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2021年4月16日(金)第4,786回 例会

コロナ禍で聴きつづけるいのちの電話 現状報告

八 尾  和 彦 氏

関西いのちの電話 常務理事 八 尾  和 彦 

1947年和歌山市生まれ。滋賀県近江八幡市で育ち,中学まで創立者メレル・ヴォーリズの近江兄弟社学園(現・ヴォーリズ学園)で学ぶ。関西学院大学神学部中退,佛教大学社会学部社会福祉学科卒業。’74年大阪YMCAに就職の後,一冊の書物をとおして「いのちの電話」に出会う。’96年より社会福祉法人関西いのちの電話 事務局長。2015年より理事,’19年事務局長代行,’20年常務理事として,同団体活動・運営に携わる。

 「関西いのちの電話」は24時間365日,電話を聴き続けております。盆・正月といった休みはありません。文字どおり毎日聴き続けていますが,コロナ禍になりまして,相談員ももちろん一般市民ですので,やはり外へ出かけるということには非常に危機感を覚えたりもします。しかし,そういう危機感というものを抱きながらも,こういう時だからこそ悩みの声を受け止めていきたい,いかねばならないという気持ちで,相談員同士がシェアをしながら,電話活動を24時間続けていくということであります。
 正直に申しますと,通常のときよりは相談員の延べ人数が8割ぐらいになっていますが,これはもういたし方ないと思っています。「いのちの電話」はボランティア活動ですけれども,コロナ禍におけるこの活動はまさしくボランティアの中のボランティアだと私たちは自負しています。

コロナをきっかけに表面化

 コロナ禍で,「いのちの電話」にはどのような電話が入ってくるかということですが,まず大まかなことを言いますと,初期はウイルスが蔓延していることへの漠然とした不安で,コロナのせいでうつ状態に,あるいは以前からうつなんだけども,コロナでますますひどくなっていくとか,持病を持っている,いつコロナにやられるかもしれない,などのようなことです。
 そこから少し進んで6月頃には,コロナ禍に絡む具体的なことが出てきます。失業,収入がない,先行きが見えなくて不安,家族同士でイライラ,攻撃的になる,訪問看護の看護師さんが来ない,心配…などです。さらに進んできますと,コロナをきっかけとして,本人が抱えていた問題が表面化してくる,という感じです。コロナだからこうだということではなくて,コロナをきっかけに,そもそも自分が持っていた問題が表面化していく,という感じがします。
 秋以降には,様々な問題,事柄が絡み合って,コロナ問題がもう日常化しているということになります。よく言われますが,自殺は1つ,2つの要因ではなくて,少なくとも4つ,5つの要因が絡み合っていると言われていますけども,「いのちの電話」にかかってくる電話も,三重苦,四重苦と言ってもいいほどの電話が度々ございます。
 印象的に申しますと,うつ,統合失調症などの精神的な病といった方が多いです。あるいは障害,ハンディキャップを抱えている人たち,あるいはDV,虐待に心身を痛めつけられている人たち,失業で苦しむ人たち,生活保護を必要とする生活困難な方々…,そういう電話がひしめき合っております。

いろんな問題が重なり合う

 その中で一つ特徴は,非正規雇用,あるいはシングルマザーといわれる社会的弱者,女性ですね,そういう方からの電話です。
 もう少し具体的に,こんなケースがありますと少しご紹介したいと思いますが,いのちの電話は,とにかくいろんな課題,問題,苦しみが重なり合って,絡まっているんです。ですからそれを皆さんにお話しすることは至難の業でありまして,内容をできるだけシンプルにして,象徴的なケースを取り上げるというような手法でご紹介したいと思います。
 シングルマザーの方,「バイトをいくつかかけ持ちしてこれまで突っ走ってきた。コロナでいずれも失業。生活保護を申請したけれど,とにかく家族のこともいろんなこともしゃべらないといけない,とても屈辱だった」。
 70歳代の女性,「ケースワーカーさんに生活保護は廃止になるよと言われた。びっくりしてお医者さんにそういうことを尋ねたら,それはないやろうということだった」。
 20歳代の女性,「コロナで仕事ができない。3ヵ月ぐらい我慢すればいいかなと思っていたが,いつまで経っても終わりが見えてこない。家庭内もめちゃくちゃ」……。
 もっともっとあるのですが,ピックアップしてご紹介をさせていただきました。

心の奥底では生きたいという思い

 「ありがとう」というような言葉もございます。「昨晩からずっと死ぬつもりでいたけれど,何時間も聴いてもらって,私を死から遠ざけてくれた。こんな他人の話を根気よく聴いてくれてありがとう。気持ちが少し落ち着きました。もう1日頑張ってみます。仕事探してみます」。「あのときのあの一言で救われました」というような,「ありがとう」の言葉をいただくこともあります。
 「いのちの電話」は,たかが電話です。しかし,私はされど電話ということを強調したいと思います。死にたいと訴えてくる人は,心の奥底では実は私も生きたいと。本人は決してそんなことは意識していないと思われますが,われわれから見ると,電話をしてこられるということは,やはり生きたいという思いを,願いを持っておられると思うんです。ですから,簡単に頭から否定するのではなくて,まずその思いを受け容れていく。そして,耳を傾け,寄り添っていくことが大事だと思います。そういうことが実際に行われたとき,電話をかけてきた人は,やっと私のことをここで受け容れてくれた,認めてくれたということでホッとされ,重荷から解かれていくのではないかなと思います。
相談ダイヤル:06-6309-1121(24時間・365日)
自殺予防いのちの電話フリーダイヤル:0120-783-556(毎月10日8:00~翌日8:00)