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2009年6月19日(金)第4,259回 例会

最近の医療崩壊はなぜ起こったか

松 田   暉 君(外科医)

会 員 松 田   暉  (外科医)

1941年札幌市生まれ。’66年大阪大学医学部卒業,’80年医学博士学位授与。’67年大阪大学医学部第一外科入局後,助手を経て’91年教授,’02~’04年大阪大学付属病院長(大阪大学名誉教授)。’05年兵庫医科大学理事・同循環器外科客員教授。’07年兵庫医療大学学長,現在に至る。臓器移植対策及び普及啓発への功績で厚生労働大臣表彰や,日本心臓病学会栄誉賞など数々の賞を受賞。また多くの学会役員や委員などを務める。当クラブ入会’92年。健康を守る会委員長やS.A.A.などを務める。

 きのう衆議院で移植法A案が通りました。1999年2月,10年前ですが,大変喧騒の中で再開の最初の移植を私が担当になりました。それ以来,心臓移植が60数人,臓器提供が80人ですので,年間10人ぐらいしかできていませんし,子どもは日本ではできません。もともとは3年で法律を見直すはずだったのですが,WHOから移植は国内でまかないなさいと言われ,やっと重い腰を上げた次第です。

国際水準に進むかを審議

 A案は脳死は人の死という考えです。今の法律も,臓器移植には限るけれども脳死を人の死と認めていこうというところまで来ています。欧米の標準に近づけようというところです。本来は,いまの法律でやった臓器移植がどうだったか,何か問題があったのか,そこをはっきりして次のステップに行くのですが,脳死判定で問題になったこともないのに逆戻りするような修正案が出てくるのは全く理解ができない。つまり問題の本質は,A案という国際的な水準に進めるかどうかを審議をすべきなんです。ところがB,C,Dという案が出てくることが,そもそもおかしい。やっぱり臓器移植は日本でも進めないといけないという本質を,ぜひご理解いただきたい。

医療崩壊の大半は医師不足

 では本来のテーマの医療崩壊に戻ります。つい最近,泉大津市民病院で院長・内科医が辞めるという記事が出ました。病院維持が大変なので,恐らく病院長を名誉院長にして体制を立て直そうとしたと思うのですが,ここで市長と現場医師との関係が切れた。一般の勤務医は非常に過酷なので,ちょっときっかけがあると「立ち去り」現象になります。

 医療崩壊というのは,医師不足がほとんどを占めるようです。新臨床研修制度が引き金になったのは事実です。もう1つは自治体病院が大変経営危機でして,そこから医師がどんどん立ち去っていく。これらが医療崩壊の2つの柱と言えると思います。

 ここで,日本の医療が国際的にどうなっているのかという国際比較と専門医制度とは関係していますので,日本の医療提供制度の国際比較をしておきます。

 医療費がGDPに占める割合は日本はやっと8%を超えましたが,OECDの中では平均以下で先進国に比べたら少ないです。イギリスはもっと悪かったのですが8.4%。日本も7.7~7.8から上がったのですが,実は分母の方の総生産が減ってます。見かけ上はパーセントは増えてますが,医療費に使う30数兆円は国際的にも少ないままです。

 医師も1,000人当たり2人と少ないです。これも医師を増やすと医療費が上がると20~30年ぐらいずっと減らされて,やっと増やそうとしています。

 医療施設のマンパワーですが,アメリカのアイオワ大学はベッド数が830,某国立大学は大体ベッド数1,000前後,県立病院はベッド数800ぐらいです。そこに働く職員は,アイオワ大学は7,200人,某国立大学は1,200人,阪大でも1,500人,県立病院になると800人です。年間手術はアイオワ大学は6万件の手術をしているが,国立大学では6,000~7,000件,県立病院は5,000件です。これも,日本で集約化が言われるゆえんです。

医療には高いコストが必要

 大学医局は若い人を呼び込んで修練しながらいろんな病院に派遣していました。ところが新臨床研修制度で自由にいろんなところに行くので,大学に行くのは半分ぐらいに減りました。大学は雑用が多く,あまり臨床のことを教えてくれないから不人気で,多くの卒業生が出ていったわけです。

 学生教育は大学でやるので,卒業しても大学の医局が医師の配置もやっていた。それを厚労省は,医師になったら私たちがめんどうを見るはずやと,新臨床研修制度を導入したんです。大学から人を外に出すという趣旨は見事に成功しました。文科省と厚労省がお互いの縄張りや,権益をコントロールしたがっているわけですが,もっと歩み寄らないと日本の医療は一貫した教育ができない。

 女性医師が多いのも問題です。普通に入学試験をやると女性のほうが成績がいいので,どんどん女性が増える。ところが女性はなかなか外科に行かない。残りの(男子学生の)10%も外科に行きません。

 専門医制度というのがありまして,米国では計画配置,日本では自由制。日本は自由主義なんで,皆好きなところに行くんです。何科医は何人と法律で決めるわけにいきませんが,その科に行くためのトレーニングのプログラムを決めて,ある程度定員制にすれば偏りを一部直せると思うのです。ところが,各学会がエゴを通すのでなかなか難しい。

 根本的に日本はずっと医療費亡国論で来たのですが,やっぱり医療はお金がかかるんです。今後は医療費をどう増やすかをやっていただき,医療界はその処遇を改善しながらやれることをやるべきだと思います。

 財政基盤が崩れている状況では,どこでも・いつでも・最高の医療を受けられるという環境が困難になってきました。医療には高いコストがかかることをご理解いただきたいということ,そして自分勝手な受診や注文で医療現場を疲れさせないでほしいこと,医療は社会の共有する資源であるということ,何でも大学病院,ナショナルセンターというのは困るので身近に行けるところに行ってほしい,こういうことです。