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2019年6月14日(金)第4,719回 例会

異次元の大統領トランプ:
今後の内政の展開と国際政治の行方

簑 原  俊 洋 氏

神戸大学大学院 法学研究科 教授
インド太平洋問題研究所 理事長
簑 原  俊 洋 

1971年米国カリフォルニア州生まれ。カリフォルニア大学デイヴィス校卒業。’98年神戸大学法学研究科後期課程修了。博士(政治学)。日本学術振興会特別研究員を経て,’99年神戸大学法学部助教授。2007年から神戸大学大学院法学研究科教授,’19年からインド太平洋問題研究所理事長。ハーバード大学,オックスフォード大学,ライデン大学,ソウル大学,中央研究院(台湾)などで客員教授を務める。

 インド太平洋問題研究所では一般的に安全保障に対する理解を深めていきたいということで,業界の壁を取り除いて,防衛省関係者,自衛官,さらには学者,あるいはメディア関係者,企業の方と連携して,共に安全保障を勉強しようというのを目的としております。

大国間競争の時代の始まり

 先日のトヨタ自動車の豊田章男社長の「わが社は,あるいは自動車業界は,100年に1度の大変革を今迎えている」という言葉は,今の世界自体を表すのではないかと思います。
 要は100年を経てアメリカという大国の力に限りが見え始めている。もちろんアメリカの力というのは当分ナンバーワンであり続けますが,少なくとも明白なチャレンジが出てきているのは事実です。他方アメリカが世界秩序を担うんだという概念に対しても,やはり今までとちょっと違う。ですから,私は激動の時代が待ち構えているのではないかと思います。G2の時代,大国間競争の時代の始まりですね。
 習近平はスピーチで,建国から100年を経て中国は大国になり,アメリカを抜くんだ,「中国覇権2049」と言っています。ファーウェイの5Gをはじめ,技術において中国はトップクラスに出ているので,次はアメリカと並んで抜き去り,その後,軍事的に抜くために中国は莫大な投資をしているわけです。
 一方アメリカは,自信を喪失し,衰退期にさしかかってきています。だからこそ,アメリカファーストを主張する。アメリカはもう完全に中国と対峙するモードに入っています。アメリカは他の追随を許さないということを国家的DNAにしています。そうするのであれば,普通は自分の仲間たちとの連携を強めると思うんですが,今のアメリカは,同盟国に対して通商の圧力をかけている。ここのねじれは私は全く理解できません。この余波が今後どうなっていくのかが,アメリカを見る上でのポイントじゃないかと思います。

独裁者としてのトランプ

 トランプは疑似的独裁者です。アメリカは民主主義の基盤が盤石ですが,彼は独裁者が大好きです。独裁者の帝王として有効なのは,ローマ時代から言われている「パンを与え,サーカスを見せろ」ですね。21世紀のアメリカの“パン”は「職」,雇用ですね,“サーカス”は彼のハチャメチャな言動やツイートです。
 彼は昨日「選挙に勝つためになら,ロシアから支援してもらってどこが悪い」と言いました。今までそんなことを言う大統領はいなかったわけで,その異次元の大統領であるということが,彼の支持者にとってはむしろ魅力的なんでしょう。
 2020年にトランプの再選はあるのか。私が個人的に問われたら,「それはわからない。今の段階では早すぎるよ」と答えますが,先週会ったアメリカ内政の専門家は「いや,トランプが勝てるはずないでしょう。アメリカの国内のデータを見ると,もう彼は中西部を失っているよ」と言っていました。現にアイオワ州は既に苦しい状況が出ています。しかし,いかんせん異次元の大統領ですからね,どうなるかわかりません。
 独裁者にとってすばらしい“サーカス”は有事なんです。アメリカは基本的に有事の際に大統領は代えないので,ブッシュ・ジュニアは2期できたわけですし,太平洋戦争のときにはフランクリン・デラノ・ルーズベルトが4期もしたわけです。となると,トランプがいよいよ勝てないと思ったとき,やはり最強のサーカスは,有事を引き起こすことかなと思っています。トランプという大統領はアメリカの国家のことではなく,自分のことを考えている大統領だからです。となると,私は国際政治が専門でアメリカの内政の専門家ではないので,やっぱりトランプの再選はゼロとは言えないと思います。

日本は責任ある大国を目指すべき

 先日私は,IISS(国際戦略研究所)主催のシャングリラ会合に参加しましたが,米中対立は間違いなく次の段階へと進んだなと強く感じました。アメリカのシャナハン国防長官代行は,アメリカは絶対譲歩することはないという強い姿勢を打ち出し,中国の魏ウェイ国防相は「大国になった我々に対して世界は目を覚まし,受け入れなければならない」とスピーチしました。また,昨年反中スピーチをしたベトナムでさえ,中国に対して極めて友和的なスピーチをしました。それぐらい各国は中国の脅威を感じ,他方で,アメリカのインド太平洋地域へのコミットメントを信用していません。
 アメリカは大事な同盟国である日本でさえ,通商でグングン押してきます。もし8月に日本が何らかの形で大幅に譲歩しなければ,トランプは恐らく安全保障にリンクしてくるでしょうね。
 日本が目指すべきは,責任ある大国です。日本は経済や国家規模ではヘビーウェイト級ですが,安全保障という部分ではフェザー級の腕と足しかありません。トランプへの安倍総理の接し方にしても,自分の国のリーダーがゴマをすって,付き人みたいになっている状態に対して,恥ずかしいと思わない国民は日本ぐらいだそうです。世界の政治学者が「結局日米関係というのは何なのか,そんなに従属的な関係なのか」と注目しています。
 だからこそ日本は,責任ある大国を目指し,世界に対してもそのことを示していかなければいけない。次のパクス(平安,平和)は,価値の共同体です。1国ではなく,価値観を持つ大国同士のパクスです。日本はその中に絶対残っていなければならないというのが私の持論です。
(スライドとともに)