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2019年9月13日(金)第4,730回 例会

メタボリックシンドローム誕生の歴史

松 澤  佑 次 君(内科医)

会 員 松 澤  佑 次  (内科医)

1941年和歌山県生まれ。’66年大阪大学医学部卒業,’91年同大学教授。2000年~’02年医学部付属病院長,’03年名誉教授,住友病院長,’19年6月より住友病院名誉院長・最高顧問(現職)。1993年当クラブ入会。健康を守る会委員長,R財団委員長・理事,職業奉仕委員長・理事を歴任,2008年S.A.A.,’12年会長。

 私は,日本動脈硬化学会をベースに,心血管を守るという研究をやってきました。病気の原因は,遺伝的とか体質の問題がありますが,生活習慣とか環境という後天的な要素も非常に大きい。心血管病の心筋梗塞や脳梗塞は,がんと並んで寿命を決める病気ですが,これは生活習慣の影響が極めて大きい。逆に,生活習慣を正しくすれば,それを防止することができる,そういう意味で重要です。

皮下脂肪と内臓脂肪

 WHO(世界保健機関)が出す「世界各国における肥満者の頻度」。(体重÷身長の2乗)で表したBMI,日本では25以上が肥満ですが,高度肥満(35以上)は少ない。しかし糖尿病の頻度はアメリカと変わらない。日本は小太りからでも糖尿病になる人が多いのです。だから肥満の程度で病気が決まるわけではない,というのがわれわれの主張でした。
 脂肪組織の研究がスタートで,肥満というのは皮下脂肪が多いということしか頭の中にありませんでした。おなかの皮のすぐ下のつまんでわかる脂肪が皮下脂肪です。しかし,腹腔内や腹筋で囲まれたところに脂肪がたまっている人が多いということが明らかになり,いろいろな研究を経て,肥満と関係すると言われていたほとんどの病気は,この内臓脂肪の蓄積が決めているということがわかったわけです。
 内臓脂肪が決める病気としては,糖尿病,脂質異常,中性脂肪が高い,善玉コレステロールが低い,インシュリン抵抗性,高血圧,心筋の異常,睡眠時無呼吸症候群などです。それから一番恐い冠動脈疾患,心筋梗塞,脳梗塞も内臓脂肪が決めています。
 おなかの周りに脂肪があるぐらいの人は,皮下脂肪がたまっても糖尿病にはなっていない,逆に内臓脂肪はたまればたまるほど多くの病気を起こすことがわかりました。糖尿病,高血圧,脂質異常症のどれかが1つ以上起こるのは,へそ周辺の内臓脂肪の面積100㎠の場所。そういうことが分かり「内臓脂肪症候群」という概念を提唱,後に「メタボリックシンドローム」という名前になりました。
 内臓脂肪が蓄積することによって,脂質異常・糖尿病・高血圧が一人の人に重なって起こる。その人は病気ごとに薬漬けにされていたのですが,内臓脂肪を減らせば一網打尽に改善できるだろうという概念を日本の8つの学会の同意を得て発表しました。
 さらに内臓脂肪をCT撮影しないといけないというのでは普及しないだろうと考え,検討した結果,一番簡単なのは内臓脂肪と相関するマーカーというのが「ウエスト(腹囲)」だということになりました。しかしこれが後に,服のサイズを測るようなことで病気を診断するのか,非科学的だと論議されました。
 内臓脂肪が大きくなるとウエストが太っていくわけですが,女性は皮下脂肪が多いので必ずしも正確ではありません。それで内臓脂肪100㎠のところのウエストは?と,たくさんのCTスキャンを撮って分析すると「男性は85㎝,女性は90㎝」になりました。しかし必ずしも理解されませんでした。

メタボリックボシンドローム,概念と対策

 2005年,8つの学会が「メタボリックシンドローム」という概念を発表,しっかり生活習慣病を対策する,内科学会が医療の中でする,これを厚生労働省の医政局にお話ししました。しかし健康局が生活習慣病による医療費の高騰を何とかしなければと考えているときで,こういう疾患概念を健康政策にしようと健康局が進めました。
 このメタボリックシンドロームという疾患概念をベースとした検診制度を特定検診,特定保健指導として行い,メタボと診断した人に,保健指導をして生活習慣を変えていただくなどし,最終的には病院に行く人が減るだろうということを念頭に,2年間準備し’08年からスタートしました。
 科学的分析で,内臓脂肪がたまると大きな病気になるということがわかりました。大事なことは,脂肪細胞というのは悪者だけでなく,糖尿病,がんとかの炎症を防ぐいわゆる万能ホルモン,長寿ホルモンと言われている善玉ホルモン「アディポネクチン」を大量に分泌していることもわかりました。
 メタボリックシンドロームの対策としては,「内臓脂肪を減らすこと」「アディポネクチンを増やすこと」です。
 運動することがなぜ重要かと言いますと,例えば力士は,腹腔内にはほとんど脂肪がない,皮下脂肪と筋肉ばかりです。だから,少なくとも現役の間は,コレステロールも中性脂肪も血圧も血糖も大体正常です。糖尿病の患者でも,食事療法と運動療法をしっかり続けていくと,内臓脂肪は減ります。内臓脂肪は運動と非常に相関していて,運動するとすぐ燃えて,筋肉を発達させ,筋肉と内臓脂肪の間でエネルギーの交換があるのです。また減量で,アディポネクチンという善玉が増えるということも分かりました。
 「1に運動,2に食事,しっかり禁煙,最後に薬」です。タバコを吸ったら善玉が下がります。だから禁煙というのは重要です。

医療費を減らす

 厚生労働省の目的は医療費を減らすことですが,5年目の検証で,特定検診,特定保健指導をしっかり受けた人で,1年間の医療費が数千円下がったというデータが出ました。厚生労働省はこれを続け,経済産業省は健康経営を推進するということをやります。
 内臓脂肪が大事だということが確認されたということが,この7月に医学雑誌「ランセット」(発行国オランダ)に掲載されました。われわれのところからスタートしたことも書いていただきました。ようやく世界の人も注目するようになったということです。
 最後に,テレビ東京制作「ルビコンの決断」という番組で,「男性85㎝,女性90㎝」と決定するまでの経過を,40分のドラマにしていただいております。10分のダイジェスト版をお見せしたいと思います。
(スライド・映像とともに)