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2009年4月24日(金)第4,252回 例会

教育をめぐる困難な問題

佐 川  泰 宏 君(研究・教育)

会 員 佐 川  泰 宏  (研究・教育)

1970年関西学院大学文学部仏文学科卒業。(株)東京アカデミー(公務員試験,教員採用試験,看護師等各種国家試験合格の為の予備校を全国32ヵ所)入社。’88年同社代表取締役・理事長に就任。(株)ティーエーネットワーク(教材・模擬試験制作,試験データ収集およびデータ処理),大東廣告(株)(広告代理業),七賢出版(株)(出版物の作成および販売),テレコムスタッフ(株)(映像制作,主な番組「世界の車窓から」「最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学」等)の代表取締役社長を兼務。

 経済政策で失敗して崩壊した内閣はいっぱいあるかもしれませんが,教育政策に失敗して崩壊した内閣は1つもありません。教育問題は,とんでもないことをやったところで,それがわかるのに大体5年から10年ぐらいかかるんです。その間に総理大臣が5~6人代わっておりますから,その政策を誰がやったのか誰も覚えてない。教育には,大体そういう性格がございます。

学力低下が一番の問題

 教育の問題はいろいろあるでしょう。いじめ,落ちこぼれ,モンスターペアレンツ,学級崩壊等ございますが,一番大きな問題は学力の低下だと思います。学力とは,今日のところは簡単に「皆が勉強をしなくなった」と考えていただければ結構です。『坂の上の雲』という小説がございます。司馬遼太郎さんの原作で,秋山好古・真之兄弟の物語でございます。そこで母親が秋山兄弟に言うんです。「お前たち,貧乏がいやなら勉強しなさい」と。実はこの言葉,明治時代を語るには一番欠かせない言葉かもしれません。それまでは身分制がありましたが,明治時代になって「四民平等」。同じスタートラインに立てば,努力した方が勝ちだとなった。このパワーこそが明治を動かし,欧米に日本を短期間でキャッチアップさせた原動力ではないかと思います。そういった気風は,私ども,団塊の世代までは,若干残っていたかもしれません。私は小学校のとき「日本のように資源のない国では,とにかく皆勉強して,汗水たらして働かなきゃ生きていけないんだ」と言われました。『風とともに去りぬ』という映画がございます。アイルランドのつかの間の繁栄が風とともに去った,ということでしょうが,では明治以降の日本を支えた学力は,何とともに去ったのでしょう。 一般に,学力低下の原因は「ゆとり教育」だと言われております。文科省はそのような見解のもとに学習指導要領を2011年,12年,13年,小・中・高と順番に変えていきます。授業時間が大体1割ぐらい増え,授業内容ももっと増えるということです。それで学力の低下は止まるのかというと疑問に思います。私は,学力が低下したのは,大学を増やしたことにあると思います。団塊の世代の大学進学率は20%,もう少し前は大体10%で,今は53%です。高校に入るのが96%なので,半分以上が大学に行く。ここにほとんどハードルがないのが問題ではないかと思います。

大学数や定員を減らすべき

 1990年の大学の数は500,今は765です。20年間で大学の数は5割増えている。逆に18歳人口は20年前は205万人,今は124万人と4割減っている。おかしな話です。大学の数を減らす,定員を減らす必要があると思います。3月に解散したら4年生はセーフでしょうが,1・2・3年生が残ってしまう。新しい学生を入れずにいたら赤字が膨らむので大学は閉じられない。こういう分野こそ補助金を入れて赤字が増えないようにする,あるいは合併する。こうして10年,20年ぐらいかけて定員を半分に減らすべきだと考えております。進学率は30数%まで落ちるでしょうが,大学に行かない分,若年労働者が増えるという効果もあると思います。これを私は「大学減反政策」と呼んでおります。

 仕事で小・中・高の教員採用試験を見ておりますと2つ問題があります。1つ。『二十四の瞳』という映画がございました。小豆島の寒村に新しい大石先生が行くわけです。当時はたいがい先生の方が親より学歴が高かったから若い先生でも立ててくれる。それで子どもも先生を立てるようになる。残念ながら今は逆です。ひょっとしたら親の方が学歴が高く,年上だったりするので先生を見下すわけです。それが子どもに伝染する。モンスターペアレンツ,モンスターチルドレンの原因はその辺にあるんじゃないかと思います。

 もう1つ。教員人気が下がっております。2000年のデータでは小学校の競争率が12倍,去年は4倍で急降下している。しかも大都市部では2倍ちょっと。教育委員会は社会人採用を増やそうとしていますが,そう簡単には増えません。教員免許が前提になっているからです。大学時代に免許をとらなかったけれど,社会人になってから先生になりたいという人は山ほどいます。本当に先生にふさわしいかどうかは試験で試せばいいわけです。免許を持たない人を採用の対象にすることで先生の構造が大きく変わります。

教科書すべてに振り仮名を

 最後に,非常に小さいことを言います。分数ができない大学生が多いとか言いますが,本当に怖いのは漢字を読めないことです。漢字は表意文字ですから,何となくわかるんです。本当にわからなければ勉強しようかという気になりますが,何となくわかるから放っておくんです。今の若い人は携帯を持っていますし,電子辞書もあります。「読み」さえわかれば意味はとれます。ですから,教科書のすべてに振り仮名をつけたらいいと思います。それが学力アップのための一番基礎の基礎だと思います。

 日本の社会は,坂を上り切ったわけではなく,坂の上には雲が見えています。風とともに去っては困ります。教育は国の将来を決める大事な要素でございます。いくら困難でも,できることから,小さいことからやっていかなければならないと思います。