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2022年4月8日(金)第4,829回 例会

自然を生かした建築

藤 森  照 信 氏

建築家 藤 森  照 信 

1946年生まれ。長野県茅野市出身。建築史家,建築家(工学博士)。東京大学名誉教授,東京都江戸東京博物館館長。

 建築の設計を始めたのは45歳のときです。それまでもっぱら建築史の研究をやっていましたが,たまたま縁があり,年に1つか2つぐらいの設計を手掛けています。建築史の方は,文章を書くなどして結構頭が疲れるのですが,設計の方は図画工作の延長みたいな感じで楽しくやっております。本日はほかの人があまりやらない2つの建築についてお話しいたします。

「建築の緑化」に取り組む

 一つ目は「建築の緑化」についてです。30年近く前から,「自然」と「建築」を一体化できないかと考えてきました。それまでも同じことを考えた人は大勢いまして,やり方は屋上に植物を植えるという方法です。技術的にそれほど難しいことはなく,ちゃんとした木が育つぐらいの緑化はできます。しかし私の目には,植木鉢の上に植物が生えているように見えてあんまりよくないなと思っていました。
 実は日本には「芝棟」という非常に変わった伝統があります。屋根のてっぺんのかやぶきに草花を植える技術です。戦前から戦後にかけ,全国を回って芝棟の分布を調べた植物学の先生がいました。芝棟は九州から東北地方まで分布しており,ほとんどが山の中の家屋に残り,里にはなかったようです。「芝」というのは山に生えているアヤメなどの小さな植物を指します。では,なぜそんなことをするのでしょうか。実際にやっている方に聞くと,「屋根のてっぺんが乾かないように」という返事でした。よくわからない理由で,要するにやっている人たちもよくわからないまま,ずっと続けられてきて,現在,日本で100棟残っているかどうかという状況です。
 調べてみると,屋根に草を植える伝統は北欧にもあり,防寒のために草を植えていました。実はユーラシア大陸から北アメリカにかけ,寒冷な地域では古来,住居のてっぺんに土を載せて草を植える習慣があり,今では日本と北欧,そして北欧のバイキングが定住したフランスのノルマンディー地方に残っていることがわかりました。
 屋根のてっぺんを緑化するというのはなかなかうまくいくということで,私の取り組みが始まります。初期の設計例をご覧ください。伊豆大島に建てた友達のアトリエです。親しい友達しかこのような仕事を頼みませんので,友達と一緒に工事をやりました。友達はここで文章を書くなどしています。
 最近の緑化の設計例をお見せします。岐阜県多治見市に建てられた「多治見市モザイクタイルミュージアム」です。屋上のへりにだけ緑化をしています。建築の緑化はメンテナンスが難しいのですが,ここでは木を一列に植えて,水の管理が問題なくできています。大勢の人に来ていただき,とても順調にいっています。

自分が育てた「茶室」

 もう一つ,実は「茶室」をずっと造り続けています。
 元首相の細川護熙さんが陶芸を始めたときに湯河原に工房を造ったのですが,茶室もほしいということで,ひと月で完成させました。自由に造ったわけですが,引き渡したくないという思いに駆られました。茶室というのは細かく手が入れられますから,なんか自分が育てたような感じが出てくるのです。じゃあ自分の茶室を造ろうということになりました。
 出身地の長野県茅野市に建てた茶室「高過庵(たかすぎあん)」をご覧ください。高さがよくわからず,足場を全部取ってみて本当にびっくりしました。人が登ったら倒れるかもしれないと思って慌てて写真を撮りました。実際に中に入ると,ぐーっと傾きます。5人入って,皆がじっとすると止まります。「空飛ぶ泥舟」という茶室も造りました。建物を吊っているのですが,こちらの方が安心できます。人間にとっては,ゆりかごのような揺れは気持ちがいいようです。

建築は施主が造るもの

 最後に,東京五輪に合わせて造った茶室「五庵」を紹介します。近くに見えるのが,隈研吾さん設計の国立競技場です。草の植わったところに穴があり,にじり口となっています。そこから入って2階の茶室に上がり,国立競技場を眺めるというものです。
 こういうちょっと変わった仕事ばかりやってきました。幸い建築の緑化というのは,いろいろな人達が取り組むようになりました。また茶室のような小さな建築への関心というのもヨーロッパではもともとあって,美術館などが時々造らせてくれます。私も3ヵ国で造り,日本でもだんだん関心が出てきています。
 ただ,私の建物は技術的蓄積があまりないことが多いので,うまくいってはおりますが,やはり施主の理解が必要だと感じています。建築は施主が造るんだということをつくづく思う日々でございます。
(スライドとともに)