大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2016年11月11日(金)第4,603回 例会

アメリカ大統領選挙後の日本外交シミュレーション

高 岡  達 之 氏

讀賣テレビ放送(株)
解説委員
高 岡  達 之 

1963年生。関西学院大学法学部卒業。’88年讀賣テレビ放送に入社。フィリピン・マニラ支局長,神戸支局長,大阪府警キャップ,取材総括デスクなど主に報道部門で勤務。2012年から解説委員。ニュース番組を中心に解説・コメンテーターを務める。

 最後に申し上げることを先に言いますが,トランプさんになって日本は大変チャンスになったと思っておりますので,今日はビジネスの視点から,日本の外交を含めてお話ししたいと思います。

アメリカ式アベノミクス

 アメリカ人が一番刺激をされたというトランプさんの演説をご紹介するならば,オハイオで繰り返し言った単語はたった一つです,「Job」「Job」「Job」。白人労働者たちの「仕事をアメリカ国内でしたい」,これだけです。仕事を奪っていったメキシコ,ブリックス(ブラジル,ロシア,インド,中国)という国々を憎んでいるからトランプに入れた訳です。ならば,トランプさんは,国内で仕事をできるようにするために,企業が国内に拠点を戻してくるというような施策をとるに違いないと思います。

 トランプさんがTPPをやるか,やらないか。皆様方が本当に危機感を覚えるのは,むしろNAFTA(北米自由貿易協定)じゃありませんか。NAFTAをやめられて直撃を食らうのは,我が国です。NAFTAのお陰で,メキシコに自動車産業で進出し,そこでつくった車をアメリカに輸出し,アメリカを経由してソウルを走っているトヨタのカムリは全部メキシコ製です。実はTPPよりも既に動いているNAFTAの影響のほうが大きい。

 さっきの,「アメリカ国内で仕事をできるようにし,アメリカ国内に企業が戻るためには」,やること分かってますよね。法人税は下げます。そして,金融緩和をやります。規制を緩めます。当然ドルは安くしなきゃいけない。どっかで聞いた話なんですが,アベノミクスとそっくりではありませんか。「安倍さんのやったことに興味がある」と彼が言ってるところは,そこです。トランプさんはこれから,アメリカ式のアベノミクスをやるんだと思っています。

今後のカギは日露関係

 我々の国家は何年にも渡って,米軍の思いやり予算ではなくて,米軍の手が及ばない海域を常に見ている。アメリカは簡単に引くわけにはいかない,安全保障の問題で。米軍が撤退するというのは,私は現実的ではないと思っております。

 そうすると,中国とどう向き合うか。中国は,トランプさんの関心が日本,韓国,北朝鮮の方を向かないと思ったら,また,船に砂積んで南のほうに出航します。となると,我が国はASEANと手を組まなきゃいけない。タイ,フィリピン,ベトナム。この3国を中心にうまくやらなきゃいけませんが,なかなか頼りにならない。あちらさんにとっては中国はお客さんなので,「わかった,わかった,うまくやっときます」と言っても,本当に自分たちがうまくおやりになるだけで,我々としては辛いです。

 となると,もう強引な理屈に聞こえるかもしれませんが,12月の日露首脳会談が大事になってきます。自分たちで安全保障を考え,交渉カードを持つ。そして,自分たちで「日本をばかにするなよ」ということを示さなければならないのに,ロシアを使えるかということなんです。経団連はこんなにお金を突っ込んでいる商談を見たことがないぐらい,今日本はロシアといろいろと約束をしています。プーチンさんは史上最強のビジネスマンです。パイプラインをつくるのは簡単ですよ。つくるのに時間がかかる。その間毎年分割ローンで払う。だからそうやってロシアは日本を味方に何とか引き入れようとして,「日本と仲いいんだぜ」というのを国際交渉で使うはずです。

注目ワードは「帰属」

 我が国はそれを使う立場になれるのかというところが,二島返還でいいかどうかなんです。12月の交渉,いろんな外交用語が出てくると思いますが,これをご注目いただきたい。「帰属」。二島返還に対していろんな言い方がありますが,「帰属」という言葉が,やたらめったら出てくると思っています。「帰属」って,実は翻訳が極めて難しいんです,だから,四島返還云々について,総理は「やれた」と言い,プーチンさんは「全然渡してない」と言う。そういう両方の国の翻訳が「帰属」なんです。領有権と言うと返ってきたということになる。ところが,帰属というのは,元々は日本のものでしたということを確認する。これだけでも70年間,向こうは1行もかかなかった。しかしながら,現状は国後,択捉がお互いの利益になるように交渉を継続することで合意した――多分,そういう内容になると思います。総理はこういう関係を使って対中国,対アメリカの交渉カードに持っていかれると思います。

 最後に,皆様ビジネスの方は,一番大事なのは誰ですか?経営者だったら一番大事なのは客ですよ。我々は米国の客になれるでしょうか。日本が例えば油を買う側に回る。LNGを買う側に回る。もちろん,安全保障上,首根っこを押さえられるリスクはあります。我々は今までお客さんを求めて世界に行って生きてきた国で,客になったことは極めて薄い国家ですが,交渉のカードを持つことも考えなければなりません。

 関西の商売人の方々はお客さん対策に非常にシビア。コンプライアンスの部署が日本で一番多いのは関西。そういう意味でも,ビジネスの視点で,トランプさんがまずどういう施策を国内に向けてやり,そしてアジアに向けてやるかを見極める。彼らからすれば日本も韓国も一括りですから,その中から「ジャパンは別なんだぜ」ということを示すのは,実は私は今も外地で汗をかいておられる皆様方の出先の日本人ビジネスマンであると思います。