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2013年8月9日(金)第4,451回 例会

新聞深読みセミナー

鈴 木  恒 雄 氏

読売新聞 東京本社
紙面審査委員会
委員長
鈴 木  恒 雄 

1978年早稲田大学政経学部卒業,同年読売新聞東京本社入社。水戸支局を経て,’83年整理部(現編成部)。編成部長,編集局次長などを経て’11年から新聞監査委員会(現紙面審査委員会)委員長。千葉商科大学講師。

新聞は同じではない

 参議院選挙投開票翌日の新聞をお見せします。読売新聞,朝日新聞,毎日新聞とも同じじゃないか。そう思われるでしょう。でも,朝日が読売,毎日と違うところがあります。見出しは読売「自公過半数ねじれ解消」,毎日「自民圧勝ねじれ解消」。ところが,朝日に「ねじれ」がありません。ケチをつけているわけじゃなくて,この新聞が違うという話です。

 朝日には1 面だけでなく,2 面から社会面までどこにも「ねじれ」という見出しはありません。文章の中には「ねじれが解消された」と書かれています。この日までに朝日は「ねじれは問題か」という社説を掲載しました。「ねじれ」は問題でないので見出しにする必要がないという展開です。「ねじれ」を見出しに取らないために,朝日の前文はやたら長く「自民党は一強体制を固めた」とか,「自公の巨大与党が誕生し,与党主導の国会運営がより強まることになりそうだ」と,余計なことがたくさん書いています。皆様が新聞を読まれる時で前文のとても長い場合は「何かわけがあるのではないか」と見ていただくといいのかなと思います。若い人はすぐ「新聞なんか一緒じゃないか」と言いますが,こんな大きな選挙,同じことが起きても新聞によって違うのです。

「輪転機を止めろ!」

 次に新聞はナマものという話をします。今まで国会がごたごたしたのは’07年に安倍さんが退陣したことから始まっています。その時の読売新聞をお見せします。新聞は締め切り時間に合わせて,版を変えています。東京に近い場所は締め切り時間が遅く,新鮮なニュースが載ります。東京本社の夕刊は茨城,栃木,群馬2 版,千葉や埼玉や神奈川3 版,都心4 版という新聞が配られています。

 2007年9 月12日午後0 時50分に「安倍さんが辞めると言ったらしい」という情報が来ました。夕刊は,午前11時,正午,午後1時が大体の締め切りです。要するに午後0 時50分は,神奈川,埼玉に配る新聞( 3 版)を作り終えて,印刷を始めたころです。私は当番の編成部長で,「輪転機を止めろ!」と止めたのです。輪転機は,1 分間に4,000部ぐらい刷れます。この紙を全部捨てるわけで,なかなか輪転機は止められません。3 版は大急ぎで作り直しましたが,「安倍首相辞意」という26行の原稿と写真が入っただけでした。4版は「安倍首相退陣」と全面的に変えました。1 時間半で1面の記事は大きく変わった。これが新聞作りです。4 版の原稿は「安倍首相は退陣する意向を固めて,与野党幹部らに伝えた」とありますが,新しい事実はこれだけです。あとは今までの経過が書かれているだけ。読売新聞社はこの2 行の原稿だけで新聞を作ったのです。

 ところで,菅首相の時代。「震災への対応に一定のめどがついた段階で退陣する意向を示唆した」との記事が載っています。すごく変な原稿です。安倍時代であれば,「首相が辞めると言ったらしいよ」でアウト。ところが菅さんは,わけのわからないことを言って翌日退陣を否定してします。新聞が非常に作りにくくなっているのです。

138年の歴史で最も大きな見出し

 3 つ目の話をします。2 年5 カ月前に,私は読売新聞の138年の歴史で最も大きな見出しをつけました。これは何かというと,もうご案内のとおり,「2011年3月11日2時46分」に発生した東日本大震災です。翌日の朝刊は「巨大地震」という見出し。それまでに一番大きかったのは,昭和天皇がお亡くなりになられた「天皇陛下崩御」の見出しでした。地震は,これより3 ミリほど大きい。

 さて,見出し作りの話をします。「あの日,何があったのだ」ということを伝えないといけません。それなら,まず「巨大地震」でしょう。そして,マグニチュードを入れないといけません。大津波,死者数,発生した地域なども必要です。

 読売の見出しは「東日本 巨大地震」ですが非常に変わっています。「巨大」という言葉は非常に形容詞的な言葉で,こういう見出しは新聞には普通ないのです。私はその時に「千年に一度の出来事だったら,千年に一度しかない変わった見出しをつけないとダメだ」と言って「巨大地震とつけろ」と言いました。各社はどうしたか。読売,毎日,日本経済新聞は「巨大地震」。つまり大地震じゃないのだと考えたのです。朝日新聞だけは「東日本大震災」でした。

 さて,宮城県の地元紙「河北新報」は,一番上の大きな見出しに「津波」とあります。宮城では今まで,何回も津波でひどい目に遭っています。揺れた瞬間,これは大変なことになるとわかったのでしょう。東京にいたら絶対つかない見出しです。

 読売新聞は震災から1 カ月たった時に,死んだ人の名前を載せると決めました。死者の名前を並べるだけで新聞が6 ページ埋まってしまう。これは驚くべきことです。一方,福島県の地元紙「福島民報」は,何10キロも離れたところから遺体が見つかった時,その人の特徴を伝えました。それから「石巻日日(ひび)新聞」の手書き新聞の話です。新聞社が水没してしまい,油性ペンで手書きの新聞を6 日間,6 ページを作りました( 7 日目からはモノクロ印刷)。これは新聞の鏡だというので,アメリカのミュージアムに飾ってあります。

 読売新聞と朝日新聞は違います。首相が辞めると言ってもニュースにならない変な時代になっています。そして,東日本大震災でも,東京と現地の新聞は違うのです。結論は新聞を「よろしく」ということ。皆さんは新聞をお読みになっているでしょうが,会社の方々に「新聞はこういうふうにやって読むとおもしろいよね」とお話しいただけたらと思います。

(スライドとともに)