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2016年2月12日(金)第4,568回 例会

土木において先達が残したもの

足 立  紀 尚 氏

京都大学 名誉教授
地域地盤環境研究所
理事長
足 立  紀 尚 

1962年京都大学工学部卒業。’64年京都大学大学院修了。’69年カリフォルニア大学バークレー校Ph.D取得。’70年京都大学工学部助教授。’83年京都大学工学部教授。2002年京都大学退官,名誉教授。同年現職。

 最初に申し上げます。われわれの先輩諸兄は非常に大きな夢を持っていた。それを実現するため,不屈の闘志で,現場主義第一でやってこられたというのが,結論です。

土木は古代より

 土木工学とは何か。良質な生活空間の構築を目的に,自然災害からの防御や社会的経済的基盤の整備のための工学です。

 土木の語源は,紀元前2世紀の中国の古典「淮南子」にある「築土構木」から「土木」をとったという話があります。

 わが国の古代のインフラを見てみます。淀川の堤防に茨田堤(門真市)というのがあります。淀川の治水事業は,千数百年にわたって続けられているのです。

 次はダム。大阪狭山市の狭山池は,616年以降に建設されています。以後,各時代の数度の改修で現在のものが出来ました。

 道路はどうか。7世紀初期,飛鳥時代から平安時代前期の中央政府が整備,建設した全長6,500キロメートルの道路網がありました。

 わが国は厳しい自然環境にあります。21年前の阪神淡路大震災,5年前の東日本大震災の津波のような大きな被害が毎年のように発生しています。

 寺田寅彦さんは,「人間は何度同じ災害に遭っても決して利口にならないということを歴史が証明する」と述べています。

トンネル, 鉄路, 道路

 100年使えるテレビはありませんが,土木構造物は,良質で100年以上寿命を持つものでないといけないと思っております。

 しかし,杭の手抜きが先般ありましたが,「安物買いの銭失い」(という戒め)を忘れ,安ければよいとする現在の世相が反映されているのではないかと思っています。

 丹那トンネルは熱海と函南の間の7,800メートルのトンネルです。東海道線の輸送力が逼迫したため熱海経由のルートが決定,丹那トンネルが必要となりました。

 大量の湧水との闘いで,崩落事故,関東大地震,北伊豆地震などもあり,16年間の難工事でした。工事では,迂回坑,水抜き坑,セメント注入工法,シールド工法など新技術が開発されました。

 九州と本州を結ぶ関門トンネルは3,600メートルあります。昭和11年に着工,17年に開業,19年に上り線が完成しました。

 青函トンネルは世界最長の海底トンネルです。昭和29年,台風15号のため,津軽海峡で,5隻の連絡船が転覆し,1,430名の方が死亡しました。この事故が背景にあり,実現が加速しました。全長54キロメートルで新幹線,在来線共用のトンネルです。今年3月には,いよいよ函館まで新幹線が走る予定です。

 先達の構想では,中央アジア横断鉄道というのがありました。戦前の出版物に「朝鮮海峡トンネルの建設とともに,大陸に既存する鉄道利用を前提に,包頭または西安-バグダッド間7,474キロメートルに天山南路経由の鉄道を建設し,東京-ベルリン間1万6,624キロメートルを最新式の機関車で10日で走る」と立案され,検討会もできました。

 東海道線の輸送力のために建設されたのが,東海道新幹線でした。現代では,リニア中央新幹線が着工されています。この延長にリニア・オリエンタル・エクスプレスがあります。東京からロンドンまでのエクスプレス構想です。

 道では,名神・東名をつくる前の道路状況は,高速道路の調査に来た欧米の調査団に,先進国でこれほど道路の悪い国は見たことがないと言われるほどでした。

 長大橋には明石海峡大橋があります。全長4キロメートル。明石大橋の基礎は直径80メートル,高さ70メートルの巨大なものです。設置ケーソンを曳航し,それを沈め,その上に主塔をつくりました。

 ダムでは,台湾の烏山頭ダムが昭和5年に竣工しています。ダムの高さは51メートル,ダムの長さは1.35キロメートル,貯水容量が1億5,000万トンです。豊満ダムが,松花江にあります。昭和18年に発電を開始しました。高さが91メートル,貯水容量が125億トン。ほかに満州鴨緑江の水豊ダム。戦後の天竜川の佐久間ダムがあります。

 黒部ダムはアーチダムで,高さ186メートル。貯水容量は約2億トン,33万5,000キロワットの発電です。秘境につくり,一般に開放して見せています。民間の関電一社でつくり,非常に高い評価を受けています。

関西の未来の夢

 埋め立てでは,大阪湾の埋め立てと関西国際空港があります。埋め立て自体は江戸時代から始まっています。

 関西国際空港は泉南沖に造られました。1期島は沈下量予測が6メートルから12メートル,実際には12メートルの沈下がありました。2期島はそれに学び,沈下量も精度よく予測されるようになり,ほぼ一致しました。

 埋立土の高さは43メートル。最大18メートルの沈下もものともしない不屈の技術者魂というものがあったと思います。

 米国土木学会の「モニュメント・オブ・ザ・ミレニアム(人類が20世紀に残した偉大なる技術への挑戦)」の空港部門で表彰されていることも申し添えます。

 関西での夢がいくつかあります。例えば前兵庫県知事は,「新神戸-神戸空港-関西空港という大阪湾の鉄道の実現」を掲げていました。別の人は,ループ状の鉄道網を提案しています。

 また,新大阪湾港というものを,淡路島に造ったらどうかという考えもあります。

 いずれにいたしましても,夢と不屈の闘志と現場主義が,いろんなものを実現してきました。大きな夢もまた,同じ精神でできるであろうと,私は考えています。

(スライドとともに)