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2016年3月11日(金)第4,572回 例会

持続可能社会を目指して-日本発のコンセプト『元素戦略』

村 井  眞 二 氏

岩谷産業(株)中央研究所
所長
村 井  眞 二 

1938年大阪府生まれ。’66年大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。大阪大学教授,奈良先端科学技術大学院大学副学長などを経て,現在同特任教授。岩谷産業(株)特別顧問中央研究所所長。大阪大学名誉教授。(米国公益法人)Pacifichem,Inc.,理事。(社)有機合成化学協会会長(2001),(社)日本化学会会長(2005)。藤原賞(2006),日本学士院賞(2010),朝日賞(2015)受賞。

 今日は元素のお話をさせていただきます。化学の領域というよりも材料の領域です。先日,理研が113番目の元素を発見したと大変な騒ぎになっていました。あれこそ技術に関係なくサイエンスの極みです。というのは,新しい元素をつくるには,空中の原子にものすごく遠くから,光ほどの加速をした別の原子を当てますが,数年やって5~6回ぐらいの確率でしか当たりません。当たると核融合が起こり,新しい元素が飛び出します。その新しい元素も,ビンに詰めて持ち運んでこれだ,というのではなく,それこそ100万分の1秒のまだその100万分の1ぐらいの寿命しかありません。それを理研はきちんと証明し,アメリカ,ロシアを抜いて,あの元素は日本が見つけたということで,日本に命名権が与えられました。何かいい名前があったらぜひ理研のほうへご提案いただきたいと思います。

いつまでもあると思うな

 これから話す内容の趣旨は「いつまでもあると思うな元素と金(かね)」です。

 私はずっと大阪大学にいまして,定年のときに科学技術振興機構(JST)から「新しい組織をつくるので来ないか」と声がかかりました。本格的な科学技術のシンクタンクをつくりたいというわけです。名称は研究開発戦略センター,情報系・化学物質系・バイオ系・環境系・エネルギーなどの分野で,それぞれ10数人のチームに分かれ,国の将来の方向を決めようという壮大な計画です。その立ち上げに参画させてもらいました。

 私が担当した物質材料の分野では,日本の化学,材料,物理で将来を担っていく方々に集まってもらい,この先,日本は何をすればいいのかを検討し,いろんな方向を決めました。その1つが元素戦略です。

 例えば,先端材料に使われている永久磁石にはジスプロシウム,ネオジムという元素が使われています。鉄とホウ素とネオジムというのが標準的な磁石で,これにちょっとジスプロシウムを入れると,温度が高くても磁石のよさが失われません。しかし,このジスプロシウムは今のところ中国しか供給源がありません。同じように,コバルトはコンゴ,白金・ロジウムは南アフリカとロシアでしか採れません。こういうことを踏まえ,量が少ない,入手しにくい元素を他の元素に置き換える,もしくはこういう元素を極端に減らせる技術,またはリサイクルする技術を開発しようということを目標にしました。

 2004年に元素戦略を発議し,国と経産省に取り組みを要請しました。上部機構である文科省もすぐに反応して多額の予算がつき,’12年には10年プロジェクトとして年間23億円の予算で動いています。携わっている研究者は千を超え,支援している大型の研究施設もフル稼働状態です。経産省とNEDOも様々なプロジェクトをやっています。

冷たかった外国

 当初,外国にも発信しましたが,冷たかったです。’04年,このころに本気で,大量に,しかも超ハイテクでモノづくりをしていた国は,恐らく日本がダントツでした。アメリカはあまりものをつくっていませんでしたので,「やがていろいろな元素がなくなる」と言ってもピンときていませんでした。ヨーロッパの方がまだ感度がよかったですが,「今のところは間に合ってるから」というような返事でした。

 いっぺんに風向きが変わったのが尖閣事件です。中国漁船が来て小競り合いをして,中国政府が「けしからん」と最初にしたのがレアアースの輸出禁止でした。重要な金属元素類を特に日本には売らないと。日本も困りましたが,長期的に見れば,中国政府の決断は大失敗でした。

 事件がきっかけで,ヨーロッパもアメリカも「なるほど,わかった。タッグを組んでやろうじゃないか」となり,中国をWTOに提訴して,勝訴しました。中国は不服を申し立てましたが,上級審でも中国が敗退しました。不服を申し立てたことを私たちが非常に喜んだのは,「同じ土俵に乗ってこのルールに従っている」と意を強くしたからです。

世界がテーブルに

 元素危機には特徴があります。現在,そして10年先,15年先は需要と供給,投機筋の問題です。中期的には南北問題や地政学的リスク,急速な都市人口の増加という問題があります。長期的には,やっと地球上の資源に限りがあるとの認識のもとに各国がテーブルにつくということが起こると思います。そこまではまだまだ紆余曲折を経るでしょうが。

 あらゆる資源は各国の戦略物質です。やがてテーブルに着かなくてはならないとき,我が国が持っていなければならないのは,技術力,付加価値力,それと外交力です。30年,50年先を見て,その国に小学校を建てていくというようなことが長期的な外交力だと思います。短期,中期の外交に関しては,今の政権は非常によくやっていただいています。中東や中央アジアでも,それを意識した活動を行ってくれています。

 時代の流れとして,5つのメガトレンドがあります。急速な都市化の進行,気候変動と資源不足,人口構造の変化,世界の経済力のシフトは世界不安定の原因になります。そして5つ目がテクノロジーの進歩です。これが救い,夢ですが,先端技術の先行が新分野を創出し,コロッと景色を変えることがまだまだいっぱい起こると思います。それが,私たちが元素戦略をはじめいろいろなテクノロジーに人と資金をつぎ込みたい所以です。

(スライドとともに)