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2015年7月17日(金)第4,542回 例会

日本男子バレーの現状と未来への提言

中垣内  祐 一 氏

元日本代表バレーボール選手・元指導者
現 新日鐵住金(株)大阪支社 土木建材室
主幹
中垣内  祐 一 

1967年福井県福井市生まれ。’90年筑波大学体育専門学群卒業。同年新日鐵(現新日鐵住金)入社。新日鐵堺バレー部を経て,バレーチーム堺ブレイザーズで2004年5月まで選手,その後’09年5月まで監督として在籍。その後’11年5月までアメリカ男子代表チームにアシスタントコーチとして留学。帰国後日本代表チームコーチとして’12年7月まで活動する。’13年2 月から現職。

 きょうは,最近人気のなくなった男子バレーボールの現状を理解していただき,世界でメダルを獲るスポーツとは,どんなことをしなければならないのかを,お話します。

強いニッポン

 男子バレーはミュンヘン五輪(1972年)で金メダルでした。その中心は松平康隆さんです。強固な組織と強いチームを長期戦略でつくりました。

 戦略は多岐に渡っていました。まず,長身選手を全国から呼び集め,そのチームを長期の海外修行に行かせています。

 それから,相手チームを徹底的に分析しました。松平さんの分析とは,相手の文化を知ることです。

 また,国内での人気の拡大を目指しました。例えば「ミュンヘンへの道」は,彼が番組をプロデュースし,自分でテレビ局に売り込みました。彼は天才の一人だったと思っています。一人で行動し,強化をし,バレー界の帝国を築き上げました。

 語学もすばらしくて,滑らかな英語で普通に挨拶していました。

 戦術面でも,1人時間差,時間差攻撃とか,近代バレーの礎になるような攻撃パターンをつくりました。残念ながら2011年にお亡くなりになりました。

 男子バレーの五輪の戦績は,東京3位,メキシコ2位,ミュンヘン金メダルで,モントリオール4位。その後,下がって,モスクワは出られなかった。ロス7位,ソウル10位,バルセロナ6位,出られない大会が続いて,北京で11位,ロンドンも出られなかった。

 アジア選手権は,2年に1度の開催。ここでは,1960年代から’97年ぐらいまで3位内をキープしていました。90年代半ばから豪州とイランが上がってきます。現在では,圧倒的にイランが強く,世界のトップレベルです。

衰退の原因

 学校のバレー部が減っています。2003年から’13年までの中学校体育連盟の男子バレー部の登録数は,’03年4,167校あったのが’13年では2,989校,28%超の減です。高校でも17%減。

 例えば,堺市には中学校が44校あります。われわれは,さまざまな普及活動をしてきましたが,3校しか男子バレーのチームがありません。女子で17校。全国で男子バレー部の人気がなくなってきています。

 バスケットやサッカーは4%とか1%以下の減で,バレーボールをする場所を見つけるのも厳しくなっています。

 国家のチームの強化の礎というのは学校にあります。チームが3割減になれば,能力が高い選手も3割減になるのです。

 Vリーグでも,バブル崩壊後,企業チームが多く廃部になっています。企業内で運動部の持つ意味が変わってきていて,従業員の士気高揚,一体感の醸成などが大きい意義だったのが,現在ではCSRとか,広告宣伝だったりします。

 また,バレーボールの特性は,瞬間でコントロールしないといけないことにあり,上達に時間がかかります。それから,1回の攻撃で自チーム内で3回以内,ボールに触れます。繊細な動きが必要で,リズム,調子の波がプレーに影響します。また,パワーと持久力のバランスも重要です。

 指導方法は,大松式と言われる長期間のスパルタ練習から,短期間の科学的トレーニングになってきています。

 衰退と言うと,後ろ向きな感じがしますが,競争相手が増加した,第三国と言われていたチームが強くなったということで,男子バレーは総体的には,よくなったと言えると思います。

 今はインターネットが発達していますので,世界中で同じトレーニングができ,地球の裏側の国の試合を見ることができます。そういうところで,強化も差がなくなってきました。

再興への提言

 男子バレーの再興への提言の1つは,人間力の戦略的養成です。人間としての成長がないとプレーヤーとしての成長もないと考えています。礼儀,忍耐,協調性,体力,道徳心,愛国心などいろいろなものをひっくるめての人間としての成長です。

 企業の皆さんも,経営者の方々も,人間を育てる難しさでご苦労されていると思います。私は,戦略的に養成する必要があると思っています。

 2つ目は海外研修。自分でエアチケットを手配,ホテルを手配,プレーも頑張る。それぐらいでないと,海外での武者修行の成果は出にくいと思います。

 3つ目は,効率的とか科学的な方法が,近年,外国から入ってきました。トレーニングは一見効率的で,目的もしっかりしていますが,それにとらわれている気がします。

 メダルを獲るのは,非常識なことなんです。常識の範囲内で練習しても,得るものはありません。枠を飛び越えたものを得るには,それ以上の飛び越え方をしなければなりません。

 きょうは,後ろ向きの発言が多かったのですが,置き換えれば,「勝っているチームはそういうことをしているんだ」ということを,皆さんにもご理解いただけたんじゃないかと思います。

 サッカーも野球も楽しいスポーツですけれども,バレーボールも非常に心熱くなるスポーツです。ぜひ,皆さん今後とも応援していただければと思います。

(スライドとともに)