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2013年9月13日(金)第4,455回 例会

宇宙エレベーター建設構想

石 川  洋 二 氏

(株)大林組 技術本部エンジニアリング部
上級主席技師
石 川  洋 二 

1955年生まれ。東京大学工学部卒業,同大学院修了。工学博士。レンスラー工科大学,NASAエームズ研究センターで研究。’89年大林組入社。宇宙生活のための併載生命維持装置の研究など。

エレベーターより鉄道

 さて,「宇宙エレベーター」ですが,「直立したケーブルに沿って,クライマーという乗り物が昇ったり降りたりする未来の宇宙の交通・輸送システム」。このように定義させていただきます。エレベーターというよりも鉄道と考えてください。

 「ケーブル」,「クライマー」について簡単にご説明いたします。地球に長いケーブルをつなげます。これが鉄道のレールの役割をいたします。このケーブルには,いくつかの駅があります。代表的な駅として,静止軌道に一番大きなステーションを作ります。それから,車両に当たるのがクライマー。このクライマーで物や人を乗せて持ち上げます。このケーブルは地球の自転と一緒に回っていますので,上部の周回速度が非常に速い。地球の脱出速度を超えて,そこから探査機を放すと,火星とか月とかほかの惑星へ飛んでいく,そんな仕組みです。この宇宙エレベーターは何のためにあるか。ロケットの代わりになります。

「カーボンナノチューブ」発見で現実に

 エレベーターの定義に「直立したケーブル」とありますが,ケーブルは普通なら,直立しません。どうすれば直立するのでしょうか。地球の自転の速度と同じ速度でこのケーブルが回ることによって,地球からの重力と同時に遠心力が働きます。これでケーブルがピンと張って,直立したように見えるのです。ケーブルは重力と遠心力が引っ張っています。ところが,このケーブルが引っ張られる力が半端じゃないので,「宇宙エレベーターなんて現実的じゃないよ」と思われていました。ところが,20年前に「カーボンナノチューブ」という新しい材料が日本人によって発見されました。炭素でできた物質ですが,引っ張りに耐える力が鉄の100倍ぐらい強い物質です。これで,宇宙エレベーターが可能でないかということになりました。

 私たちが考える「宇宙エレベーター」を細かく説明いたします。長さは9万6,000km。先端にカウンター・ウエイト,つまり重りをつけます。このケーブルを地球につなぎとめる必要がありますが,その場所を「アースポート」と名づけます。物や人が発着する場所です。ここから出発して昇っていきますが,そうするとわれわれが感じる重力がだんだん減ってきます。約3分の1 の火星の重力になる場所に,その火星の重力環境を利用した研究施設を作ろうということで「火星重力センター」,それから約6分の1 の重力で「月の重力センター」を考えました。静止軌道の内側のあるところから探査機を落とすと,ちょうど低軌道に入ります。今までは,国際宇宙ステーションが飛んでいる低軌道にロケットで打ち上げていましたが,これは逆転の発想です。それから,宇宙施設の最大の施設,静止軌道ステーションは3万6,000kmの場所です。ここには,宇宙太陽光発電衛星を建設します。

 大林組は建設会社なので,これをどうやって建設するのかということを検討しました。「2050年運用開始」を目標にした工程表を作っています。私たちが描いた想像図,イメージをお見せします。では,ここで皆さん「宇宙エレベーター」が完成したとして,2050年にタイムスリップしてみましょう。

 アースポートから出発して,だんだん昇っていきます。陸上にはサポート施設をつくります。広大な面積を必要とする空港,多くの人間が利用するホテル等を陸上に作り,そこから海中トンネルを使って,約10㎞の沖合にある主要設備につなげます。この主要設備はクライマーの発着場です。クライマーですが,アメリカのエンジニアが作ったイメージ図をお見せします。30階建てのワンルームマンションのような形で,これに乗ってケーブルを昇るのです。時速200kmと想定しました。15分で大気圏を脱出して,星が見え始め,12時間で重力が半分になります。1 日で火星重力センター,2 日で月重力センターに到着します。ただ,その後が長いのですが。

費用は10兆円。宇宙太陽光発電で回収

 ということで,そろそろまとめに入ります。この「宇宙エレベーター」はまだ今の技術ではできません。例えば長く強いカーボンナノチューブのケーブルがまだないので,ぜひ作らないといけません。クライマーが昇っていくためのメカニズムとか,エネルギーを無線で送る技術など,まだまだ課題があります。 ほかにもまだ問題があります。誰がお金を出して作るのでしょうか。――多分,国際的な機関が推進して,何らかのファンドを集めて作っていかなければならない話です。当社も関係できれば,いいなとは思っています。「幾らで作れるの?」ということですが,ざっと試算してみました。さっきの建設計画でかかるお金を積算すると,約10兆円です。宇宙プロジェクトとしてはそんなに高いものではありません。ただ10兆円もかける価値があるのかということです。

 では,投資を回収するにはどうしたらいいのか。観光で10兆円まで集めるのは難しい。10兆円をペイするには,なるべく大型の構造物で収益を生み出すものを建設するのが良いのです。これはもう1 つしか考えられません。今までの私の話にヒントがあります――「宇宙太陽光発電衛星」。1 基つくって30年,これを利用してエネルギーを地球に送る。こうすると10兆円が生まれる。だから2基,3基作っていければ利益を生み出せるということになります。

 いろいろお話をしましたが,最後に2分間のCGの動画をつくりましたので,見ていただければと思います。私の話は以上です。皆さんどうもありがとうございました。

(スライド使用)