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2019年1月25日(金)第4,701回 例会

関西経済の現状と2019年の展望

山 田  泰 弘 君(中央銀行)

会 員 山 田  泰 弘  (中央銀行)

1987年3月東京大学法学部卒業,同年4月日本銀行入行。2011年横浜支店長,’12年総務人事局審議役,’14年システム情報局長,’16年金融機構局長を経て’18年日本銀行理事大阪支店長。’18年8月31日,当クラブ入会。

 年末年始の激しい相場変動の後ですので,正直なところどのようなトーンでお話をしようか悩みました。しかし無難に守りの姿勢で話すのも皆様に失礼かと思いましたので,腹を決めて,一昨日に行われた総裁会議の内容をかみ砕く形で,その背景を説明したいと思います。

世界経済は全体に堅調さを維持

 まず最初に,日銀が公表した展望レポートについてですが,重要なのは次の3点です。①わが国の経済は2020年までの見通し期間を通じて拡大を続けるという基調判断は変えていない②そうした中でも,米中貿易摩擦など最近の様々な動きには注意を要する③海外の経済が,わが国の企業や家計にマイナスの影響を与える可能性についても注視していく必要がある──ということです。
 日本経済の見通しは,世界経済の見通しが出発点にあります。IMFの最新の経済見通しとしては,コンセンサスとしての潜在成長率は上回っていて,’20年にかけて伸びていく見通しですので,基本的には下方修正はしたけれども堅調な推移をたどっていく,というのがメインシナリオです。
 グローバルな企業の業況感を見ますと,製造業では,先進国も新興国も基本的には落ちています。一方,サービス業の状況や,消費者コンフィデンス,消費態度については悪くない。すなわち,製造業の需給を中心に慎重な見方が増えてはいるものの,サービス業の業況は堅調であり,消費者の態度も良好なので,今のところ全体として堅調さを維持しているということかなと思います。

緩やかな拡大傾向にある日本経済

 以上を前提に日本の経済を見ますと,輸出は自然災害の影響から一時落ち込みましたが,その後また戻しています。そして,鉱工業生産はトレンドとして増えています。そのように拡大基調を維持していますので,今のところは受益については悪くなさそうに見える。地域別では,米国とEUに対する輸出はしっかりと伸びてきています。
 ただ,中国については,伸びがはっきりと鈍っている姿が見てとれます。中国向けの輸出で落ちているのは,消費財よりも資本財つまり装置や機械類です。有名なリンゴの会社の売れ行きが悪いとか,中国の通信機器メーカーのセキュリティー問題などが最近話題ですが,こうしたITの機器に関する部材の受注については鈍化していながらも,目立って落ちているわけではない。しかし,資本財の輸出減から見て,今のところは設備投資を控えている企業が中国に多いことは事実のように思います。とはいえ,いずれ中国の企業も生産性を向上させないと競争力が回復しませんから,設備投資も回復していくとは思うんですが,やはり米中貿易摩擦の帰き趨すう次第ということもありますので,私も自信を持って言えるわけではありません。
 景気の総括判断としては,「緩やかに拡大している」という基調判断は変えてない。しかし,海外経済を中心としたリスクは少し大きくなっていて,これが現実のものになると,わが国の経済は今外需が険悪になっていることは事実ですから,企業は設備投資を控えることになるでしょうし,個人の消費態度にも影響が及ぶなどのリスクがあると判断しているということです。
 全国企業短期経済観測調査(短観)という,日銀が企業に実施している調査がございます。昨年12月に行った短観のポイントは,次の3点──①製造業については,省力化・能力増強目的の堅調な設備投資需要は,台風等の復旧工事需要などを背景に,業況感は前回に比べて改善している②非製造業については,内需が堅調に推移している中,台風などで一時的に落ち込んでいたインバウンド需要の戻りもあり,業況感は前回に比べて改善している③企業部門の18年度の経常利益は,既往ピーク圏内の水準だった前回からさらに上方修正されて,支出スタンスは維持されている──です。
 企業の業況感では,集計企業全体の業況感はプラス17と,前回に比べて3ポイント改善していまして,これは1991年以来の27年ぶりの高い水準であります。

今後の伸びしろも大きい関西経済

 短観の状況を見ると,日本の経済とあまり変わりなくて,日本の経済の平均よりもちょっと強いのが関西経済かなと認識しています。関西経済について少し掘り下げてみますと,特に「訪日外国人」は大阪が圧倒的に強くて,2013年からは4.5倍になっています。ほかの地域も増えてはいるのですが,大阪とはインバウンドのレベルが全く違います。結果,百貨店の販売額は関西が全国に比べても高い。「鉱工業生産」においても,他地域への生産移管が進んでサービス化が進んでいる東京や神奈川よりも,バランスのとれた成長を続けているのが今の大阪の姿じゃないかと思っています。その背景としては,ものづくりで名高い東大阪の中小企業群の頑張りをはじめ,IOTなど新しいIT事業の拡大などが挙げられます。また,関西の新規開業率は,一貫して全国を上回っており,チャレンジ精神豊かな関西気質が経済にも表れているということが見てとれます。
 将来に対しての種まきも,関西企業は積極的にされています。全国に比べて設備投資額の伸びは高く,人手不足などを背景にソフトウェア投資についても全国を上回っている。全国よりもはるかに研究開発投資にお金を割いておられるというのが関西経済の姿です。
 さらに今年は,G20大阪サミット,ラグビーのワールドカップが開かれますし,’21年にはワールドマスターズゲームズ2021関西も開催されるなど,今後の関西経済の伸びはさらに期待できるでしょう。特に’25年に開かれる大阪・関西万博には,兆円単位の経済効果があると思われます。われわれ日本銀行も,緩和的な金融環境を続けることで,企業の皆様の活動を積極的にサポートしていきたいと思います。本日のお話が少しでも皆様のビジネスの参考になれば幸いです。
(スライドとともに)