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2021年9月3日(金)第4,802回 例会

探求でつくる日本の未来

宮 地  勘 司 氏

(株)教育と探求社 代表取締役社長 宮 地  勘 司 

1963年長崎県生まれ。’88年立教大学社会学部卒業。同年,日本経済新聞社入社。2002年,自らの起案により日本経済新聞社内に教育開発室を創設,新聞資源を活用した教材開発に取り組む。’04年11月教育と探求社を設立,代表取締役就任。生徒自ら探求する教育プログラム「クエストエデュケーション」を全国の中学・高校に向けて展開。200校を超える学校の正規授業に導入。

 「教育と探求社」を2004年に設立しました。日本経済新聞社が大好きでしたが,残りの人生を教育にかけようと思って飛び出しました。何をする会社かといいますと,学校を,「知を消費する」場所から「知を生産する」場所に変えることに取り組んでいます。「学校は誰かが見つけた正解を学んでいればいいんじゃないの?」「わざわざ『知』なんて生産しなくても」という考え方もあるでしょうけれど,私たちはそういった学校が必要だと思っています。

一人で700年分の変化を生きる

 この数年,「ドッグイヤー」という言葉が使われています。犬は1年で7歳分の年を取るということにかけて,1年間で7倍の変化が起きているという意味です。現代はそれほど技術の進化,時代の変化が激しくなっています。今は「100歳まで生きる時代」ですから,今の小学生は100歳まで生きることになります。つまりこれからの子どもたちは,これだけの変化の時代を100年間生きるわけで,7倍速ですと700年分の変化を生きることになります。今から700年前といえば後醍醐天皇が即位した時期。室町,安土桃山,江戸,明治,大正,昭和,平成,令和の時代を一人の人間が生きることになり,様々な価値観やライフスタイル,文化,技術,社会制度があることを知っておかないといけません。今の子どもたちは全く未踏の領域を生きていくことになります。大人も先生も正解はわかりません。
 PISAの学力調査の結果をみると,日本の数学的リテラシーは圧倒的なナンバーワン,科学的リテラシーもほぼトップクラスです。一方,「数学的リテラシーと学習意欲」という項目では,日本がビリなんです。「数学に興味がない」「数学は将来役に立たない」と考えているのに,学力は世界でトップクラスというのは,不気味じゃないですか。何のために学んでいるのか,これが何の役に立つかわからないまま勉強し続けて,成績だけ世界でトップ。これが700倍の変化で生きていく時代に果たして通用するのか,というのが大きな問題意識です。
 大人はどうでしょう。OECDの調査では,数学的思考力の平均点で日本は圧倒的に高いのですが,「新しいことを学ぶのが好き」という項目がとても低い。「失われし30年」と言われていますが,イノベーションが少ない企業,チャレンジしないビジネスマン,主体性なき市民,迷走する政治,という状況がずっと続いています。世界の時価総額ランキングでみても,1989年は上位100社に日本企業が82社も入っていましたが,2019年は1社,トヨタだけです。この変化は絶望的で,トップ10位のうち,7社が新興企業です。旧来型の企業の代わりに新しい企業が出てきて爆発的な成長を遂げているのです。

現実社会と教室をつなぐ探究学習

 あんなに優秀だった日本がなぜこのような状況になったのでしょうか。学校とは,社会に出て迷惑をかけずにちゃんと役に立つように,一つの既製品として子どもをつくり上げて送り出すところ,という意識がどうしても私たちの中にあります。でも本当は,人が本来持っている力を存分にいかして,喜びと共に生きていける社会をつくらないといけないのではないでしょうか。そういう社会を実現するために,私たちの会社は,子どもたちが主体的・創造的に学ぶ「クエストエデュケーション」というプログラムを学校に提供しています。
 「クエスト」とは探求することで,クエストエデュケーションは,現実社会と教室をつなぐ探究学習のプログラムとなります。自分が生きていく社会はこれからどのように変わっていくのかを知りながら学んでいくことがとても大事です。クエストエデュケーションは,すでに中学校の3割,高校の7割,その他小学校や大学でも導入され,学力に関係なく幅広い学校で取り入れられています。
 私たちは,先生たち向けに事前に研修を行い,授業もサポートします。テーマも,実在する企業だけでなく,本田宗一郎氏や安藤百福氏ら実在する人物について学んだり,社会課題やスタートアップなどを取り上げたりしています。

精神こそが未来をつくる

 クエストエデュケーションによる変化はたくさんあり,学力が上がって進学実績がすさまじく伸びる学校もあります。でも,私たちが大事にしているのはそこではありません。プログラムの前後で,「社会をよりよくする仕事に就きたい」と考える生徒が13ポイント増え,「自分に自信がある」と答えた生徒の割合も11ポイント増加しました。ほかにも「自分たちの力で社会を変えていけると思う」「世の中には実は可能性がたくさんある」と感じる生徒が増えており,これこそ日本に必要な力だと考えています。
 人間は思考能力を高めてきましたが,その能力ももうすぐAI(人工知能)に抜かれるかもしれません。そのときに私たちの存在は何かというと,私はスピリット,精神だと考えます。精神こそが未来をつくり,創造性も精神から出てくると思っています。いま盛んにSDGsの達成が求められていますが,誰一人取り残さない社会というのは,私たち一人一人の精神性が高まることでしか実現できないのではないでしょうか。学校が,子どもの精神性を高めるというと,昔,軍国主義とかいろいろなことがありましたので,私たちは少し臆病になっています。根性論ではなく,精神性をどれだけ高めていけるかが,これからの学校が担うべきことだと思っています。
(Zoom参加で卓話,スライド・映像とともに)