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2015年9月18日(金)第4,550回 例会

水素エネルギー社会の展望と課題

牧 野  明 次 君(エネルギー商社)

会 員 牧 野  明 次  (エネルギー商社)

1941年大阪府生まれ。’65年大阪経済大学経済学部卒業。岩谷産業(株)入社。’88年取締役就任後,常務取締役,専務取締役,副社長等を経て,2000年に代表取締役社長。’12年より代表取締役会長兼CEOに就任。公益社団法人関西経済連合会副会長,公益財団法人大阪体育協会会長,一般社団法人日本エルピーガスプラント協会会長,公益社団法人大阪府工業協会副会長等。
当クラブ入会’12年12月。

 最初に「水素」についてお話しします。水素は常温では無色・無臭の気体です。ガスの中で最も軽く,拡散性,還元性に優れ,空気中に漏れてもすぐに拡散します。可燃性で,燃えると炎の色は無色透明,酸素と結びついて水になります。水素ガス1㎏のガス体の体積は大気圧下で約11m³,1辺が2.23mの立方体になるのに対し,水素の沸点である-253℃で液化すると,1辺が24㎝の立方体,つまり800分の1の体積になるのです。

電気の缶詰

 今なぜ水素がエネルギーとして注目されるのかというと,4点の理由があります。

 1つ目は,水素は地球上に無尽蔵に存在する資源で,化合物としてあらゆるところに存在していること。水の電気分解からも取り出すことができます。

 2つ目は,エネルギーとして大きなパワーがあること。同じ重量当たりの発熱量で換算すると,ガソリンの2.7倍になります。

 3つ目は,完全にクリーンであること。燃料電池を介して空気中の酸素と化学反応した後に出るのは,電気と水だけです。

 4つ目は,液化すると貯蔵や輸送に向いていること。電気は大量に貯蔵できず,送電ロスもありますが,電気を水素に変えると大量に貯蔵でき,輸送も大変楽になります。

 このことから,水素は「エネルギーの運び屋」とか,「電気の缶詰」と言い換えられるのではないかと思っています。

 私どもは,液化水素を水素事業の中心に置いて事業展開しています。液化水素プラントの新設・増設で製造能力を高める一方,燃料電池自動車(FCV)の普及や産業用途での市場開拓等,水素の利用拡大にも積極的に取り組んでいます。そして,水素の製造と利用をつなぐ高いハンドリング技術を武器に,液化水素市場の100%,圧縮水素を加えた水素全体で60%ほどのシェアを有しています。

 現在,日本の水素の総需要は,産業用も含めて1.5億m³です。昨年,国がまとめた「水素燃料電池戦略ロードマップ」では,2030年ごろにはFCVが約230万台に達し,燃料電池向けの水素需要が今の市場規模の約20倍に相当する27億m³まで拡大するとされています。また,’30年ごろには,水素発電も本格化する計画があり,そうなると,莫大な水素を調達する必要があると思っています。

戦前から取り組み

 当社は1930年に創業し,戦前の’41年に水素への取り組みをスタートしました。苛性ソーダの製造工場で副次的に発生する水素は,それまで大気に放出されていたのですが,その水素を精製してシリンダーに詰め,油脂や食品添加用に販売していました。’58年には圧縮水素メーカー「大阪水素工業」を設立。’78年には,宇宙開発公団のロケットエンジン開発のために液化水素をつくってほしいという要望があり,日本初の液化水素製造プラントを尼崎に稼動させました。そして,’86年には種子島宇宙センターから,水素と液化酸素を入れたロケット「H-1型ロケット1号機」が打ち上げられたのです。

 2002年には,実証試験用として日本初のFCVと燃料電池向けの水素ステーションを大阪ガスの酉島工場の中に建設。’06年,最初に稼動した尼崎のプラントの10倍近い製造能力を持つプラントを関西電力と合弁で堺に作りました。’09年には東日本初の液化水素製造プラントを千葉県で稼動させ,続いて’13年に山口県にもプラントを作り,この3プラントでFCVが全国的に普及しても問題なく供給できる体制にしたのです。

「実証」から「商用」へ

 現在の水素の主な用途は,産業・工業用で半導体・ガラス・光ファイバーですが,今後はFCV,家庭用燃料電池等,エネルギーとして利用される比率が高くなっていくと考えています。そして,水素社会の扉を本格的に開くには,FCVの普及拡大と同時に,「実証用」ではなく「商用」の水素ステーションの整備拡大が不可欠です。

 そこで,’11年に自動車メーカー3社,当社を含めたエネルギー供給事業者10社の計13社で,’15年から燃料電池を一般販売すること,同年度中に全国100ヵ所の水素ステーションを整備するという共同声明を発表しました。そのうち当社は20ヵ所の水素ステーションを建設すると言っています。

 当社は昨年7月,日本初の商用水素ステーションを尼崎市にオープンしました。続いて10月に福岡県北九州市,今年4月に東京タワーの南側に完成させました。その後も埼玉県戸田市,愛知県豊田市,山口県周南市の3ヵ所を加え,現在全国6ヵ所で商用ステーションを運営しています。今後も,来年3月末までに20ヵ所以上の水素ステーションを建設すると表明しており,関西国際空港や,この近くでは森之宮の成人病センターの向かい側,あるいは本町にオープンしていきます。

 今年4月に東京タワーの南側で開業した「イワタニ水素ステーション芝公園」の開所式には,安倍総理,宮沢経済産業大臣のほか,政財界から多くの方々に出席していただき,「今後ますます水素革命のアクセルを踏んでいく」と力強いメッセージをいただきました。

 今年は「水素元年」と言われています。様々な業種の皆さんが水素を使って新しい商品,新しいものをつくることに参加していただければ,新たな産業革命が引き起こせると考えています。我々としては,皆様方のいろいろなアイデア,ご参加を待ちながら,新しい世界,新しいエネルギーを創造していきたいと思っています。

(スライドとともに)