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2011年1月28日(金)第4,335回 例会

Do you know "能" ?

山 本  章 弘 氏

会員 山 本  章 弘 

1960年生まれ。観世流シテ方。幼少より父,故山本眞義に師事し’83年故25世宗家観世左近に入門。’88年独立。現在26世宗家観世清和に師事。(社)能楽協会大阪支部常議員。重要無形文化財保持者総合指定。日本能楽会々員。関西大学文学部卒業。関西大学及び大阪樟蔭女子大学能楽部講師。観世流発祥の地・奈良県結崎にある結崎小学校の総合学習能楽講師の他,子ども達への能楽普及に努める。大阪文化祭奨励賞,なにわ大賞大阪21世紀協会賞などを受賞。当クラブ入会2009年12月。

 能楽について「難しく,見ていると眠くなる」とよく言われます。能のセリフである「謡」の文句が難しいのは室町時代につくられた作品のそのままの言葉を使っているからです。発声の仕方も昔のままです。  能は「能楽堂」で演じられます。どこの能楽堂でも後ろの絵は「松」です。「常盤木,常緑樹に神が宿る」と日本人は思っており,神様の前で舞い,唄う名残りです。あの松を「鏡板(かがみいた)」と言います。舞台正面の松を映し出しているということです。
 能には視覚的な補助が乏しいので,見ていてだんだん退屈してくるわけです。眠くなる理由の1つは聞こえてくる音楽が西洋音楽ではないことがあります。私たちは小さい時から「ドレミファソラシド」と習ってきて,邦楽は非日常の音楽になってしまいました。非日常の音楽を聴くと,心地よくなるのです。
 謡い出す第一声が西洋音楽と全く違います。音合わせは一切しません。役者,例えば私がどんな高さで謡うかによって,他の人が全部合わせていきます。音符に合わせて歌うということはありません。
 「能面」を持ってまいりました。「小面(こおもて)」は10代の若い女性で,「若女」は20代です。「小面」はちょっとぽっちゃり太っていて,「若女」のほうが少しスリムです。「深井」は30代の母親の顔で,やせています。
 非常に有名な能面に「般若」があります。髪の毛がぐちゃぐちゃになっていますが,これは女性の鬼です。女性の執念,執心を表し,爆発するのです。目は嫉妬心です。イライラすると,だんだん上あごと下あごのかみ合わせが悪くなってしゃべりにくくなりますね。
そういう状態です。爆発すると角が生えますので,お嫁に行く時に「角隠し」をするのはそういう意味です。

伊藤会長がモデルに

 今日は,伊藤勲会長にコスプレをしていただこうと思います。
 (伊藤会長,金屏風の前へ)
 最初に着ていただく白いのは「胴着」で,中に綿が入っています。能衣装は大きくつくられていますので,それを体にフィットしやすいように綿入れのものを着ます。次は「襟」。着物では襦袢と一体になっていますが,能衣装の襟は「胴着」とは別になっています。
 次に「胸箔(むねはく)」という金色のものを着ます。これには袖がありません。能衣装は2名ないし3名で着付けをします。

髪は馬のしっぽ

 ここで「鬘(かずら)」を使います。「かつら」でなくて「かずら」です。歌舞伎などのカツラは役者の頭に合わせてつくられますが,能の場合は毎回,役者の頭に合わせて結っています。ひもで結んで髪をときます。この髪は馬のしっぽでできています。
 会長には「唐織(からおり)」を着て,女性に扮装していただきます。「唐織」は全て,オーダーメイドの西陣織です。これは「熨斗付け」というオーソドックスな着付けです。お中元やお歳暮のときの熨斗の形になっています。
 「鬘帯(かずらおび)」というヘアバンドみたいなものを結んで能面をつけていただければ出来上がりです。ここまでで10~15分かかります。能面をつけない状態のことを「直面(ひためん)」と言います。
 「若女」の面をつけて,20代の女性に変身していただきます。能面はひもが通っている所しか触りません。能面の作者,大事に使ってくれた先人,宿っている魂に一礼をして能面をかけます。
 会長にお聞きします。目の穴が2つ開いていますが,中からご覧になったらいくつに見えますか?
 (会長,「1つ」と指で答える)
 はい,1つになるのです。双眼鏡でもそうですが,2つの穴が開いていても利き目で見ると,1つになってしまいます。このため,距離感が取りにくくなります。そのために能舞台には柱があるわけです。柱で距離と方向を測っているのです。
 われわれは1時間半,こういう状態でおります。われわれの日々の苦痛を感じていただけたらと思います。「能面のように無表情だ」と言ったりしますが,能面はちょっと下向けたり,上向けるだけで表情が変わります。脱ぐのはアッという間です。後半の衣装に早く着替えないといけませんので,たった2本のひもで結んでいるわけです。

謡のコツは「おーい」

 能を楽しく見ていただくコツは難しいスポーツの観戦と同じで,習うことです。謡をワンフレーズだけお稽古させていただこうと思います。「猩々(しょうじょう)」という謡を謡います。皆さんには「猩々」の最後のところ,「尽きせぬ宿こそ。めでたけれ」を覚えていただきたいと思います。どんな声を出すかと言うと,遠くに向かって「おーい」という時の声です。それで「尽きせぬ宿こそ。めでたけれ」と言えばいいだけです。ロータリーソングに「尽きせぬ宿こそ。めでたけれ」を入れていただきたいということを私のお願いとしまして,卓話を終わらせていただきます。