、日本経済の競争力は世界で30位ですが技術力は米国に次いで2位です。90年代は「失われた10年」と呼ばれますが、技術の世界のかたは「とんでもない、この間に技術力は猛スピードで発達した」とおっしゃいます。いわゆる「失われた10年」に蓄えられた技術のマグマは、もうすぐ一気に吹き出すと確信しています。その技術力の最たるものについてお話します。

ナノテク戦略で先行した米国

 技術力における日米の戦いは、1980年代には日本が大変優勢でした。その間米国は日本を研究、それもマクロよりミクロを研究し尽くしました。その結果、米国が90年代以降に重視しだした分野は、金融工学や情報通信そしてナノテクノロジー(微細技術)です。

2000年1月にクリントン政権はNNI(国家ナノテクノロジー戦略)という政策を打ち出しました。一般教書で発表し、世界にナノテク衝撃が走りました。

 ナノテクのナノとは、10億分の1、つまり10のマイナス9乗という極小のサイズです。10億分の1メートルはこうたとえられます。1メートルを地球の大きさとしますと、10億分の1メートルはなんとピンポン玉の大きさです。この微小な世界をこんにちでは特別の顕微鏡で見ることができ、さらに操ることもできるようになりました。このことが大きい。

 ナノテクの身近な利用例に化粧品があります。今までのミクロンくらいの微粒子ですと肌にのりにくいとか浸透しなかった。皮膚の穴はナノのサイズです。そこで、化粧品の粒子もそれくらいの小ささにすれば極めてのりがよく、肌に優しくなります。わたしの新聞が日々報道するニュースのほとんどはナノテクに関わっていくだろうと確信しています。

モノづくりでがんばる日本

 日本はモノづくりでは、世界のトップを走っています。世界トップの製品がいっぱいあります。乗用車、造船、二輪車、工作機械、金型、産業ロボット、複写機、ビデオテープレコーダー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、デジタルカメラ、カーナビ、テレビゲーム、腕時計、液晶表示装置、リチウムイオン電池、半導体製品など日本がトップシエアを押さえています。

 ナノテクはどれくらいのマーケットを持つかというと、2010年あたりには国内で30兆円ぐらいの市場になると調査機関は発表しています。そんな有望なナノテクについての米国の政策はこうです。NNIを宣言した直後の2001年度には5~600億円の予算を組みました。この連邦政府予算とは別に、各州もナノテク予算を組むので、米国のナノテク推進予算は膨大な金額です。しかも米国は連邦政府を中心に海軍、陸軍、大学、研究所などもろもろの機関とリンクしています。日本も2001年度くらいから年間500億円ほどの予算を組んでいます。ただしこれはバイオテクノロジーの予算を含んでいます。それで、これではいけないと、2002年度、2003年度と次第に増額し、年間で大体700億円ほどを投資しています。

 しかし日本の技術力は世界2位だというのになかなか景気に結びつかない。その理由の一つは、各界とのリンケージの不足だとよく言われます。基盤技術が特許に結びつく率が、日本は0.5%だとしますと、米国は3%とか4%の比率です。だから日本も、産学連携など政策をきちんとやれば技術の成果が景気につながると思います。

 これは大阪大学の川合知二教授の話ですが、3ナノメートル以下のサイズのものは、人体は栄養素とみなす。だから、血液中に流れていると栄養素として体に吸収してしまう。400ナノ以上のものは、異物とみなして排出してしまう。それなら、3ナノと400ナノの間の物質を人体はどう処理するか。血液の中をぐるぐると回るそうです。だから、このサイズのナノ物質をうまく利用すれば、血液の中を走らせてがん細胞に作用させるとか、ピンポイントで病気を治す――そんなことができるだろうとわかってきたわけです。ナノテクの医学方面への利用です。

ナノテクで日本は負けられない

 最近脚光を浴びているナノテクはカーボンナノチューブです。炭素が紙を丸めたような円筒状に連なっているもので、非常に結合力が強く、しかも軽い材料です。鉄より10倍軽く10倍強い。電子をよく流す。半導体の性質を持つ。これを発明したのはNECの飯島澄男さん(現主席研究員)です。カーボンナノチューブは今ブレークしていて、日本のメーカーは、燃料電池の水素を吸臓する装置とか、半導体とか、携帯電話はじめ電子機器の最先端の材料に使おうとしています。カーボンナノチューブの応用で先頭を走っておられるのが、大阪府立大学の中山喜萬教授です。ナノテクノロジーの理論武装では川合教授が活躍されていて、全国的な会議の座長的なお仕事をしておられます。こうしたかたがたの業績をはじめとして、日本のナノテク研究のレベルは、米国に負けていないと思います。

 いま関西にはナノテクなど最先端技術の先生が集まっています。こんなチャンスはめったにありません。ナノテク以外では、たとえばもう一方の大事な技術であるバイオを見ると、岸本忠三大阪大学総長が国のバイオ戦略会議の座長をしておられます。

 ナノテクなど最先端技術において、日米は大変な「戦争」をやっています。いま負けたら日本はおそらく米国の奴隷になるのではないでしょうか。それくらいの認識と危機感をもって、経済界のみなさまもナノテクに何らかの形で参加していただきたいと思います。