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2015年4月10日(金)第4,529回 例会

ソーシャル化の進展と革新的マーケティング戦略

井 上  哲 浩 氏

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科
教授
井 上  哲 浩 

1965年生まれ。’87年関西学院大学商学部卒業,’89年関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了,’96年カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学院Ph.D(.経営学博士)。’95年関西学院大学商学部専任講師,’99年助教授,2005年教授を経て,’06年慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。日本マーケティング・サイエンス学会理事,日本消費者行動研究学会理事,日本マーケティング学会理事。

 フェイスブック,ライン,ツイッター,ブログ,ミクシィ…。たくさんのソーシャルメディアがありますが,ソーシャルという概念を幅広くとらえてマーケティングに活用していただきたい,それが本日の私の主旨です。

マーケティングROI

 ソーシャルメディアのソーシャルという社会性の部分が鍵になる,社会性をいかに理解するか,そしてそれをいかにマーケティングに活用するか―。これが今後のマーケティング戦略で面白いところです。

 マーケティング戦略は非常に重要な役割を担っていますが,売り上げは減っている,予算は減っている,でも同様のマーケティングの成果を達成しなきゃいけない。経営者の皆様はたくさんのジレンマに直面しているのではないでしょうか。

 その中で,7年ぐらい前から「マーケティングROI(Return on Investment)」という概念が脚光を浴びてきました。マーケティングの投資効率を最大化し,より効果を高めようという考え方です。「I(インベストメント)」,これはコストの方ですので経営者の皆様には分かりやすい数字です。問題は「R(リターン)」の方で,いかに収益を考えるかです。

 ROIを高める非常に効率的なマーケティングを組もうというのがここ5年の流れですが,そのような効率性ばかり求めると,結構失敗に陥ることもあります。短期の収益を追い求めると中期,長期でお客さんを逃がしてしまう。そのヒントとして「ソーシャル化の進展と革新的マーケティング戦略」をお話しさせていただこうと思います。

外部資源の内部化

 具体的な中身は二つです。一つ目は外部資源の内部化を狙ったマーケティング戦略です。

 ここで言う外部資源が「ソーシャル」です。ソーシャルという社会性の部分をいかに内部に取り込んでいくか,そういうマーケティング戦略が一つの試みです。

 「ソーシャルリーディング」という分野があります。例えばドワンゴと角川。本や漫画,アニメは作者や作者グループが作りますが,それを読者と一緒に相互作業をしながら作る。読者がこの主人公,キャスト,こんな方向に持っていったほうが面白いんじゃないの,ひょっとしたら2週間後にはコンテンツに反映されているかもしれない―。これがソーシャルリーディングです。

 「ソーシャルテレビ」という概念もあります。ニュース番組の下にツイッターのコメントが出るやつです。ニュースのみならず,非常に一般的になっていますが,テレビというマスメディアの中に,外部資源としてのソーシャルメディアのツイッターが入るということでソーシャルテレビになるわけです。

 テレビ番組編成のみならず,広告コミュニケーションでも,いかにソーシャルメディアでつぶやかれるかというところを刺激して作るようなやり方が,昨今の流れです。

 2013年9月27日,三菱電機が霧ケ峰の新聞広告を出しました。私は「夏も終わりなのに,何でエアコンなのか」と思いましたが,この日は(広告モデルの)着物姿の杏さんが主演のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」の第1回放送の日でした。「ごちそうさん」の前にやっていた「あまちゃん」の視聴率は20%を超えていました。広告主の三菱電機にしてみれば「ごちそうさん」は単なる外部資源で関係はない。でも視聴率20%という外部資源を見事に内部に組み込んだ,すばらしい例です。

内部資源の外部資源化

 二つ目は,内部資源の外部資源化を狙っていくという話です。

 2008年に1回目のキャンペーンをリリースした「王子ネピア:千のトイレプロジェクト」があります。売り上げの一部をユニセフに寄付して,千個のトイレを東ティモールに作ろうというプロジェクトです。

 ある流通では「エンド陳列」をしてくれました。流通も消費者も協力する。ネピアはこんなことをやっているんだ,私たちも協力しようと自然とロイヤリティーが生まれます。活動が社会的な存在になることによって,消費者も流通もメーカーも「三方良し」というメカニズムになってきます。

 昨今,私は化粧品に興味を持っています。化粧品を選択する際,コラーゲンとかアミノ酸,それらがどんな効果があるかを考えて製品を選択する,これが普通のメカニズムです。企業が持っている技術が鍵です。ところが,結構特性と効果の関係付けがあいまいなまま選択されているということが多いのです。

 富士フイルムは5千億円を研究開発費に投資しています。そうすると富士フイルムのナノ化技術というのはすごいんじゃないかと,類推で効果を考える。技術と特性の間に推論が発生し,それによって効果が生まれる。企業の技術やブランドイメージが外部資源化して,お客様のイメージになっています。内部資源の外部資源化です。

 ソーシャル化の進展,それからメディアに限らず社会一般として外部資源化するというところがソーシャルだということです。

 マーケティング資源は非常に限られてきています。従来のやり方ではなかなか同様の効果が得られなくなってきている。ソーシャル化という概念を幅広くとらえ,マーケティング戦略を組んでいただければと思います。少しでもお役に立てるように祈っております。

(スライドとともに)