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2013年3月15日(金)第4,431回 例会

美しいビルとは

江 副  敏 史 氏

(株)日建設計 フェロー役員 江 副  敏 史 

1957年大阪府生まれ。’80年京都大学工学部建築学科卒業,同年(株)日建設計入社。現在,日建設計フェロー役員デザインフェロー

 きょうのタイトル,「美しいビルとは」ということでございますが,私,建築・設計をしていますので,自己紹介を兼ねて,どういうものをやってきたかをざっとスライドで説明いたします。

 大阪ワールドトレードセンター。今は大阪府咲洲庁舎となっておりますが,現場に4年間通い詰めた思い出深い建物です。神戸国際会館。これで2,000席のホールを経験しましたが,この経験が兵庫県立芸術文化センターやフェスティバルホールの設計につながったと思っております。中之島フェスティバルタワー。昨年竣工して,来月いよいよフェスティバルホールが『フェーニチェの歌劇場』でオープンいたしますが,「継承と進化」をテーマに設計したものです。

 「美しいビルとは」ということですが,設計ではあまり用いない言葉です。美しいと言ってしまうと,クライアントさんから否定されるのが恐い。「こんなの美しいとは思わない」とか,「そもそも美しいものを設計してくれとは言ってない」と言われることもあって,われわれ設計者の心の中にしまっておく大事な言葉です。

人により基準が変わる美しさ

 しかし,今回,「美しい」ということを考えてみました。例えば女優のアン・ハサウェイさんはどうでしょうか。『プラダを着た悪魔』という映画でファンになったのですが,この人なら大体の人が美しいと言うんじゃないかと思うのですが,中には「口が大きいんじゃないか」とか,いやみっぽい言葉も出てくるかもしれない。

 非常に頭が小さくて手足が長い動物,「チーター」です。時速120キロという世界最速で,非常に骨格が美しく,ぜい肉が全くない美しい動物だと思っております。

 ストックホルムの市庁舎。これは私が一番美しいと感じている建物です。スウェーデンにあって,1923年の竣工ですから,約90年前にできた建物です。ノーベル賞の晩餐会が行われます。プロポーションとか,レンガの表面とか,非常に美しい建物ですが,これを御堂筋に建てるとしたら「似合わないね」という言葉が出てくるのじゃないかと思います。

 美しさというのは,人によっていろいろ基準が変わってくるということを示したものでございます。

「用・強・美」が三大要素

 視点を変え,建築とアートでは何が違うかということです。例えばコーヒー茶碗,これはもちろん建築ではないのですが,使われてこそ美しいという「用の美」の一つの事例だと考えています。

 兵庫県立芸術文化センターのロビーに飾ってある安田侃(かん)さんのブロンズの彫刻です。安田侃さんの彫刻は全国いろんなところにありますが,建物とのマッチングでは,ここに置かれているこの作品が一番美しいんじゃないかなと思っております。要するにアートというのは建築の中にあることです。

 視点の3番目ですが,われわれが大学に入ったときにまず教わるのが,「用・強・美」という言葉です。これはローマ時代のウィトルウィウスという建築家が提唱したもので,建築が有すべき三大要素として,機能の用,構造の強,美しさの美の3つがあって,「強」がなければ「用」が果たせない,「強と用」がなければ「美」は形だけのもの,そして「美」がなければ建築とは言えない,そういう言葉です。

 先ほど申しました「用」の中にも「用の美」があり,「強」の中にも「構造の美」があって,「美」というのはさらに「時を重ねていく美しさ」じゃないかと考えております。「用・強・美」になぞらえて,建築の美しさというのはこういうふうに考えました。

 私がレンガを採用するのは,文明の始まりから人々の生活を守ってきた歴史ある建材であるということと,メンテナンスフリーであるし,積み上げるため落下の心配がない,断熱性が高い,コンクリートを守ることで耐久性を高めるということがありますが,何よりも無垢な素材,新建材では得られない,汚れても,一部が欠けても,出る味わいと深みを持っている素材だと思うからです。

継承しながら,さらに発展

 ここでフェスティバルタワーの紹介をさせていただきます。延べ床が14万6,000平米,最高部の高さが200メーター,構造の特徴は中間層で免震していることです。この建物のテーマは「継承と進化」と考えまして,記憶を受け継ぎ未来につなげるということです。フェスティバルホールの壁面にあった「牧神,音楽を楽しむの図」というレリーフは,そのままつくり直して,新しいホールに採用しております。

 この建物の「用の美」ですが,フェスティバルタワーの一番大きな用途は何と言ってもフェスティバルホールです。2,000席の客席,それから旧ホールの特徴を継承したということで,客席との一体感,プロセニアン(舞台の額縁)の間口の30メーター,こういうものは受け継いでいくということで,さらに騒音対策,音響面は進化させています。

 内観ですが,壁の模様,天井は旧ホールのデザインを踏襲しています。音響などは現代の設計技術を用いて,より反射が客席の中央に集まってくるように計画されて,継承しながらもさらに発展していくというコンセプトを貫いております。

 最後になりますが,われわれ設計をするときにクライアントから「こういうようにしたい」という条件書をいただくわけですが,ぜひこれからはその条件の中に「美しいビルとする」という設計要件をいただければ,設計者は大変喜ぶと思います。

 以上でございます。どうもありがとうございました。