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2013年8月30日(金)第4,453回 例会

最近の金融経済情勢について

櫛 田  誠 希 君(中央銀行)

会 員 櫛 田  誠 希  (中央銀行)

1958年生まれ。’81年3月東京大学経済学部卒業後,同4月日本銀行入行。2009年3月総務人事局長,’10年6月企画局長,’13年3月から理事大阪支店長。同5月大阪RC入会。

デフレ脱却に向けて

 日本銀行は今年4 月,消費者物価上昇率で2 %の「物価安定の目標」を達成するために,2年程度の期間を一応念頭に置きながら,その間できるだけ早く実現すべく,これまでとは次元の違う金融緩和ということで,思い切った「量的・質的金融緩和」に踏み切りました。それから5 カ月近くがたちましたが,日本銀行が「量的・質的金融緩和」で目指しているデフレ脱却に向けての動きというのは,これまでのところは順調に来ているのではないかと思っております。
 もちろん「量的・質的金融緩和」の効果だけではありませんが,アベノミクスと呼ばれる3本の矢の政策のもとで,市場や人々の期待の変化を背景に,金融市場や企業・消費者のマインドが好転し,そうした金融市場の変化も受けまして,企業や家計のマインド,あるいは先行きに対する期待も好転してきている。まだまだその効果が十分浸透している段階ではありませんが,しかし徐々に経済物価情勢についても着実に対応してきている状況だろうと思っております。

持続的な経済回復へのプロセス

 持続的な経済の回復を展望するうえで,注目すべきプロセスをご説明したいと思います。1つ目は堅調な内需の持続性。今後も現在の堅調な内需が持続していくことが非常に重要でございます。現在,企業や家計のマインド面の改善が,所得の増加を伴った形で,持続的な支出活動につながっていくことが非常に大事でございます。現在,企業部門では,所得から支出へという前向きな循環メカニズムが徐々にあらわれ始めているかなと思っております。一方,家計部門では個人消費は現在順調に推移していると思っておりますが,雇用者所得の目立った改善があらわれているというわけではございません。雇用者所得が改善していないにも関わらず,今堅調だというのが実態だろうと思っております。
 2つ目は,予想物価上昇率の動向です。物価上昇率を決める主な要因は2つ。需給ギャップと中長期的な予想物価上昇率です。2%の「物価安定の目標」実現のためには両者がともに物価を押し上げる方向で働く必要があります。需給ギャップというのは景気が良くなり,需給が引き締まれば物価は上がるということです。日本経済が本当にデフレから脱却するうえで,より大きなポイントというのは,予想物価の上昇率の動向だろうと思っております。企業や家計は,投資や消費などの意思決定をする場合に,将来物価がどのくらい上がるかを暗黙のうちに想定しながらいろんな行動をとっているということでございます。たとえば先行き「物価が上がる」という見方が広がれば,企業はそれに合わせて製品・サービス価格を引き上げるでしょうし,賃金も引き上げられます。その結果,消費者物価も押し上げられることになります。
 3つ目は海外経済の動向です。海外経済の現状は全体としては緩やかに持ち直しているとは思っています。ただその動きは春先思っていたほどには弾みがつかず,緩慢だというのが現状。1 つの大きな要因は,中国が新政権に移行して,「質」重視の政策による影響。人々が思っていたのと実際に中国で起こっていることとのギャップということですが,その影響がある。また,アメリカ経済は確かに回復はしていますが,やはり財政管理法に基づく強制的な歳出削減の影響などもあります。いずれにせよ,中国,アメリカという超大国のある意味での財政政策,フィスカル・ドラッグが世界経済全体としては,真逆となっている面があります。先行きでは海外経済は緩やかに持ち直していく姿を想定しています。これは,中国経済が現状程度の成長率を安定的に維持する,8%には戻らないかもしれないが,7%台程度で安定的な政策運営を今後も続けると見られるもとで,米国が回復テンポを今後高めていくということと,欧州経済が底入れして,その後緩やかながらも持ち直していくということが見込まれるという先進国経済の改善が基本的な背景であります。

成長戦略と財政の信認確保

 4 つ目のポイントは政府の取り組みであります。「量的・質的金融緩和」自体はそれなりに強力な感じを持つ政策だと思って実施しているわけですが,やはり政府の様々な取り組みと相まってこそ最大限の効果を発揮するということだろうと思います。その意味で,成長戦略の着実な実行と財政の信認確保が不可欠です。3本の矢のアベノミクスの本旨は,1本,2本では折れる,どうしても3本が必要だということだろうと思っています。3 本あって,初めて強力な効果を発揮するということだろうと思います。日本銀行としても,非常に期待をしている。成長戦略の本旨は企業が成長率とか収益率を持続的に見通しを引き上げられることのできる環境整備をやるかどうかということだと思います。短期的に需要の先食いでは持続的な成長にはつながらない。日本全体の潜在成長率を上げるための,やはり成長期待を高めるものでないといけないということだと思います。
 最後に,日本銀行は,今国債を大量に買っています。これは金融政策のために買っているわけですが,やはり財政の信認確保というのは非常に重要でございます。これが崩れますと,やはり長期金利というのは需給要因だけで決まっているわけではありませんので,将来に対するいろんな不安をリスクプレミアムという格好で価格に織り込むわけですので,やはり日本銀行は金融緩和で金利を下げる方向で努力しているわけですが,その効果を打ち消してしまう可能性がある。そういう意味で,持続的な財政構造を確保するべく,政府にもしっかり頑張っていただきたいというのが日本銀行の思いであります。