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2014年9月5日(金)第4,500回 例会

様々な“現場”における対話の可能性と課題

木ノ下  智恵子 氏

大阪大学
CSCD(コミュニケーションデザイン・センター)
特任准教授
木ノ下  智恵子 

神戸芸術大学大学院修了。神戸アートビレッジセンター美術プロデューサを経て現職。他分野のテーマ・機関・個人との協働企画を実践している。

 私は大阪大学という総合大学の教育現場ではなく,若手の育成を目的とした事業を展開したり,プロモーションビデオをつくったり,様々な場づくりをしてまいりました。パーティーをやっているだけみたいな感じですが,様々な人たちと出会いの場をつくってきました。商店街で未来を築くためのワークショップをやったり,卓球場でいろいろな人たちとママさん卓球の場を設けたり,神戸ビエンナーレという国際事業ではアーティストのアトリエになるような鉄工所に一緒に行ってみたりとかです。対話の専門家というよりも,アートプロジェクトを中心的にやってまいりました。

回路を構想, 設計する

 現場というものが単に企業とか一つに限られたところではなくて,様々な場で皆さんとお話ししながらいろいろな問題点を明らかにしていく。「問題はあるよ」ということを,顕在化させていく。展覧会を対話の場に,アートセンターをコミュニティースペースに,そういうふうに変換して考えれば,私がやってきたことでひょっとしたら貢献できると思いました。

 コミュニケーションデザインは「専門的知識を持つ者と持たない者,利害や立場の異なる人々,その間をつなぐコミュニケーションの回路を構想,設計する」と定義しています。本当に立場の異なる,世代間だけではなくて社会的背景,立場の異なる方々の間をつなぐというものです。医療現場では医者が患者にきっちりと説明をする義務というものが求められており,手術着を脱いで人としてどういうふうに会話したらいいかということを学ぶ,あるいは教育する。

 「社学連携」では社会と接点を持ちながら新しい価値を築いていくためには,大学が象牙の塔に入っているだけではなく,社会に出て行くことが必要です。阪急梅田のコンコースでいろいろな人たちが対話する場を設けました。有志の学生が意見をお聞きする形で,対話の場を社会のど真ん中で演出しました。

 社会的な背景では大学が社会から求められる役割の変化というものがあり,大学の社会的な使命をちゃんと還元していかなくてはいけない。その一つに「産学連携」という形でいろいろな企業,あるいは新しい技術開発を大学と企業がいろいろな形で展開していく。「アウトリーチ活動」,出て行く,届けるという形になるのですが,学術研究に関する国民との対話というものが,これは実は文科省で義務化されている現状もあります。これらに「対話」が用いられております。

 私たちの研究では,人の問題をどのように可視化していくか,あるいはプログラムしていくかということが重要です。進行役,参加者,あるいは企画者が実践知を高めることによって対話というものをより身近に,そして豊かに展開できると考えております。

組織を改革する

 「対話」は人間の生き方の中に組み込まれた形式で,様々な感情の起伏を他者とダイレクトなコミュニケーションによって自覚化,相対化,自己意識化していく,そういった力がある。目指すべき対話は一つの答えを一方的に導き出すのではなく,参加者自らが答えを選ぶ。思考のプロセスを共有しながら個別の考えや気づき,あるいは分有,または尊重する,本当に聞くことの力なのではないかと考えております。

 「アートエリアB1 」,これは実は2005年のいわば工事現場の段階から今のプログラムに至るような社会実験をしてまいりました。胸襟を開くと言いますか,社会的な肩書きを外して,下は20代の学生から,上はひょっとしたら会社の役員クラス,あるいは社長クラスの方々が夜な夜ないろんなテーマによって集まってこられまして「ラボカフェ」という形で,哲学,アート,科学技術,医療,様々なテーマで10人から50人程度対話をしております。年間に大体80本ぐらい,いろいろな方々が出会う場づくりをしております。

 対話における問題点というものが複数見えてきたのですが,1 点は研究的課題といたしましては,対話を続けていく,こうやって日常的に普段当たり前なことをこういう形でプロジェクト化していくことの難しさがあります。なぜそれをするのか,何のために対話を用いた諸活動を,企業の中,あるいは組織の中でやっていくべきなのか,そういった評価指標というか,言語説明の指標がまだまだ未整備である。当たり前だからこそ,とはいえ求められているからこそ,そういったものが今まで未着手であるということがわかりました。

 もう1 点,企業,あるいは組織の中で,企業に限らず様々な大組織と言われる中では,組織風土の問題,あるいは個人の成熟度の問題,あるいは成果主義,あるいは継続性が困難だというような課題で,いろいろな問題が明らかになっています。

 対話の課題は組織の課題である。対話によって課題が解決されるということは,組織の改革につながるといえると仮定義しております。個人が物事への感度を上げ,人生観,仕事観,価値観を改革しながら,組織をマネジメントする力,能力を強化し,様々な評価軸を持って認め合う力を養う,そうすることによって組織が日常的に対話を取り入れて,成熟した個人が集合する組織内のメンテナンス,対話によるメンテナンスを行うことにより,組織内のパフォーマンスを上げていく。この個人と組織の相乗効果によってイノベーションというものが起こる,社会変化というものが継承できます。

 皆さんは組織のトップであられると思います。釈迦に説法かと存じますが,こういったものを組織内でもう一度考えていただく場を設けられるようでしたら,ぜひCSCDにご用命をいただけましたらと思います。

(スライドとともに)