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2015年4月3日(金)第4,528回 例会

講談社 新出版ビジネスへの挑戦

古 川    公 平 氏

(株)講談社 取締役
ライツ・メディアビジネス局
デジタル・国際ビジネス局 担当
古 川    公 平 

1957年兵庫県姫路市生まれ。’80年慶應義塾大学卒業,(株)講談社入社。少年マガジン編集部,ヤングマガジン編集部,モーニング編集部などを経て,2002年アフタヌーン編集部編集長。’04年モーニング編集部編集長。その後第七編集局局長を経て,’10年取締役就任。

 1980年に講談社に入社しました。35年の会社生活の中で,27年ぐらい漫画編集者をやっておりました。会社が2009年に「デジタル事業委員会」を立ち上げて,その中で委員をやっていました。そのときは週刊漫画雑誌の「モーニング」の編集長を兼任しておりました。

 そのとき実は「携帯とかスマホで漫画は読めるか,そんな形があるわけない」と,デジタルの反対派の急先鋒でした。そう言っていたところ,役員になったときに社長から「漫画とデジタルを担当しろ」ということになりました。社長に「私が携帯でメールぐらいしか打てないの知ってますよね」と言ったら,「あなたがデジタルを分かるようになったら,全社員が分かるようになるでしょう,最低なんだから」ということで。

ライフスタイルが変化

 出版業界はピーク時は2兆6,000億円以上あった売り上げが,現在1兆6,000億円程度に落ちています。書店の数も減り,約2万2,000店から1万3,000店に減少している。紙が中心だった出版ビジネスは,危機的崩壊の状況にあると言っても過言ではないと思います。中でも雑誌の落ち込みが大きく,業界の売り上げ減少の最大要因と言われています。

 やっぱり携帯電話,スマホやゲームなど,ほかのエンターテインメントに使うお金が増え,雑誌に回すお金が少なくなってきたというのが一つの要因だと思います。インターネットの普及により情報がただになってきた,高い金を出して雑誌を買う必要はないという風潮も出てきている。インターネットの普及でライフスタイルが変わったということだと思っています。

 まず人を集める,集めたらそこに広告を出したり,新しいビジネスが生まれる。多分これはグーグルやフェイスブック,ライン,ほかのプラットホームやアプリも,基本的には同じ考え方だと思います。つまり,多くの人を集めて多くの情報を集めたもん勝ちということです。この数の量ということにおいて,まず出版社は勝てません。

 ただ,数を集めるためにはコンテンツが要ります。私たちがつくるコンテンツは,実はそこを集めるために利用されています。そこを嫌と言うのか,読者たちが集まってくることに対するコンテンツ供給を無料でやるのが嫌なのか。じゃあ何をするのかということが,僕たちが今考えなきゃならない一番の大事なところなんです。出版社はどうするか。

信頼感で勝っていく

 質の高い面白いコンテンツ,面白いものには情報や人が集まってきます。知らない人が言っている情報,一般の素人の人たち,自分と会ったことのない人が「おいしいよ」と言っている情報。だけど本当にそれでいいんだろうかといった場合に,一番舌が肥えていると自分が信頼できる人が「ここ,おいしいよ」と言った方が,数より信頼できるということです。これは僕たちが得意なところです。訳の分からないやつにおいしいと言われたところに行きたくないというのは,多分皆さんもそうだと思うんです。

 編集というのは「集めて編む」仕事です。それは何かというと(情報を選別し提供する)キュレーションをずっと生業にしてきた職業です。ここに優秀な人がいる,こいつは面白いという人たちを世の中に出していく。まず集めてきて,その中からセレクトして,それを出していく。数の論理で負けるけれども,信頼感で勝っていくというのが僕たちの,これからの出版社の生きる道だと思っています。

 常に部下に言いますけれども,とにかく歩け,好奇心を持って人に会え,その後は自分の感覚を信じて,信じるためには映画を見たり,そういったものを経験して自分が面白いと思ったものを,自信を持って言えるようになれ。その後,一度信用した著作者が売れようが売れまいが,天才と信じろと。それが僕たちの根本と思っています。

 漫画「進撃の巨人」というのが,実はいま日本で最大のヒットになっています。海外合わせて5,000万部を超えました。USJのイベントは5月いっぱいの予定だったのですが,8月まで延ばしてくれ,次の2期もやりたいというような形です。米国でグラフィックノベルの1位~16位を独占しています。米国の漫画の市場でものすごいヒットが出たことによって,市場自体が動き始めました。

営業を提案型に

 講談社は4月1日に組織改革をやりました。930人中800人を異動させました。31局を14局,半分以下にしました。決定は,局長が上げてきたものを私が決定して,役員会で終わりです。局を減らしたことによって横の連携が速くなりました。局長1人ずつですから,局長と話をすれば済みます。

 毎月何かを映像化しています。それをスポンサーさんらに提案していく。何が変わるかというと,提案型の営業をしろということです。今まで「お願いします」だったのを「提案します」に変えろというのを,今回言っております。自分たちのところが変わっていくという形にしました。ただ組織を変えただけでうまくいくとは思っていません。800何人の異動は辞令だけでも大変で,引越だけで年末までかかると言っています。トラブルはいっぱい起こってくると思います。まだ9月~12月に3回異動があり,微調整していくと。

 前を向いて明るく,僕たちのやっている「つくり出す」という仕事がやはり世の中に必要だということを,自信を持って信じてやっていきます。講談社はこうやって変わっていくんだということで,ご理解いただければと思います。