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2019年4月12日(金)第4,711回 例会

臓器移植後進国日本

門 田  守 人 君(外科医)

会 員
門 田  守 人  (外科医)

1945年広島生まれ。’70年大阪大学医学部卒業,’94年同大学教授,2004年同大学付属病院副病院長,’07年大阪大学理事・副学長。’12年がん研究会有明病院院長,国立がん研究センター理事。’13年がん研究会常務理事。’16年堺市立病院機構理事長。 ’17年日本医学会会長など数々の役職を歴任。 1995年6月当クラブ入会,2016年9月再入会。

 私は大阪大学の医学部を卒業して,肝臓移植をしたいと思って外科に入局し,留学先でも移植の研究をしていました。色々あって東京のがん研有明病院に行くことになったわけですが,本日はこのあたりの話を中心に日本の臓器移植の現状についてお話しします。

自身初の脳死肝臓移植手術まで34年

 まず,脳死臓器移植というのは,当時は移植医たちの間での話題でしかありませんでした。しかし,日本医師会「生命倫理懇談会」が医師は脳死をどういったものと考えるのかに取り組み,1988年に「脳死は人の死である」との結論に至ります。その後日本政府も「臨時脳死及び臓器移植調査会」で「脳死は人の死だ」と答申しました。医師会は「脳死は人の死」,政府の調査会も同じ意見になったわけです。
 しかし,’97年に成立した臓器移植法案には,「脳死は人の死ではない」とはっきり書かれています。「脳死は人の死ではない。ただし,臓器を提供するときは死だ」と。実に日本的発想ですが,そうした内容で法律が通過したのです。さらに問題なのは,提供できるのは生前に意思表示のドナーカードを持っていて,はっきりと提供するということを書いている者のみ。それ以外はダメだということ。本人が提供すると書き,家族が承諾して,初めて臓器移植ができるというわけです。このドナーカードというのは当時,「遺言状」という認識でした。そのため,15歳未満の遺言状は無効。結局15歳未満の移植はできないという法律だったのです。
 こうした紆余曲折はありましたが,この法案成立を受けて2004年に初めて私は脳死肝臓移植をすることができました。医学部卒業から34年が経過していました。

改正後も変わらず「脳死は人の死ではない」

 続いて,脳死下臓器提供件数の推移についてですが,臓器移植法が1997年に施行された後,’99年の秋に1例目が実施されました。’99年は4件,2000年5件,’01年8件。一番多いときで13件ですが,あまり進んでいるとは言い難い。我々医者の立場からすれば,臓器移植法は移植を認めるものではなく,「移植禁止法」のように考えられていました。
 それはなぜか。わが国では15歳未満は臓器を提供できないのが理由です。しかし,移植しないと助からない子どもたちはいるわけです。「小児(18歳未満)海外渡航心臓移植件数の推移」を見てみると,法律ができる前も欧米に行って移植を受けることがありましたが,臓器移植法ができた後も移植を希望する人たちは当然ながら海外に行ったわけです。報道でしばしば耳にするように,わが国では基金や寄付を通じて海外で臓器移植を受けるケースがある。しかし,アメリカでも移植を受けたい子どもがたくさんいて,移植を受けられずに亡くなることもあります。当時の国際移植学会では,外国から金を持ってきて移植を受けることは臓器売買に当たると考えました。自国でできるようになったのであれば自国でするのが普通であり,認められないとする「イスタンブール宣言」(2008年)が出されました。わが国ではこの後,国内でも臓器移植法を改正する動きが出てきて,’10年に改正されることになります。実はこの法律は施行後3年で見直すことになっていましたが,実際にはこのような外部からの圧力がなければ動きませんでした。
 そして,「改正臓器移植法案」が成立しました。このときも「法的には脳死は人の死となる」という内容の案もあったのですが,最終的に参議院で通過するときには「法的には脳死が人の死となるのは臓器提供の場合だけ」ということになりました。ただし,「ドナーカードを持っていること」が提供の条件から外れて,遺族が承諾すればできることになり,子どももできるようになった。そういう意味では進歩ですが,いまだに日本では「脳死は人の死ではない」ということになっています。

臓器提供者数は世界で“下から4番目”

 さて,本日特に見ていただきたかったのが,「臓器提供者数の国際比較」(’16)です。人口100万人当たり,年間どのくらいの提供者がいるのかというグラフです。日本はわずか0.8。60数ヵ国の中で,下から4番目。欧米を見ますと,1位のスペインが43,5位のアメリカは30。日本の40〜50倍の提供者がいることになります。韓国も,日本の14~15倍はある。こうした状況で,日本は移植医療をしていると果たして本当にいえるのでしょうか。
 国民の「臓器を提供する意思・しない意思」について内閣府が調べた「臓器移植に関する世論調査」があります。提供したい人は40%以上で,提供しないとしている人たちは徐々に減ってきている。少なくとも4割は提供したい人がいるのにもかかわらず,今の臓器提供者数との数値が合わないのはなぜか。
 わが国の死体臓器移植の課題の1つとして,病院の体制整備状況が挙げられます。厚労省は提供できるところを,約8,000の病院のうち,大学病院や救急医学会の指導医指定施設など900ぐらいしか認めていない。そのうち,いまだに体制が整っていないのが半分以上もあります。
 わが国は,政府も含めてイノベーションという言葉が非常に好きです。新しい技術や技術革新という表現で,技術にはお金をものすごくつぎ込んでいますが,社会の変化,技術の進歩に適応できる理論,制度の改革はほとんど進んでいません。
 今我々にとって必要なことは,技術革新よりももっと大きなシステムをどうするのかではないでしょうか。こうしたことを考えられる専門家が,今後増えていくことを願っております。
(スライドとともに)