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2012年2月17日(金)第4,382回 例会

新しい消費者
~日本と米国の事象を振り返りながら

杉 目    大 サーシャ ロバートソン 

(株)電通 関西支社
コミュニケーションプランナー
杉 目    大 
サーシャ ロバートソン 

【杉目 大氏】大分県別府市出身。東京大学経済学部卒業。1995年電通入社。インド,インドネシアなどアジアを中心とした案件に関わる。
【サーシャ ロバートソン氏】ニューヨーク市生まれ。Colgate大学(心理学,人類学専攻)卒業後,NPO法人で,低所得者家庭の7~17歳の女子を対象にした活動を組織。2011年より現職。

 「新しい消費者」ということで,日本とアメリカの幾つかの事象を振り返りながら見ていきたいと思います。(映像とともに)

消費動向の変化

 1960年から75年ぐらいにかけ,洗濯機・エアコンなどが普及します。当時の一般的な幸せ感は,きょうよりも明日のほうが豊かになる。それも家族が土台となった消費が中心でした。80年代に入ると「家族消費」から,「ブランド消費」になります。家族で持つべきモノが手に入り,次は自分のライフスタイルを体現するモノを求めます。社会学者ジグムント・バウマンは「幸福を生み出すと期待される商品を買い,消費することが,近代資本主義社会の幸福の基本である」と言っています。家族消費にしろ,ブランド消費にしろ,それによって自分が望む幸せが手に入るということがベースになっていました。  90年代になるとGDPが停滞し,少子高齢化が加速します。不安定な形の雇用形態が台頭して個人収入も頭打ちになり,中間層が減る両極化が起きます。さらに温暖化など環境問題も進行します。それに伴い,「老後の生活」,「健康」といったことが,悩み,不安として出てくる。今後の見通しも「悪くなっていく」と思う人が,2000年ぐらいから急激に増加します。  背景には「少子高齢化」,「グローバル化」,「ポスト工業化」,「環境悪化」の四つ大きな要因がある。少子高齢化で財政悪化,社会保障が期待できない。今後の経済に希望が持てず,モノを買えない。グローバル化で雇用もどうなるかわからない。ポスト工業化で,モノは あふれている。環境悪化で,モノばかり買っていたら環境によくない,ということで,消費への態度が昔に比べて保守的にならざるを得ない局面に来ています。

これからのマーケティング

 とは言え,経済は回っていかねばなりません。今後,どういったアプローチが有望でしょうか。一つ,増加するシニア層,また,人口は少ないですが,より手厚くする子ども層や,単身層へのアプローチをかけるやり方が,基本としてあります。さらに,成長を期待できる市場としては環境・医療・観光・インフラ・新興国も有望性があります。  ただ,やはり消費者の方の消費マインドもかなり減ってきているという中で,その人たちにミートするやり方も一緒に考えねばなりません。そこに出てくるのは「幸せ感」です。最近の調査では「幸せってどう思いますか」と聞くと,「少しずつでも生活を向上させ,より豊かな生活を送る」が21%なのに対し,「生活が向上しなくても,自分なりの幸せを見つければそれでいい」が50%と圧倒的に多い。「自分なりの幸せ」がテーマになっています。  幾つかポイントを挙げると,「楽しく節約」。経済の厳しい中で,頭を使い,自分なりに楽しい生活ができるということです。また,環境にいいモノを買えば社会にとってもいいという「循環負荷低減」。「共有」は,最近見ず知らずの人と一緒に住むというトレンドが出てきていますが,全く新しい人とのつながり方というのが出てきている。四つ目は「創作,育成」です。野菜の自家栽培や,AKB48もそうだと思うのですが,自分が育てていく喜びがあります。「自分仕様」,いわゆる自分だけのものも重視しています。  共通しているのは,限られたお金の中で「自分の頭で考える」,「自分で体験する」,「自分で育てる」,「自分だけのモノを見つける」といったマイストーリーを提供することができれば,関係というのはつくられていくのではないでしょうか。

生活者とともに。米国の例から

 米国も06年ぐらいまで,とにかく消費重視 だったのですが,住宅バブルの崩壊から始まり,景気が後退し,リーマンショックも起きました。米国消費者のマインドは大きく変わりました。とにかく自分を頼るしかない。大企業への不信感が出てきている。環境意識も高まっています。未来に対する不安感から来るもっと自分で考えていかなきゃいけない,というところが非常に出てきています。  キーワードとしては,「企業,商品が信用できるか」ということと,「本当にそれが価値があるものかどうなのか」,「つながり,コミュニティーが持てるかどうか」。これらにうまく対応した事例を紹介します。  米国の自動車業界は不況で危機的状況になりました。フォードももちろん,消費者から非常に不信感の目で見られていました。ただ,そこでソーシャルメディアを使い消費者と一体となって新しい車をつくろう,消費者にそれほどお金がなくても満足できるものをつくろうと,一緒にプロジェクトを実行しました。  「フィエスタ」という車は,5万人に試作車を提供されました。その意見,いいこと,悪いことすべてがホームページに出ています。それをベースにして車を開発しました。環境にいい,安い,燃費がいい,デザインがいいなどもありますが,非常に人気を得ています。特に20,30代の若い人たちに人気を得て大ヒットしたという事例です。 (サーシャ・ロバートソン氏による英語での報告あり)  現在は非常に厳しい経済状況ですが,ひとつのヒントがこのフォードの例にあると考えています。新しいターゲットへのマーケティングは当然やっていかねばなりませんし,ライバル企業とも戦っていかねばなりませんが,もうひとつ,生活者と一緒につくっていくという視点が必要です。日本ではまだ出ていませんが,米国では見られるようになってきたので,今後も注目したいと思います。