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2012年6月15日(金)第4,397回 例会

われわれの宇宙の成り立ち

髙 杉  英 一 君(教育研究機関管理)

不二製油(株)フードサイエンス研究所
副所長
髙 杉  英 一  (教育研究機関管理)

1945年岡山県生まれ。’68年大阪大学理学部卒業。’70年東京大学修士,’75年メリーランド大学博士(Ph.D)。米国での研究員を経て’80年より大阪大学。’89年大阪大学教授。’04年大学教育実践センター長,’07年大阪大学理事・副学長,’11年退職。現在,大阪大学招聘教授,名誉教授,京都産業大学益川塾学外教授。’08年1月当クラブ入会。

 多分皆様は日ごろ浮世のことでお悩みだろうと思いますので,時に宇宙のことを考えれば頭がすっきりするのではないかと期待しています。(スライドとともに)

アインシュタインの考え

 137億年前に我々の宇宙は泡ぶくができて,その泡ぶくが急激に膨張した。それをインフレーションと呼んでいます。非常に短い時間の間に10のマイナス34乗センチというぐらいのスケールが1センチまで大きくなった。宇宙ができて,大体10のマイナス25乗秒というほんのわずかな後にビッグバンが起きます。火の玉みたいなのができ,それが今も膨張しています。

 この宇宙の理論はアインシュタインから始まります。1915年の「一般相対論」。翌年,アインシュタインは方程式に表しました。「宇宙方程式」です。ところが計算してみると,宇宙は膨張するか,またはつぶれる,という解が見つかったんです。アインシュタインを含め,当時の科学者は宇宙は静的と思っていました。17年,修正してΛ(ラムダ)を加え,それを「宇宙項」と言います。物質と宇宙項の間で微妙なつり合いをして,静止宇宙を考えようとしたのです。しかし,何かがあるとすぐに宇宙は膨張していくことがわかりました。

 29年,ハッブルが宇宙が膨張していることを発見しました。地球から遠くの銀河を見ると,地球からの距離に比例した速度で地球から遠ざかっていることがわかったのです。31年,アインシュタインは人生最大の過ちだったと,Λ(ラムダ)を消去して,もとの宇宙方程式に戻ります。膨張とはゴムの風船にいっぱい銀河を描いて,ふくらませると,銀河同士が広がっていくのと全く同じで,そんな状況が三次元で起こっているというのが説明になります。しかし2000年ごろ,実はアインシュタインの考えた2番目の方程式のほうがよかった,ということが出てきます。

ダークエネルギーの存在

 我々は過去を見ることができます。光速は一定なので,星や銀河がどんな運動をしていようと,そこから出てくる光は同じ速度です。地球から1億光年向こうにある星から来る光を見たら,1億年前に出た光だということがわかるわけです。遠くのものを見るということは,過去を見るということです。

 どこまで過去を見ることができるか。それは,光が直進できるようになったところまでしか見られません。宇宙が誕生してから30万年たったとき,熱や密度がある程度まで落ち着く「晴れ上がり」の状態になり,光が直進できるようになりました。光が直進でき,初めて地球までたどり着きます。

 次に現在の様子を調べるため,望遠鏡で観測すると,宇宙の大規模構造,つまり奥まで見えるようになり,星が全然ないところ,かたまっているところ,言うならば蜂の巣のような構造をしていることがわかりました。銀河間がまんべんにあるのではなく,特徴的な集まり方をして宇宙はできているのです。

 大規模構造のシミュレーションしたところ,次のようなことがわかりました。太陽とかは光る星ですが,そういう光る物質を集めたものが宇宙の組成の約4%。ダークマターという光らない物質,典型的には黒色矮星などが23%。これはまだよくわからない。ダークマターサーチと言うのですが,まだ見つかっていません。残りの70%がダークエネルギーという摩訶不思議なものになっています。ダークエネルギーとは,先ほどのアインシュタインの方程式の宇宙項が,実はダークエネルギーに対応しています。

宇宙は一つだけか

 宇宙を調べていると,ときにこんな質問を受けます。「137億年前に時間があったのですか」。「その前にも宇宙はあったのですか」。そこで,もし137億年前に宇宙ができて,それから時間ができて,現在につながっているということだけしかないとしたら,それは絶対時間と呼ばれるものになります。

 泡ぶくができて成長していった過程,これは旧約聖書に書かれている我々の宇宙のでき方とよく似ています。旧約聖書は「1日目は,原始の海の表面に混沌とした暗闇がある中,神は光をつくり,昼と夜ができた」。神が光をつくるのというのは,先ほどの「宇宙の晴れ上がり」です。それまでは,光は直進できず,混沌として閉じ込められていたのです。旧約聖書のストーリーと,現在考えている宇宙の歴史は,よく似ています。

 旧約聖書の話は,我々の一つの宇宙だけを考えています。きょう私が「我々の宇宙」と言ったのは「他に宇宙はないのか」という問いは当然出るわけです。137億年より前にも時間,宇宙もあったのではないかという考え方になります。これは仏教的宇宙観,「マルチユニバース」という考え方です。こういう考え方をすると,逆に時間は大昔からあり,これから先もあるという話になります。

 そうすると,時間は悠久に続く,宇宙は生まれたり消えたり,いたるところでやっている。その中の一つが我々の宇宙だと考えることもできます。どっちがいいかという話になるんですが,一つしかないより,宇宙はたくさんあったほうがいいかなと個人的には思っています。ひょっとしたら将来,我々の宇宙とよその宇宙が衝突して,どこかで大きなことを起こすかもしれない。我々の宇宙しかなければ,これからも加速膨張しっ放しで,どんどん広がり,我々の銀河の外にはほとんど何もなくなるというような状況になります。宇宙が多くあると夢があって,面白い天体ショーも見られるかもしれません。