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2016年2月19日(金)第4,569回 例会

尊厳死と安楽死

岩 尾  總一郎 氏

日本尊厳死協会
理事長
岩 尾  總一郎 

1947年生。慶應義塾大学医学部卒業。専門は公衆衛生。テキサス大学留学,産業医科大助教授を経て厚生労働省へ。2005年8月,医政局長で退官。その後,WHO健康開発総合研究センター所長(神戸),国際医療福祉大学副学長を歴任し,現在,日本尊厳死協会理事長,慶応義塾大学客員教授。

 私の役所の最後は医政局です。医療政策上,人生の最期の医療の提供のあり方も含めて考えていくなかで,こうした団体(日本尊厳死協会)と巡り合い,理事長という立場で仕事をさせていただいています。

穏やかな最期

 2025年,日本はどういう国になるのか。人口の3分の1,3,500万人が高齢者の世代になります。その5分の1,700万人が認知症になるでしょう。1人で暮らすお年寄りは,全世帯の3分の1になります。

 日本で死亡時の年齢の統計を取り始めたのは1899年。戦争中,戦後まで4歳以下の子どもの死亡が多い。

 1975年,’76年になると子どもが死ななくなり,’90年,’91年から死ぬのは,ほとんどお年寄りです。

 ’76年に,自宅で亡くなる人より,病院で亡くなる人の方が多くなります。そして,現代では,施設で看取ることができるようになってきました。

 昨年,NHKで「老衰死穏やかな最期を迎えるには」という番組がありました。老人ホームで何かあると,すぐ救急車を呼ぶ。病院に行くと,救命するのが当たり前だと,長生きさせる。

 そうすると,老人ホームで最期を過ごしたいと思っているのに,病院で無用な治療をすることになってしまう。

 ホームに顧問の医師がいるようになり,施設でも何とか最期まで見てあげようという流れが,増えてきているのじゃないかと思っています。

安楽と尊厳の間

 死には,尊厳死,平穏死,満足死,自立死,自然死などという言葉があります。後でお話ししますが,概念として平穏死,満足死,自立死,自然死は,尊厳死と大体同じような意味だと思います。

 安楽死は,ちょっと概念が違います。一昨年11月,米国で脳腫瘍の29歳の女性が,カリフォルニア州からオレゴン州に転居し,自分の命を絶つということがありました。オレゴン州には「Death With Dignity Act」という法律があったのです。訳せば「尊厳死」。このことで,カリフォルニア州は昨年10月,知事が尊厳死法に署名しました。

 日本での報道では,NHKは第1報から「安楽死」で,最後まで通しています。新聞で安楽死としたのは朝日新聞だけ。各新聞は尊厳死としていました。

 また,1995年,東海大学で塩化カリウムを末期のがん患者に投与して亡くならせたという事件がありました。判決として,横浜地裁は安楽死の考えを類型化しています。

 患者が苦しむのを長引かせないために延命治療を中止する。結果,死期が早まる。痛みを取るため鎮静剤などをかなり投与し,結果,命が縮まる。こういうものは「消極的な安楽死」,つまり「尊厳死」と考える。苦痛から患者を解放するため意図的に,積極的に,死を招く医療行為をすることは「積極的安楽死」と定義すると判断されました。

 私たちも,消極的なものを尊厳死,積極的なものを安楽死だと思っています。協会では(尊厳死を)「自分が不治かつ末期の病態になったときに,自分の意思によって無意味な延命処置を中止し,人間としての尊厳を保ちながら死を迎えること」と定義しました。

リビング・ウイルと法整備

 患者の権利に関して世界医師会の「リスボン宣言」があります。その中に「患者は尊厳をもって死ぬ権利を有する」という言葉があります。

 ベネルクス三国(オランダ,ベルギー,ルクセンブルク)では,安楽死を法制化しています。

 自殺ほう助を認めている国といくつかの州があります。カリフォルニア州は昨年,カナダは今年,国全部で法が整備されます。医師が一種の自殺薬を処方して,自分で飲むようにと患者に渡すのです。

 スイスには「看取りの家」というのがあります。外国人を受け入れているので,4割がイギリスから,3割がドイツから来ます。

 これらはすべて自分の意思によります。老いる,病を得る,もう最期だというときに,どんな医療を望むのかということを,きちんと自分で書いておいたほうがいい。この事前指示を「リビング・ウイル(生前の意思)」といいます。米国は,1970年にカリフォルニアで「自然死法(Natural Death Act)」という法律ができました。連邦法として’85年に「統一末期病者権利法」になりました。

 延命治療の不開始,もしくは中止を指示する宣言書は,いつでも作成でき,その宣言書に従って医師が何もしなくても免責にするというのが当初の法律でした。これがなかなか進まないので,’90年に「患者の自己決定法」という法律ができました。

 もう一歩進んで,望んでいても,いつどこで倒れて救急車で運ばれるかわからない。そのとき,主治医が,この人はこういう治療をしてくれと言っているので従ってくださいと指示する。これをポルスト(POLST)と言います。

 多くの国では,事前指示というものを法制化していますが,日本では法制化されていません。2004年ごろ,尊厳死議員連盟ができ,’12年,尊厳死の法案を出しました。カリォルニアの1970年代の法律と同じようなものです。ここから始めねば,ということです。こうした私どもの法制化の運動をぜひ,応援していただければと思います。

(スライドとともに)