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2015年3月27日(金)第4,527回 例会

2015年の内外情勢について

村 田  晃 嗣 氏

同志社大学
学長
村 田  晃 嗣 

1964年神戸生まれ。’87年同志社大学法学部政治学科卒業。’89年3月神戸大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。’95年9月米国ジョージ・ワシントン大学大学院博士課程(政治学)留学。’98年2月博士(政治学)の学位受領(神戸大学)。2005年同志社大学法学部助教授,’11~’13年同法学部長,’13年から現職。

 2015年は第2次世界大戦終結の70周年です。中国,韓国が歴史を外交のカードに使って攻勢をかけてくる。実は過去だけではなくて,未来も外交にとって大きな道具になり,カードになるということを申し上げたい。

30年後の予測は困難

 私は大変な映画マニアです。SFのファンタジー映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」は1985年のアメリカの田舎町からタイムマシンに乗って30年未来にたどり着く設定です。そこでは自動車が空を飛んでいます。科学技術が人間の想像に追いついていないという事例が見てとれます。ところが初めから終わりまで見ても,登場人物の誰一人携帯電話を使っていない。自動車とは逆のパターンです。5年,10年ならともかく30年のスパンで未来を予測するということがいかに困難かということです。

 日本が直面している深刻な問題に,人口の減少,急速な少子高齢化があります。人口動態は比較的長期にわたって予測がしやすい。出産可能な女性の数とか,乳幼児の死亡率とか,変数が少ないからです。だけれども30年後の日本経済がどうなっているかとか,30年後の世界経済,あるいは世界の政治や日本の政治がどうなっているかといった予測についてははるかに変数が多く,長期にわたる未来予測というのは困難を極めます。

 だから長期の未来についてわれわれ自身がいたずらに悲観的になることはやめようということです。日本はどんどん少子高齢化でもって経済規模も落ち,今度はインドに抜かれて,ロシアに抜かれて,駄目になっていくという未来イメージに取りつかれてしまうと,本来プレーできるはずの未来カードすら自分たちで失ってしまう。いたずらに未来について悲観的になることは外交上も得策ではない。

 2015年以降の日本で避けて通れないことは,急速で着実に進んでくるグローバル化の波です。その現象には二つのトレンドがあります。

 一つはアメリカの社会を見ればよく分かります。白人はマジョリティーではなくなっていく。ヒスパニック,ラティーノ(ラテン系アメリカ人)の人口がどんどん伸びている。人口構成の変化がアメリカの外交のみならず,司法・政治にも確実に変化を及ぼしだしている。宗教構成が変わっていく。もうアメリカはプロテスタント中心の国とは言えなくなってくる。さらにジェンダー,あるいは性の部分でも大きな変化が起こっている。LGBT(レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスジェンダーの略)としてまとまることで,大きな政治的,経済的影響力を持っています。

縦と横のグローバル化

 多様化が進み,いいこともあるけれども同時になかなか物事が決められない。少数のマイノリティーが既得権益でノーと言ったらば,物事が決められないような社会に今われわれは生きている。これは「横のグローバル化」です。

 同時に「縦のグローバル化」も起こっています。世界中のありとあらゆる現象を一つの基準で序列化したり,ランキング化したりする。去年京都は国際観光都市で世界一に選ばれました。世界の主要都市が観光都市のランキングでしのぎを削っている。国連が毎年世界の国民のハピネスランキングをやっている。「大学の世界ランキング」もあります。何でも序列化してしまおうという縦のグローバル化です。

 この二つは,共通の根っこを持っています。ITとソーシャルネットワークで,これだけ普及したから反政府デモをやるのに命がけだった人たちが携帯電話一つで集まれる。声を上げてもどうしようもないと思っていたマイノリティーが,ツイッターでつながる。今までだったら大阪の大学とヨーロッパの大学とアフリカの大学とジャカルタの大学と,どうやってランキングするのよと思われたのが,コンピュータで検索をしたら,ありとあらゆる情報と数字が出てきて,何とはなしに客観的な基準みたいなものができてしまう。

 二つのグローバルトレンドは基本的に矛盾します。さまざまな価値観とかライフスタイルを認めていけば,単純に一つの基準でランキングなんかできない。一つの基準でランキングしようと思ったら,多様性が見えなくなってしまう。

いたずらな悲観主義は危険

 日本ではさまざまな施策が打たれて,経済の活性化のために努力がなされている。縦のグローバリゼーション対応ではかなり頑張っている。横のグローバリゼーションに対して,どれだけ戦略的に対応できているかというと,ここのところがちょっと弱い。

 経済同友会に女性会員が最初に入ったのは1986年です。29年前です。ザ・アールという人材派遣会社をなさった奥谷禮子さんという方と,当時高島屋の常務をなさっていた石原一子さんです。だから30年前,この国の経済界は女性のプレゼンスはなかったということです。30年で日本の経済界もこれだけ変わった。あと30年たったら何が起こっているかわからない。

 いたずらにわれわれが長期にわたって悲観的になるのは危険なことであって,長期にわたっては健全な楽観主義を持たなければならない。グローバル化に対応するためには,縦の競争も大事だが,同時に横の多様性にも十分目配せをする,そういう姿勢の中で日々着実にプラグマティックにやるべきことをこなしていくということが,2015年以降,日本がこの厳しい国際情勢の中で生きていく上での大事な姿勢ではないでしょうか。