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2016年2月26日(金)第4,570回 例会

未来のエネルギー供給システムの提案
―地球温暖化阻止のために

熊 谷  直 和 氏

日立造船(株)執行役員
地球環境ビジネス開発推進室
室長
熊 谷  直 和 

1979年横浜国立大学卒業。同年大機ゴム工業(株)入社,開発部配属。’89年東北大学工学博士号取得。2006年アタカ工業(株)と合併,アタカ大機(株)設計部長兼開発部長。’12年アタカ大機(株)執行役員。’14年日立造船(株)と合併,執行役員,’15年から現職。

 本日は,CO2を削減するためのエネルギー技術の話とご理解ください。COP21が昨年12月に終わり,いよいよ真剣にCO2を削減していかなければなりません。COP21で確認されたのが,産業革命以来から上がる温度の上昇幅を,2℃未満に今世紀の末までに抑えるという目標です。

2100年は化石燃料17%

 目標を達成するために,産業革命以降の人由来のCO2は1,000ギガトンまでに抑えなければならないのですが,半分の531ギガトンはすでに排出されています。2100年までに530ギガトンぐらいに抑えないと,天災や干ばつによる食糧不足,飢餓,政情不安,水の取り合いなどの地域紛争が多発し,莫大な経済損失が考えられます。温室効果ガスは一旦排出されると,どうしようも削減できないので,今すぐ対策を打つ必要があります。

 では,どうしていくのか。世界的なエネルギー機関が描いたロードマップでは,2030年に24%ほど化石燃料の使用量を抑えなければ,2℃未満にできません。2100年を見ると,17%だけは化石燃料ですが,残りはほとんど再生可能エネルギーになっています。すなわち,化石燃料から,再生可能エネルギーだけで生きていくエネルギー供給システムが今,必要になってきているのです。

電力貯蔵技術が鍵

 ただ,再生可能エネルギーは非常に使いにくい。今までは,家で電気を使うと,電圧効果によって自動的に火力発電所などで調整されます。電力の供給側と消費側のバランスが上手にとれているため,周波数や電圧が安定しています。しかし,風力の場合,系統につないだまま風に任せて発電すると,電圧が不安定になり,停電も起こります。今は,あまりたくさんの再生可能エネルギーをつないでしまうと電圧が乱れるため,つながないようストップさせていますが,それは電気を捨ててしまう行為です。

 従って,需給のバランスをどのようにしてとるのかが課題で,現在考えられているのは,発電量が多く需要が少ないとき,余剰電力でガスを製造して貯蔵し,電気が足りないときにそのガスで発電する方法です。変動する再生可能エネルギーをどんどん導入し,安定的に利用するためには,電力貯蔵技術が必要なのです。

 それは世界的にも認められており,IEC(国際電気標準会議)という団体が作った「電力貯蔵技術白書」には,世界中のエネルギー貯蔵技術がまとめられています。例えば揚水発電,電池,水素変換,人工的な天然ガス,蓄熱などが紹介されていますが,これらのうち,長期間,大容量のエネルギーを貯めることができるのは水素やメタンしかありません。

 国は今,主に水素を直接使おうと計画しています。皆さんもよく耳にされる燃料電池自動車などですが,この技術はなかなか難しく,すぐに実現するのは難しい。しかし,CO2の削減は直ちに始めなければなりません。また,世界全体の温室効果ガスのうち,自動車に由来しているCO2はたったの10.5%です。燃料電池自動車ができても,この分削減できるだけです。水素ができれば何でもできるというのは,ちょっと幻想ではないかと考えています。

すべての要求に応えるメタン

 再生可能エネルギーのメインは風力と太陽光で,生み出しているのは電気です。ところが,資源エネルギー庁のホームページを見ると,全体のエネルギーに占める割合は燃料や原料が6割,電気で消費するものはわずか4割です。再生可能エネルギーから燃料さえつくることができれば,全てをカバーすることができるのです。それがメタンです。

 再生可能エネルギーで電気を作り,電気から水素ガスをつくります。水素と二酸化炭素の混合ガスを触媒に通すと,簡単にメタンができます。当社の触媒は,「速くて,効率がよく,低い圧力でできる」のが特徴です。では,なぜメタンに変えるかというと,「貯蔵・輸送・利用」まで,化石燃料で頼ってきたすべてのインフラが使えるためです。水素を運ぶには,液体水素などに変換しますが,その際に大量のエネルギーが失われます。メタンは22%しか失われません。

 ヨーロッパでも,再生可能エネルギーから水素やメタンにする実証プラントが動いていて,確認されているだけで29カ所,そのうちメタンに変換するプラントは7カ所あります。

 再生可能エネルギーが22%も投入されたドイツでは,大量の電気を捨てなければならない。その捨てる電気で水素をつくって,さらにメタンに変換しようとしています。このメタンにするというのは,本当は日本人のアイデアです。それが現在ドイツに移っているのです。

 再生可能エネルギーを大量に導入し,低炭素化社会を実現するためには,再生可能エネルギーを安定的に使える技術が必要であり,メタン化はその要求に応えることができるということがきょうのお話です。

 将来的に,再生可能エネルギーは日本国内だけでなくてもっと風況のよいところ(発電効率のよいところ)でつくって,水素に変えて,そして水素をメタンに変えてLNG船でぐるぐる回していく。発展過程は,離島などで小さなもの,ヨーロッパで中規模,オーストラリアなどそういう風況,あるいは太陽光の日照時間の長いところで大規模にエネルギーをつくって運ぶ。現在のLNG船が走っているこの航路を使えばいくらでもできます。こういうことをやっていくのがわれわれの夢です。

(スライドとともに)