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2020年7月31日(金)第4,758回 例会

新国立競技場整備事業と都市と緑のネットワーク (環境共存型スタジアム)について

北 口  雄 一 氏

大成建設(株) 常務執行役員 建築営業本部
副本部長
北 口  雄 一 

1960年生まれ。’84年日本大学大学院理工学研究科建築学卒業。同年大成建設(株)入社。2015年執行役員東京支店新国立競技場担当。’20年常務執行役員建築営業本部副本部長。

 環境共存型の新国立競技場につきまして,設計上のいくつかのコンセプト,ポイントをご説明します。
 ちなみに工事につきましては,ピーク時は作業員が1日約2,800人,そして労働時間としては1,400万時間という膨大な時間をかけてつくり上げました。
 環境共存型ということで,隈 研吾先生のご協力をいただきながら設計を進めました。工事概要としては,大体平面的に言いますと,東京ドームが2つ半ぐらいおさまる規模です。高さは47m,ちなみに大阪ドームよりは30mほど低い建物です。観客席は,オリンピック時は約6万人で開催する予定でしたが,マックスは8万人の席までセットできます。工期は3年(36カ月)で竣工しました。

全国の木材を使った外装

 設計のコンセプトは大きく3つあります。「木と緑のスタジアム」,それから競技者,アスリートのための「臨場感のある見やすいスタジアム」,また「環境共存型スタジアム」ということで,木材を多く使うということで取り組んでいます。
 まず立地条件ですが,明治神宮の内苑から皇居まで,貴重な東京の緑の中に国立競技場があります。これらをつなぐ緑に囲まれたスタジアムです。
 外観は,木材(スギ)を使用しまして,「軒庇(のきびさし)」で表現しています。全国の木材を使いまして,イメージとしましては日本最古の五重塔でございます,法隆寺の垂木(たるき)をイメージした形での外装になっています。
 木材につきましては,47都道府県から軒庇の材料を集めまして,それぞれを,北で採れた木材は競技場の北のほうに,南で採れた木材は競技場の南のほうに配置しています。
 「大地の杜」と「空の杜」という言葉を使っています。東側と西側にもともと9mの段差があったのですが,高いほうの東側のレベルでぐるりと一周,人が歩けるペデストリアンデッキを構築しまして,「大地の杜」として人が自由に散策できる場所をつくっています。

「森の木漏れ日」を客席に

 続いて,臨場感,見やすさというところをご説明します。今回のスタジアムは3層構造になっています。上に行くほど角度が急になっていますが,どの席からもフィールドが見える競技場です。
 椅子につきましては,モザイク模様の椅子を配置しまして,人がいなくても賑わいのあるスタジアムを演出しようということで設計されています。
 ちなみに隈先生のイメージは,「森の木漏れ日」を客席に表したいということで,5色の色をコンピュータ上ではじき出して,設計してセットしています。下のほうがフィールドに近い茶色が多くて,中段が緑,そして上のほうが雲に白く抜けていくような形で白を多く配置しているというような形でご覧いただけるかと思います。
 様々な方が利用するということで,世界最高水準のユニバーサルデザインを実現しています。例えば車椅子を利用する方には同伴の方が必ずいらっしゃいますので,そういう方の客席も常にペアでセットしています。
 特にオリンピックは暑い時期を想定していますので,空気の流れをうまく利用しようということでいろいろ知恵を絞りました。その結果,外からの風がスタジアムの中に,コンコースも通って入ってきて,中央でフィールドの熱によって上昇気流が発生し,空気が逃げていくというような大きな風の流れをつくっています。無風の場合は送風機のファンが強制的に風をつくるというシステムもあります。
 一番上の大きな軒庇から夏の風をスーッと中に取り入れたいので,南面につきましてはこの庇の間隔は非常に狭くなっています。冬の風はフィールドにおりるとやっぱり寒いので,そのまま通り抜けさせたいということで,北側のほうの庇につきましてはピッチが粗くなっています。

施工上神経を使った屋根

 軒庇の木材は森林認証された森から伐採しまして,地球環境保全に注意を払いながら工事を進めてまいりました。
 構造的なことで,一番施工上神経を使ったのが屋根です。根元から60mはね出して何も支えがない片持ち屋根で,これを3つに分けて,空中でジョイントしながらつくっていくということで,2年目のこの屋根の工事が実は工程上一番重要という形で進めてまいりました。
 屋根につきましては,選手が見上げたときに,木材の温もりをということで,鉄骨にそれぞれラチス材にはスギ,下弦材にはカラマツを,このような形でセットして鉄骨を建てました。
 最後に工期厳守ということで取り組んできましたので,PC化できるものはほとんどPC化し,要は外の工場でつくったものをこの現場に運びクレーンで取り付けていくということで進めてきました。
 本来であれば,オリンピックが今真っ最中というイメージで工事を進めましたが,いずれにしてもこのスタジアムは周囲の神宮の森に調和して,新しい時代のスポーツや文化の発信拠点として,また,都民,市民の皆さんに楽しんでいただく開かれたスタジアムとしてこれから活用していただくことを,祈念しています。
(スライド・映像とともに)