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2020年7月10日(金)第4,756回 例会

バリアバリュー ~障害を価値に変える~

垣 内  俊 哉 氏

(株)ミライロ
代表取締役社長
垣 内  俊 哉 

1989年生まれ。2010年立命館大学在学中に(株)ミライロを設立(ユニバーサルデザインのコンサルティング事業)。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザー,日本財団パラリンピックサポートセンター顧問。’18年Japan Venture Awards経済産業大臣賞,関西財界セミナー特別賞を受賞。

 バリアバリュー。聞きなれない言葉かと思います。バリア(障害)をバリュー(価値)へと変えていくことが必要だと,ミライロでは掲げています。バリアフリーという言葉,幾度となくお聞きになったことでしょう。バリアフリーはとても大切です。しかしこの言葉をよく見れば,バリア(障害)をフリー(取り除く)となっていて,このアプローチは,障害がなければいいものとされています。

人生の幅は変えられる

 私は骨が弱く折れやすいという魔法にかけられ生まれてきました。今まで,人生の5分の1は病室で過ごしました。歩きたい,走りたいという思いが募り続け,私は岐阜県に育ちましたが,大阪へ来て手術,リハビリをしました。でも歩くことは叶いませんでした。
 17歳のときには車椅子をこぐこともできなくなりました。ある神経の病を発症し寝たきりになりました。車椅子に乗れることもありがたいと初めて気づきました。それからリハビリを続けました。症状が落ち着いた矢先,ドクターから45歳になれば再発するであろうと宣告されました。当時の私の年齢から45歳まであと何日あるのか計算すると,9,500日しかない。今日まで言い聞かせてきました。仮に人生の長さを変えることができなかったとしても,幅はいくらでも変えられると。
 残された時間を知って探し始めました。「歩けなくてもできること」を。でもその先に「歩けないからできることもある」と今では確信しています。20歳のとき大学の友人とここ大阪で起業しました。大阪の皆さんに支えられ事業を広げることができました。

バリアフリーを牽引してきた大阪

 日本は江戸時代,世界的にみても障害者に手厚く接してきました。明治からの富国強兵の時代には障害者は不遇の時代を生きましたが,戦後からまたいい流れが生まれます。高度経済成長を背景にバリアフリー化が加速度的に進みます。特に進んだのは1970年の前回の大阪万博からです。今街中で見かける点字ブロックは岡山県で開発され,日本で初めて敷設されたのは,ここ大阪です。旧国鉄阪和線我孫子町駅で初めて設置され,東京でも広がり,今や点字ブロックは世界に広がっています。駅のエレベーターは1980年代,地下鉄谷町線の喜連瓜破駅で初めて付きました。それをきっかけに,今では東京,名古屋などでも駅にエレベーターは当たり前です。バリアフリーを牽引してきたのは大阪です。
 大阪がリードする形でさらに2000年代以降,状況が変わってきました。例えば高槻市にJR高槻駅と阪急高槻市駅が近くにありますが,エレベーターがあるのは阪急高槻市駅でした。法律や条例が変わってJR高槻駅にも約4,000万円をかけてエレベーターをつけました。その結果,障害者,高齢者,ベビーカーを押す両親など利用が増え,高槻駅周辺で年間約2億円の効果があり,十分に元が取れたといわれています。社会貢献という文脈だけでなく,これからは経済活動としてバリアフリーを進めていかなければいけないと。2025年の万博に向けて日本,そして大阪はもっと変わっていけるはずです。
 今日本は「惜しい」現状にあります。できていないわけではないということです。バリアフリーはとても進んでいます。世界的に見れば,大阪は断トツでトップクラスです。しかし環境面ができていても,外出したくなるかどうかは別です。なぜかと言えば,多くの人が障害者や高齢者に対して二極化しているからです。無関心か,過剰のどちらかです。

社会性と経済性, 両輪で

 社会にどんなバリアが存在しているか。大きくわけると「環境」「意識」「情報」の3つです。
 環境でこれからやるべきことは,バリアをなくすのではなく,つくらないことです。後からスロープなどをつくるとなれば余計にお金がかかります。設計の段階から十分に考えておけば,お金をかけずにバリアフリーを実現できます。
 意識のバリアを解消することは簡単です。知識をつける,経験を積む,理解を深めるということです。
 特に今求められているのは情報のバリアの解決です。お店がバリアフリーかどうかわからないことが何よりもバリアになっていて,必要なのは情報発信です。例えばリーガロイヤルホテル小倉のホームページ上では車椅子でお越しになる方が気にされている,浴槽の深さが何センチなのかなどのことがわかります。ここなら大丈夫だと事前にわかれば,普通の部屋も選べるわけです。
 最後に,市場性・経済性について話します。これから特に重要になるのはご高齢の方への取り組みです。
 なぜならば,加齢に伴って様々な身体的不自由が増えて,視力,聴力,握力などの低下が同時進行します。つまりご高齢の方の潜在的ニーズは,障害者のニーズを統合した状態にあるわけです。これからいかにしてご高齢の方が外出しやすく,消費をしやすく,サービスを利用しやすくするか。今,こうした視点が世界的に高まってきています。
 世界銀行の調べでは世界で暮らす障害者は10億人以上と言われています。その方の周りには家族もいる。障害がある方を中心とし,周囲の方々の購買力を含めれば,マーケットは8兆ドルにも及ぶということです。
 障害者に対することとなれば,どうしても社会貢献という言葉が最初にきます。でもそれだけでは長続きはしません。社会性と経済性,両輪あってこその継続です。日本で最初にバリアフリーに着手した大阪だからこそ,商いと社会への貢献をしっかりと同時に,皆さんと進めていければと願っております。
(スライド・映像とともに)