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2022年4月1日(金)第4,828回 例会

国際数学オリンピックの概要と歴史

藤 田  岳 彦 氏

(公財)数学オリンピック財団
専務理事
藤 田  岳 彦 

1955年兵庫県明石市生まれ。灘中高卒業。’78年京都大学理学部数学科卒業。’83年京都大学講師,’98年一橋大学商学部教授。2011年中央大学理工学部教授。’23年の国際数学オリンピック日本大会開催に向け実行委員長として活動。数学オリンピック財団評議員,理事等を経て現在に至り国際数学オリンピック日本選手団団長も務める。高等学校教科書も編集委員長として執筆中。

 本日は国際数学オリンピック(IMO)についてお話をいたします。年1回開かれるIMOは,大学教育を受けていない20歳未満の生徒が対象で,1959年にソビエト連邦と東欧の7ヵ国でルーマニアにおいて始まりました。年々参加国が増加し,今では100~110ヵ国・地域の代表選手が集まります。日本の初参加は’90年で,先進国の中では一番遅い参加でした。来年は日本開催となりますので,ご支援のほど,どうぞよろしくお願いいたします。

10人のフィールズ賞受賞者を輩出

 IMOのメダリストからこれまで,10人のフィールズ賞受賞者が生まれています。フィールズ賞は数学にノーベル賞がないことから,’24年に創設されました。4年に1回,40歳以下に限定されて表彰されます。2014年に女性で初めてフィールズ賞を受賞した方もIMOのメダリストでした。
 IMOに出場するためには,国内大会で選抜されなければなりません。日本では5,000人ぐらいの高校生・中学生が予選に参加し,約200人が本選に臨みます。本選を通った約30人が春合宿に参加します。今年のノルウェー大会に向けた春合宿がちょうど終わったところで,4日間に及ぶ試験の結果,6人の代表選手を決定しました。
 残念なことに,現在侵攻を受けているウクライナ出身のヨーロッパ女子数学オリンピック選手がロシアの攻撃で亡くなったという話が出てきました。ロシアを大会に参加させるかどうかで今,非常にもめています。一応の案として,個人としては参加させるが,国としての参加は認めないことにしようとしています。ウクライナは強硬に反対しており,ロシアの参加について検討中となっています。

日本が不利な理由= 4月入学

 2019年のイギリス大会で,日本選手団が出発した際の写真をご覧ください。団長を務めた私は写っていません。なぜかといいますと,団長は選手より3~4日前に出発するためです。参加国の団長が大会前に集まり,問題を選ぶことになっています。あらかじめ30問程度が用意されており,団長たちが実際に解きながら6問を選びます。さらに参加する約100ヵ国の言語に翻訳する作業もあります。
 そして試験終了後,団長たちは採点もしないといけません。その間に選手たちは国際交流をしたり,エクスカーションに参加したりしています。表彰式では,成績優秀者に金・銀・銅のメダルが授与されます。スポーツの五輪と違って,約半数の参加者がメダルを受賞し,金・銀・銅の比率は大体1対2対3とすることになっています。
 世界の強豪は中国,米国,ロシア,韓国の4ヵ国です。特に中国はこの20年で1位を16回取っています。1990年の中国大会で初参加した日本は,数学が得意な国ということで有名ですが,IMOでの成績は近年,大体10位プラスマイナス5のあたりを推移し,滅茶苦茶いいわけではありません。
 これには理由があって,日本には4月入学という不利な面があるためです。
 IMOは7月に開催されます。大部分の国は9月入学ですので,7月は高校卒業後の夏休みにあたります。だからこそIMOは7月に行われるのですが,日本では7月はもう高校を卒業して大学に入っていますので,大学生だとIMOに出場できず,ほかの国より1学年下からしか参加できません。残念ながら日本が10位前後になる大きな理由の一つです。
 ただ,4強に入っている韓国も4月入学です。これも理由があって,日本は灘や筑波大附,開成などの高校だけでなく,近年は地方の高校からも出場しますが,韓国はソウルの高校1校からしか出場しません。その高校に生徒を集め,毎週土・日にソウル大学に通わせてトレーニングを行うことなどもやっているようです。5月卒業の米国は,6月に1ヵ月キャンプを行ってトレーニングしていると聞きます。

来年は幕張メッセで開催

 日本のメダリストは帰国後,文科省を表敬訪問するのですが,10年ほど前のエピソードで,当時の大臣が「将来は数学者になるんですか?」と生徒に聞いたところ,「数学は儲からないから数学者にはなりません」と答えてしまい,ちょっと悲しかったです。
 ただこの頃から変わりつつあります。これまでは代表選手6人中,半分が医学部,半分が理学部に進んでいましたが,近年は大部分が理学部に行くようになり,AI,データサイエンスの分野を目指すメダリストも増えてきました。産業界とのつながりも多くなると思います。
 来年は幕張メッセで開催されます。会期は7月2~13日で,110ヵ国・地域から選手600人,役員等400人の計1,000人が参加します。4億円の予算のうち,科学技術振興機構(JST)に半分支援していただけますので,あとの2億円を集める形になります。東京を中心にかなり寄付は集めたのですが,まだ少し足らないということで,本日はできれば寄付をお願いしたいということで参りました。銅メダルを含めて約300人がメダルを受けることになりますが,スポンサーになっていただけますと,表彰式で選手にメダルをかけることができます。関西の企業の方々にもぜひともご支援をよろしくお願いします。
 数学者は9割以上が男性で,女性は少ないわけです。そこで女子だけの大会をつくらないといけないということで,10年ぐらい前にヨーロッパ女子数学オリンピックが始まりました。ヨーロッパという冠がついていますので,日本はオブザーバーで参加しています。私も何回か団長を務め,’19年はウクライナ大会,’15年はベラルーシ大会に行きました。女子への浸透もかなり進み,参加人数も少しずつ伸びています。男子に負けないような女子も育っております。
(スライドとともに)