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2015年10月9日(金)第4,552回 例会

データと街歩きからみた関西経済

宮 野 谷  篤 君(中央銀行)

会 員 宮 野 谷  篤  (中央銀行)

1959年生まれ。’82年東北大学法学部卒業,日本銀行入行。’99年金融市場局金融調節課長,2004年考査局参事役,’08年政策委員会室秘書役,’10年金融機構局長,’13年名古屋支店長,’14年理事・大阪支店長。
当クラブ入会’14年8月。

 今日は金融政策の話と思われていたかもしれませんが,関西経済の話をします。最初は現状,次は特徴,3つ目はさらに活性化するためのポイントです。私の趣味に街歩きがあります。日銀は全国の地域の経済分析をしており,街歩きはその情報収集にもなります。ただ歩くのではなく,道を全部歩くという変な趣味で,昨年5月に着任してから1年かけ,大阪市中央区の小さな道も含めて全部歩きました。おもしろい看板があれば写真を撮ったり,安くておいしそうな飲み屋があれば入ったりと,いろいろと情報収集しながら問題意識を持って関西を見てきたつもりです。

1時間の利点

 関西経済の現状から。最近のポイントは,2014年以降,生産,輸出,設備投資,外国人観光客によるインバウンド需要と消費,これが全国平均よりも高く,関西経済は堅調に推移しています。雇用や賃金も着実に回復を続けています。

 強いものの一つが輸出です。最近は関西が全国平均よりずっと上にあります。牽引しているのが,電池部品や液晶フィルムなどスマホ関連の部品,部材です。競争力が強い電子部品が関西に集積しているためです。

 全国あるいは東京よりも圧倒的に伸びているのが,訪日外国人客のインバウンド観光です。外国人観光客が大幅に増えたのは円安だけではありません。中国を含むアジア諸国の所得が大幅に増えていることがベースにあり,多少為替相場が戻ってもこの流れが変わることはないと思います。関西の強さに特に貢献しているのが関西国際空港です。格安航空会社の国際便数が週236便あり,成田の139便よりも圧倒的に多い。何より,東京に絶対真似のできない利点をもっています。それは関空の方がアジア各国から1時間近いことです。格安航空便はそんなに快適ではないので,1時間というのは大きなメリットです。

低い女性の有業率

 循環的に関西は今,堅調と申した上で,今度は構造的な話をします。関西の地盤沈下は,私が27年前に大阪支店に勤務していた頃からも言われていました。根幹は生産年齢人口が減っていることです。地域別の推移を見ても,関西は他地域に先駆けて減少に転じ,今も減っているのが非常に問題です。

 もう一つは,1世帯当たりの年収が,大都市を抱えていながら関西は491万円と,全国平均(508万円)よりも少ないこと。関東ははるかに高い。理由として中小企業の従業員比率が高いことを思い浮かべましたが,雇用者に占める中小企業の従業員の割合は全国67.4%,関西67.1%ですから,中小企業云々というのが原因ではありません。

 なぜ低いのか。世帯の収入を世帯主の勤め先収入と配偶者の勤め先収入に分解してみると,世帯主の勤め先収入は全国平均並みか,それより若干低いところに止まっています。明確に低いのは配偶者の勤め先収入で,全国平均72万円に対し関西は49万円。原因は仕事に就いている比率,有業率の低さで,全国の44.8%に対し関西は40.9%。関東も低いのですが,世帯主が多く稼いでいるので世帯所得は低くなく,関西は女性の有業率の低さが家計を直撃しているのです。安倍総理が女性の活用を叫んでいますが,女性の有業率を高めていくことは関西経済にとって非常に大きなポイントだと思います。

 街歩きをしていて関西,大阪の強みとして一番感じるのは,大阪の方のコミュニケーション能力の高さです。訪問者から見た好感度ランキングというのがあり,直近の’14年の調査だと,大阪はナンバー1です。観光地として京都はすごい人気がありますが,このランキングでは下のほうで,やはり大阪の方は知らない人に話しかけたり,親切にしたりする。これは外国人に限らず観光産業を大きくしていく上でとてつもないメリットだと思います。

ポテンシャルは十分

 最後に,関西経済をより活性化するために大事だと思うことを挙げます。一番大事なのはイノベーションの促進で,外需をより確実に獲得し,まだ潜在化してない内需を掘り起こす。特に高齢化に伴って新しく発生してくる需要をいかに捉えるかということが大事です。介護ロボットやiPS細胞を使った高度医療などの技術や知見は関西に集中しており,こういうものをうまく捉えていくポテンシャルは関西は非常に高いと思います。

 次に人口流出にどう対応するか。関西はいい大学がたくさんあり,学生年齢層は多く流入しますが,残念ながらその人たちが就職する時期になると流出しています。まずは関西の大学の学生たちに関西の中で就職してもらうことが課題です。

 女性の活用も重要ですが,簡単ではありません。関西の女性は学歴が高く,大学,短大の進学率は和歌山以外の5府県がベスト10に入っています。学歴が高いと,パートなどの仕事に満足しない可能性もあります。インバウンド観光でもIRでも医療産業でも,ホワイトカラーか研究職のような産業を興し,高学歴の女性をいかに活用するかが課題でしょう。

 もうひとつ課題だと思うのは,金融決済面でのインフラがまだあまり活用されていないことです。ちょっといいワインバーとかに入ってもクレジットカードが使えないことが多い。交通系のICカードも関西でイノベートされた割には普及していない。国際観光都市を目指すのであれば,こういうカード類の決済をもっと普及させていく必要があると思います。

 関西は大阪を中心に成長のポテンシャルを十分に備えています。日本銀行としては今後も関西の活性化に役立つ調査と情報発信を続けていきたいと思います。

(スライドとともに)