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2019年3月8日(金)第4,707回 例会

#みんなって誰だ
~デジタル時代の"大衆"論~

石 寺  修 三 氏

博報堂生活総合研究所
所長
石 寺  修 三 

1967年兵庫県生まれ。’89年筑波大学卒業。同年(株)博報堂入社。マーケティングプラナーとして市場調査や商品開発,コミュニケーション業務を担当。2001年新設の異職種混成部門に異動し,地域活性化や環境など新領域の業務開拓を担当。’15年博報堂生活総合研究所所長に就任。東京農工大学非常勤講師(’14年~),法政大学非常勤講師(’16年~)。著書『地ブランド~日本を救う地域ブランド論~』(共著・’06年)。

 私どもの研究所は1981年に設立され,今年で38周年になります。世界でも類を見ない「生活者の研究」に特化したシンクタンクです。今日は,「みんな」をテーマにしたお話を差し上げたいと思います。

「人と差別化」する消費は終わった

 「みんなって誰だ」。もし皆さん,質問を投げかけられたらどんなふうにお答えになられるでしょうか。学問的に,社会学では「みんな」は2つの意味があると言われています。1つは,家族とか会社とか自分が所属している集団。「所属集団」としての「みんな」,英語で言うと「We」です。もう1つが今回のテーマです。「大衆」とか「世論」「世の中」みたいな,何か自分が判断するときの参考にする「準拠集団」。英語では,People,Most of Peopleという言い方をします。
 今日は,準拠集団の「みんな」についてです。大きく3つのパートで話します。1つは,’80年代から続いてきた,ビジネスとかマーケティングの前提になっている「人と差別化しよう」という消費が,どうやら終わりを迎えているというお話です。
 「みんな」の変遷をまとめると,’60年代から’70年代の高度経済成長期は「大衆」でした。’80年代は,いかに「みんな」と差をつけるかに関心が向いた時代。2000年代はさらに細かく分かれた「個」の時代。世帯の標準,平均もなくなり,年齢とライフステージも必ずしも一律じゃなくなってしまった。接するメディアとか情報もバラバラ。かつての平均や標準というものが崩壊してしまった。
 例えば一般的に「白T・黒パン」と言われるファッション。街角,ミナミなんかで石投げると必ず当たります。彼らは人とかぶっても全く気にならない感じなんですね。周りと違ってるとか,周りと同じかということ自体気にならない。この傾向はファッションだけではありません。

#は自分と見知らぬ人とをつなぐ「窓」

 日本人は全くこんなふうに周り,「みんな」を気にしなくなっていくのでしょうか。実は今までとは違う力学で新しい「みんな」が生まれ始めています。これが2つめのお話です。
 流行を一体どこから,あるいは誰から判断していますか?という調査結果を見ると,若い世代を中心に,SNSがテレビを超える形で影響力を持ち始めています。若者がツイッターやインスタグラム,画像のサイト(アプリ)を使うときに欠かせないものが「#」です。「ハッシュタグ」と呼び,SNSで「みんな」を知るためのツールの1つです。「#」の後ろに言葉をつけて投稿すると,同じ言葉で投稿している人が見られるわけです。若者のコミュニケーションに詳しい慶應義塾大学の小川克彦教授は,「ハッシュタグは,自分と見知らぬ人とをつなぐ『窓』みたいな存在になってるんじゃないか」とおっしゃっていました。
 日本ユーザーのインスタグラムのハッシュタグの検索回数は,世界平均の3倍だそうです。実は「みんな」を気にしないどころか,「みんな」を気にしまくりなんです。ちなみに中国には,日本人が使うのと同じ意味の「みんな」という言葉や概念はないそうです。かなり日本独特の言葉,使い方のようです。若者はどうやら自分に合わせた「#みんな」を,それぞれハッシュタグで探して見つけてつながっている。ここが昔の「みんな」とは違うとお考えください。
 ハッシュタグが集まっているすごく数が多いものは「#プレ花嫁」「#プレママ」。子どもの進学,転職,家の購入,定年。特定のライフステージとかシチュエーションで発生した課題があるたびに,ハッシュタグで検索をしています。冒頭,日本人のライフステージがそろわなくなったという話をしました。同じ年齢に聞いても意外と参考にならないので,「#〇〇」で情報を集めて仲間になっているということなんです。

気分で「みんな」が生まれる時代に

 では,こうした先にどんな「みんな」が生まれるだろうかと,ここから3つめのパート,未来仮説をお話ししたいと思います。
 一番インパクトがあるのは「第5世代移動通信システム」,いわゆる「5G(ファイブジー)」で,今年試験導入で来年本格的に導入されます。大量の情報(端末)が同時にやり取りできるのが特徴で,導入されると真の意味の「IoT」が実現すると言われています。ネットによってモノがつながるわけですが,それを使っている人の行動とか,ひょっとしたら先々には感情とか意識みたいなものもつながるようになる可能性があります。
 そうすると,例えばビジネス上のターゲティングも変わってくると思うんです。その人が今どこにいるのか,どんな時間帯にいるのか,どういう気分でいるのかといった視点でターゲットを見つけることができるようになってきます。世の中の今の行動がリアルタイムでわかるようになると,それを見て自分もやろうというふうになったりするということもあると思うんですね。例えば,「きょう日本人の3割ぐらいの人が衣替えしました」と,「あっ,じゃ,自分もやろうかな」みたいに,昔はモノを持つことを横並びしようとしたのが,行動も横並びしよう,そんな人が増えてくるかもしれません。
 さきほどハッシュタグは見知らぬ人とつながる「窓」という話をしましたけれども,これは生活者が見知らぬ企業やブランドとつながる「窓」にもなるということだと思うんです。企業やブランドは,ハッシュタグの後ろに「どんな言葉が続いたらいいか」と考えていただけると,ヒントになるかもしれません。
(スライド・映像とともに)