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2014年4月4日(金)第4,480回 例会

岐路に立つ出版ビジネス~雑誌と本の未来~

山 本    浩 氏

(株)博報堂
出版・コンテンツビジネス局 局長
執行役員
山 本    浩 

1957年生まれ。早稲田大学商学部卒業,’82年博報堂入社。多数出版社得意先を担当し,出版営業局業務推進部長,出版営業局局長代理を経て,出版・コンテンツビジネス局局長。’13年11月発足のクール・ジャパン推進室室長。’14年執行役員 出版・コンテンツビジネス局 局長。

 出版ビジネスは,様々な要因から極めて厳しい状況に陥っています。2012年の数字ですが,日本の出版社の総売上は約2 兆312億円で,この12年間で約4 割減少しております。出版社の数も4,500社から3,700社ほどに減ってきています。

 ただ昨年は文芸書のミリオンセラーが続出した年でした。そういった意味で,私たちは「まだまだやり方によって本は売れるぞ」ということを確信させてもらった年でした。特に映像化を絡ませるとか,いろいろな仕掛けとプロモーションや広告が絡み合うことが非常に重要です。本屋さんに並べておくだけでは,なかなか本は売れないというのが現実です。

 ちょうど先週公開された「白ゆき姫殺人事件」という映画ですが,映画の公開が決まってポスターが書店さんに貼られてから,本が売れ始めて,アッと言う間に映画公開前に60万部まで売れました。まだまだ本は売れるという部分を私どもは確信しています。

 さて,これから出版ビジネスの未来の話をさせていただきたいのです。キーワードは3つです。1 つは「デジタル」,もう1 つは「コンテンツ」,そして「グローバル」です。

拡大する電子書籍市場

 電子書籍市場の市場拡大には,スマホやアマゾン,楽天などの専用デバイスの普及や増加がカギになると言われてきてきました。インターネットメディア総合研究所によると,2012年730億円程度で,アマゾンのキンドル,スマホ,プラットフォーム向けの電子書籍市場は230%ぐらい増加しています。ガラケーからスマホに変わって,この市場は最近増えてきています。予測では,13年度以降もこの傾向のまま拡大,2017頃には2,390億円程度になります。電子雑誌とかマイクロコンテンツなどの市場規模予測と合わせると,2,700億円以上にはなると予測がされています。

 しかし,もはやテクノロジーは新たな段階に入ってきていると言えます。スマホとかタブレットを既に超えつつあるといった状況がわかります。グーグルグラスは日本では販売されていませんし,屋外での使用は基本的には認められていません。どちらにしても近い将来,今までにないハンズフリー型のデバイスが主流になっていくだろうと思います。リアルな本とは違うアプローチで新しいデバイスをつくり出せれば,紙の本とは別に電子出版市場は大きな市場になっていくと思います。ここに来て感じるのはテクノロジーの進化は予想以上に早く,その時期がかなり近づいているという気がします。東京オリンピックまでの5 ~ 6 年の間にもっと大きな変化が起こるのではと思います。

コンテンツを核にしたビジネスモデル

 さて,次のキーワードは「コンテンツ」です。今日は時間の関係もありますので,3 つ目の「グローバル」と掛け合わせたケースをご紹介できればと思います。

 出版社の収益は,販売収入に雑誌の広告収入,そのほかライツなどの収入で成り立っています。しかし,実際にはこれまでの大手出版社は出版物の販売と広告が2 本立てで,ライツとか映像化といったコンテンツビジネスは付随的なものでした。映像化に関しても,原作の本やコミックが売れればよしという感じで,出版社が積極的に出資することはあまりありませんでした。だが,最近はかなり様変わりしてきました。小学館や講談社は現実問題として,ライツやコンテンツビジネスの売り上げが広告収入を上回っています。そういった状況を受けて,その他の大手の出版社さんでもライツビジネスやコンテンツビジネスを専門に扱う部署,あるいは雑誌などのブランドを利用したブランド事業を行う部署を次々と立ち上げています。

 出版社のビジネスモデルは自らが創り出すコンテンツを核にした360度モデルに変化しつつあると言えます。2010年秋に,講談社,アニメ制作会社のトムスエンターテイメント,博報堂の3 社で,「ライジング・スター」というプロジェクトをインドで立ち上げました。昭和40年代に一世を風靡した漫画『巨人の星』をリメイクしようというプロジェクトです。

 「なぜインドか?」というところからお話ししないといけません。簡単に説明すると理由は3 つです。1 つはインドがこれからの大変な魅力的な市場であるということ。2 つ目は『巨人の星』が大ヒットした高度成長時代の日本と今のインドが似ていること。3 つ目は野球とクリケットの類似性です。クリケットは日本人には非常になじみが薄いのですが,世界的にはサッカーに次ぐ競技人口のあるスポーツです。スーパースターも存在します。子どもたちのあこがれの的になっています。

成長に必要なグローバルな視点

 今後,コンテンツビジネスは人口減少が確実な日本の国内だけではビッグビジネスにはなりません。グローバル視点はコンテンツビジネスにとって必須です。

 「デジタル」「コンテンツ」「グローバル」という3 つのキーワードで,出版ビジネスの未来をちょっとだけのぞいてみました。決してバラ色でないと思いますが,暗闇でもない未来が見えている気がします。ただ,気をつけなければ,こういったビジネスに別の業種から参入してくる可能性も十分にあり,旧来の出版社さんがその中に皆が残れるかということです。私自身も出版ビジネスの明るい未来に少しでもお役に立てればと思っておりますし,そういった形のことをこれからも頑張っていこうと思っています。今日は出版ビジネスの未来について,ほんのさわりだけですがお話しさせていただきました。(スライドとともに)