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2017年1月6日(金)第4,608回 例会

明美ちゃん基金とドネーションを考える

川 島  康 生 君(外科医)

会 員 川 島  康 生  (外科医)

1930年大阪生まれ。’61年大阪大学大学院医学研究科卒業,同年7月大阪大学医学部助手。’78年教授(第一外科)。’86~88年医学部付属病院院長。’90年国立循環器病センター病院長。’95年同総長。’97年から名誉総長。
’82年当クラブ入会,2000年クラブ会長,’02年80周年記念事業委員会委員長。米山功労者・マルチプル/PHF・マルチプル。文化功労者。

 「明美ちゃん基金」は,産経新聞が50年にわたってサポートしてこられました。50年前に「貧しいがゆえに死なねばならぬのか」との見出しで心臓病の明美ちゃん(6歳)の記事が掲載され,翌日夕刊の締切までに300万円近い寄付が集まったそうです。明美ちゃんブームが起こり,善意が実って明美ちゃんは心臓手術を終え,元気に鹿児島へ帰りました。300万円以上余ったお金で「心疾患児救済明美ちゃん基金」ができ,基金は昨年で50年を迎えました。

寄付の文化

 残ったお金で患者を助けると,それが記事になってまた寄付があり,どんどん善意のお金がたまっていきました。基金は海外の子供たちの手術にも使われ,1998年にはミャンマーで小児病院を建設する費用の一部に1,000万円が寄付されました。また,ミャンマーのヤンキン子ども病院での支援活動で一昨年と昨年に3回チームを派遣し,19例の心臓手術と88例の内科的診断治療をしました。チーム参加者は無報酬で,旅費は明美ちゃん基金から出ています。

 「日本には寄付の文化がない」と聞いたことがありますが,明美ちゃん基金のドネーション(寄付)は50年間続き,200人近い世界中の子どもを助けてきました。これをドネーションをしない国民と言うのは,無礼な話です。一方で,私が50年間携わってきた移植医療の臓器のドネーションでは,人口当たりで日本は欧米先進国の30分の1です。どんなドネーションなら日本人はするのか,ドネーションを3つの段階に分けて考えてみました。

ドネーションの段階

 第1段階は,自分が余っているものを差し上げることです。育英基金などにたくさんお金が集まりますし,美術品を集めて美術館をつくって寄付する人もいます。第2段階は,余ってはいないけれど,困っている人には差し上げようということです。明美ちゃん基金も当初300円や500円の寄付がありました。お小遣いを割いてでも寄付しようということだったと思います。3段階目は,自分にも絶対必要だけれども,より困っている人には差し上げようということで,生体臓器移植はこれに当たります。2つの腎臓のうち1つを提供したり,肺臓や肝臓を部分的に切除して差し上げたりすることもあります。2人から肺の一部分を取って1人の患者を救う手術もあります。

 脳死臓器移植は第2段階だと思います。ただ,亡くなった人の身内の方が「臓器を提供してください」と言われた時,どこの誰かわからない不特定の人に提供するので,簡単にはいきません。最近は国民の臓器移植への関心が薄れ,そんな話をあまり聞いておられない。寝耳に水のことが多いのです。

 私は心臓移植をわが国で実現するためにかなりの時間を割いてきましたが,臓器のドネーションはなかなか増えません。明美ちゃん基金の50年を振り返ると,この国は善意に満ちあふれていると思いますが,なぜ臓器のドネーションが増えないのか。同じドネーションでも,金銭と臓器の違い以上に情報量の差が大きいと思います。提供者の善意のほかに,正しく豊かな情報が絶対に必要です。日本のメディアに,臓器提供をした人たちの善意の行方を国民に知らせて欲しい。明るい情報をもっと提供して欲しいと思います。

 さらに大切なことがあります。そのような情報を国民に伝えるべき医師の多くが,移植の情報を十分持っていません。脳死臓器提供では,心臓と両方の肺,両方の腎臓,肝臓,膵臓,小腸まで提供することで,わが国では1人の提供で平均4.5人の命を救っています。最大9人の命が救われたこともあるそうです。何事にも代え難い崇高な奉仕の行為です。しかし,交通事故で2,3人亡くなったことは毎日のように報告されても,臓器提供で4~5人が助けられた話はメディアでほとんど報道されません。また,誤解を招くのであまり言われませんが,1人の臓器提供で,提供を受ける人たちの人工腎臓や人工心臓などの医療費,その10年,15年後の費用を考えると,国民の医療費を数億円削減できます。

 道で倒れている人を見て蘇生医術をしないのは医師として失格だと思います。しかし,すべての医師が脳死者を見た時に臓器提供を勧めるかどうか。勧めないのなら,それはドネーションをすれば助けられる4~5人を見殺しにしているのではないでしょうか。私は,これも医師としては怠慢で失格だと思います。

 私は,臓器提供が少ないために毎年失われている何千という命を救うため,ロータリーの奉仕の精神の発露として,明美ちゃん基金で示された日本のドネーションの心を臓器のドネーションへ向けていただくという目標を掲げました。そのためにできることがあれば,老骨に鞭打ってでもやりたいと考えています。

臓器提供の意思表示を

 明美ちゃんは現在,看護師として岡山県で働いています。心臓移植を受けた人も10年後には90%,15年後には80%が生存し,社会に貢献しています。他の臓器移植を受けた人たちの多くも元気な日常生活を送っています。それを可能にした臓器提供こそ社会に対する最高の奉仕活動であり,ロータリアンとして進んで参加すべき活動だと思います。

 皆さんは個人番号カードをつくりましたか。右下の隅に臓器提供の意思表示欄があります。万が一の場合,自身の臓器を提供することで4~5人の人命を救おうではありませんか。個人番号カードに署名する,こんな簡単な,極めて有効なロータリアンとしての奉仕の活動について申し上げ,新年最初の卓話を終えたいと思います。

(スライドとともに)